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【Vol.3】女性アスリートは、低用量ピルを上手に活用しよう

【Vol.3】女性アスリートは、低用量ピルを上手に活用しよう

日本のスポーツ界において、女性の月経に関する知識とノウハウの不足は、とても大きな問題だと思います。

先日、人づてで、ある女子オリンピック選手の現状についてお話をうかがう機会がありました。その選手は月経中のトレーニングや試合に関しては、「つらくて当たり前。根性で耐える」という認識。ピルの服用で月経コントロールが可能であることすら、認識をしていなかったそうです。

厳しいトレーニングをこなし、4年をかけて入念に準備してきたのに、大事なオリンピックの試合の日に生理が来て、ベストパフォーマンスができなかった。そんな選手が、この競技では今まで数多くいたと思われます。

これが、今の日本のスポーツ界の現状です。その要因の一つとして、多くのスポーツ競技が男性中心で発展してきたことが挙げられます。

競技種目にもよりますが、男子の世界でトップだった方が代表の指導者となり、女子も統括する立場になるケースが多くあります。

彼らが女性の月経について詳しい知識を持たぬまま指導をすることは、大きな弊害となり得ます。そしてそのような方には、女子選手は自らの生理に関する悩みを、なかなか面と向かって話せないものです。

また、ほぼすべてのスポーツには統括する協会、連盟といった組織があり、それぞれに担当のスポーツドクターがいらっしゃいます。しかし、スポーツドクターは当然、整形外科を専門とするドクターが多く、日本のスポーツ界全体としての女性アスリートの月経に関するノウハウ共有が十分とは言えない状況と考えられます。

私は生理痛などの症状があるアスリートの方に対しては、上手に低用量ピルを使うことをお勧めしています。ピルを使えば、生理痛で困る、生理前にいらつく、むくむ、体重が増える、気持ちがブルーになる、頭が痛い、といった症状をずいぶん緩和することができます。また、試合当日を月経期から外すことができ、コンディションの調整にも非常に効果的です。

そして前回のコラムでも書きましたが、世界的にいえば、ピルを使っている女性アスリートは約40%に上ります。しかも、その分母の中には、生理が止まっている人が含まれているのに、です。(※マラソンやフィギュア、新体操などには、一定期間、生理が止まっている選手がいる。過度のトレーニングにより脂肪が減り、エストロゲンが作られず生理が止まった状態になっている)その現状を考えると、生理がありつつピルを服用している選手の割合は、世界では50%近くなると思われます。

しかしJISS(国立スポーツ科学センター)に通う700人の女性アスリートにアンケートを取った結果、ピルで月経をコントロールしている選手はたった2%だけでした。

日本の場合、女子選手が月経についての正しい知識を得ようと考えた時、雑誌やインターネットなどのメディアから自分で情報を得る、または競技の先輩から教えてもらうぐらいしか、現状では方法がありません。でも、競技の先輩による耳学問は、ノウハウのない競技では「自分も耐えたからお前も耐えろ」ということになりがちです。

ですから、例えばシーズンイン後、毎週末に試合があるとします。その場合、生理をコントロールしないと、4週間に一度「捨て試合」が生まれてしまう可能性がある。これは、非常に困ります。

生理期間は平均6~7日といわれていますが、そのうちで最もつらいのは2~3日間です。ピルを上手く使えば、その一番つらい時期が月曜~水曜に来て、生理後の調子のいい時期に試合ができるよう、コントロールすることが可能になります。特に減量の必要がないスポーツであれば、コンスタントに生理が来る選手が多い。そういった選手ならば、ピルを服用することは非常に有効だと思います。

日本では「生理はずらすことができる」という認識は、まだまだ広まっていないのが実情です。「ピル=避妊用=悪いことに使う」というお母さん世代の倫理観や副作用の恐れが、ピルの普及の大きな妨げになっています。しかし現在、日本の婦人科で処方されるピルはドーピング検査にも問題はありませんし、副作用がなるべく出ないようにどんどん改良されています。

ただし、ピルの服用には血栓症のリスクがある、ということは知っておいて下さい。

  • (1)35歳以上である。
  • (2)タバコを1日15本以上吸う。
  • (3)家族に心筋梗塞、脳梗塞にかかった人がいる。

この3つのどれかが考えられる人は、注意して下さい。

そして、もしも今まで感じたことのない頭痛や足の把握痛(ふくらはぎを握った時の痛み)を感じたら、すぐに病院へ行くこと。その際、ピルの服用について必ず医師に話して下さい。 大切なのは、ピルを服用することで得られる恩恵と、そこにあるリスクをきちんと天秤にかけて考えることです。

日本のスポーツの発展を考えると、ぜひ、指導者の方には意識を変えていただきたい。そして何より、選手自身が正しい知識を得てほしいと思います。


高尾 美穂
産婦人科専門医・医学博士・株式会社ドーム委託契約医師。
東京慈恵会医科大学産婦人科大学院、慈恵医大付属病院産婦人科勤務を経て、2011年10月より株式会社ドームの委託契約医師に。
また、日本マタニティヨーガ協会マタニティヨーガ指導資格を持つyoginiでもある。

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