競技パフォーマンスUP

栗原 嵩(アメリカンフットボール)Vol.5「驚異のアスリート  栗原嵩」

栗原 嵩(アメリカンフットボール)Vol.5
「驚異のアスリート  栗原嵩」

DESIRE TO EVOLUTION

競技パフォーマンスUP

栗原 嵩(アメリカンフットボール)Vol.5「驚異のアスリート  栗原嵩」

栗原 嵩(アメリカンフットボール)Vol.5
「驚異のアスリート  栗原嵩」

「こいつは本物だ!」
NFLボルチモア・レイブンズのルーキーキャンプで栗原の活躍を見た安田の全身に、稲妻のような衝撃が走った...

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

栗原は安田の大学の後輩。NFLヨーロッパでのコーチ経験もあり、世界のフットボールのレベルを熟知する安田にとって、「NFLに挑戦したい」という後輩の希望は、「叶えてやりたいけど、無理だろうな。せめて思い出作りさせてやれれば...」と実現の可能性が微塵も感じられないものであった。
「せめて思い出作り...」ではあったが、幸いにも米UNDER ARMOURブランドを取り扱う(株)ドームの社長である安田は、UNDER ARMOUR社と強い関係のあるボルチモア・レイブンズのルーキーキャンプに栗原を送り込むという剛腕を発揮する。そして、自らもフットボール日本代表のキャプテンを務めた経歴を持つ安田は、直接サポートするべく、キャンプの地に向かったのだ。

2013年5月4日、その日はやってきた。
既に前日の練習で「対等以上にやってます」と現地の社員から報告を受けてはいたが、「本当か?」と安田は半信半疑だった。それは当然とも言える。NFLヨーロッパでも日本人が一番出場できたポジションはワイドレシーバーだ。しかし、多少なりとも成績を残すまでにはある程度の慣れが必要であった。1年目はたいていレベルの差に圧倒され、練習でコテンパンにされ、その中から対処法を学び、何とかまともにプレー出来るようになるには経験を積んだ2年目以降であった。

「無理言ってキャンプへの参加を依頼した事をレイブンズやUNDER ARMOURに謝らなければ...」そう思いながら現地に着いた安田だったが、実際に自分の目で栗原のプレーを見てみると、そこには全く予想もしなかった状景が繰り広げられていた。
ディフェンスの厳しいチェックをものともせずに身体を大きく使ってリリースし、素晴らしいスピードでフリーになり、投げられたパスはハンドキャッチ。

「Great job, Taka!」
「Nice catch! That’s it!」

初めてNFLレベルのフットボールに触れた栗原が、全く臆することなく、いきなりディフェンスを凌駕する驚異的なパフォーマンスでコーチ陣をうならせていた。しかも、練習とは言えNFLでタッチダウンまで決めた栗原を見た安田に衝撃が走った。

「栗原、、、本物だ!」
「栗原=後輩」が「栗原=尊敬するアスリート」へと変わった瞬間であった。
「何でそんな事が出来るんだ??」驚いた安田は率直に栗原に聞いた。
「YouTubeでNFLを見まくってるんです。」それが答えだった。

もちろん動画を見るだけでNFLレベルになれる訳ではない。実際の動きを見てレベルを感じたり、対処法を学ぶだけでなく、世界レベルのアスリートがどういう身体をしているのかも見て、自分を同じレベルにするために、トレーニング、ニュートリション、その他何でも実践した結果がこの場での活躍なのだ。
安田がNFLヨーロッパに在籍した当時は、インターネットはまだまだ創成期。YouTubeはまだ存在しておらず、日本人のフットボール選手にとって世界の情報は簡単に手に入るものではなかった。「敵を知る」ことの出来ない日本人選手が苦戦するのは当然の話。
しかし、今の時代では意欲さえあれば、誰でも必要な情報を得ることができる。あとは本人がどれだけ努力するかで結果が決まってくる。栗原も「NFLを知りたい」という意欲を持って、「NFLを見まくる」「トレーニングする」「必要な栄養を摂る」といった適切な努力をした結果、いきなり驚異的なパフォーマンスを発揮できたのだ。

さらに言えば、パフォーマンスは身体だけの話ではない。栗原がミニキャンプ入りした初日、渡されたのは100ページ以上のプレイブック(作戦集)。もちろん全て英語で書かれたそのプレイブックを徹夜で理解して覚えるといった努力も怠らなったため、「日本人のタカ(栗原)が一番プレイブックを理解しているとはどういうことだ!」とコーチが他の選手を怒鳴った程だ。
ここでも栗原が「NFLに行くために必要なことは何でもやる」という意欲を持って、努力した結果が表れたということだ。
意欲と努力があれば、誰もが栗原のような活躍ができるとは言わない。しかし、今の自分よりも確実に良くなれる事は確かだ。
そうした人間の進化の可能性をも実感させる驚異のアスリートが栗原嵩なのだ。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

時は流れ、2015年3月22日(日)、栗原はNFLベテランコンバインに参加する。
このイベントは選手にとって、NFLのチームに入るためのアピールの場、いわば「合同トライアウト」。過去にNFLでのプレー経験がある選手も含めて選ばれた者だけが参加できる「NFLに最も近い選手」が集まる場だ。

はっきり言ってそのレベルは高い。それでもNFL入りが約束されるものではなく、栗原、いや、どの選手にとっても狭き門であることは間違いない。
しかし結果はどうあれ、栗原は最高のパフォーマンスを発揮してくれるだろう。
安田はそう信じている。
あの時の衝撃をNFLチームも受けると期待しながら。(おわり)

Share
twitter
facebook
印刷用ページへ

「こいつは本物だ!」
NFLボルチモア・レイブンズのルーキーキャンプで栗原の活躍を見た安田の全身に、稲妻のような衝撃が走った...

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

栗原は安田の大学の後輩。NFLヨーロッパでのコーチ経験もあり、世界のフットボールのレベルを熟知する安田にとって、「NFLに挑戦したい」という後輩の希望は、「叶えてやりたいけど、無理だろうな。せめて思い出作りさせてやれれば...」と実現の可能性が微塵も感じられないものであった。
「せめて思い出作り...」ではあったが、幸いにも米UNDER ARMOURブランドを取り扱う(株)ドームの社長である安田は、UNDER ARMOUR社と強い関係のあるボルチモア・レイブンズのルーキーキャンプに栗原を送り込むという剛腕を発揮する。そして、自らもフットボール日本代表のキャプテンを務めた経歴を持つ安田は、直接サポートするべく、キャンプの地に向かったのだ。

2013年5月4日、その日はやってきた。
既に前日の練習で「対等以上にやってます」と現地の社員から報告を受けてはいたが、「本当か?」と安田は半信半疑だった。それは当然とも言える。NFLヨーロッパでも日本人が一番出場できたポジションはワイドレシーバーだ。しかし、多少なりとも成績を残すまでにはある程度の慣れが必要であった。1年目はたいていレベルの差に圧倒され、練習でコテンパンにされ、その中から対処法を学び、何とかまともにプレー出来るようになるには経験を積んだ2年目以降であった。

「無理言ってキャンプへの参加を依頼した事をレイブンズやUNDER ARMOURに謝らなければ...」そう思いながら現地に着いた安田だったが、実際に自分の目で栗原のプレーを見てみると、そこには全く予想もしなかった状景が繰り広げられていた。
ディフェンスの厳しいチェックをものともせずに身体を大きく使ってリリースし、素晴らしいスピードでフリーになり、投げられたパスはハンドキャッチ。

「Great job, Taka!」
「Nice catch! That’s it!」

初めてNFLレベルのフットボールに触れた栗原が、全く臆することなく、いきなりディフェンスを凌駕する驚異的なパフォーマンスでコーチ陣をうならせていた。しかも、練習とは言えNFLでタッチダウンまで決めた栗原を見た安田に衝撃が走った。

「栗原、、、本物だ!」
「栗原=後輩」が「栗原=尊敬するアスリート」へと変わった瞬間であった。
「何でそんな事が出来るんだ??」驚いた安田は率直に栗原に聞いた。
「YouTubeでNFLを見まくってるんです。」それが答えだった。

もちろん動画を見るだけでNFLレベルになれる訳ではない。実際の動きを見てレベルを感じたり、対処法を学ぶだけでなく、世界レベルのアスリートがどういう身体をしているのかも見て、自分を同じレベルにするために、トレーニング、ニュートリション、その他何でも実践した結果がこの場での活躍なのだ。
安田がNFLヨーロッパに在籍した当時は、インターネットはまだまだ創成期。YouTubeはまだ存在しておらず、日本人のフットボール選手にとって世界の情報は簡単に手に入るものではなかった。「敵を知る」ことの出来ない日本人選手が苦戦するのは当然の話。
しかし、今の時代では意欲さえあれば、誰でも必要な情報を得ることができる。あとは本人がどれだけ努力するかで結果が決まってくる。栗原も「NFLを知りたい」という意欲を持って、「NFLを見まくる」「トレーニングする」「必要な栄養を摂る」といった適切な努力をした結果、いきなり驚異的なパフォーマンスを発揮できたのだ。

さらに言えば、パフォーマンスは身体だけの話ではない。栗原がミニキャンプ入りした初日、渡されたのは100ページ以上のプレイブック(作戦集)。もちろん全て英語で書かれたそのプレイブックを徹夜で理解して覚えるといった努力も怠らなったため、「日本人のタカ(栗原)が一番プレイブックを理解しているとはどういうことだ!」とコーチが他の選手を怒鳴った程だ。
ここでも栗原が「NFLに行くために必要なことは何でもやる」という意欲を持って、努力した結果が表れたということだ。
意欲と努力があれば、誰もが栗原のような活躍ができるとは言わない。しかし、今の自分よりも確実に良くなれる事は確かだ。
そうした人間の進化の可能性をも実感させる驚異のアスリートが栗原嵩なのだ。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

時は流れ、2015年3月22日(日)、栗原はNFLベテランコンバインに参加する。
このイベントは選手にとって、NFLのチームに入るためのアピールの場、いわば「合同トライアウト」。過去にNFLでのプレー経験がある選手も含めて選ばれた者だけが参加できる「NFLに最も近い選手」が集まる場だ。

はっきり言ってそのレベルは高い。それでもNFL入りが約束されるものではなく、栗原、いや、どの選手にとっても狭き門であることは間違いない。
しかし結果はどうあれ、栗原は最高のパフォーマンスを発揮してくれるだろう。
安田はそう信じている。
あの時の衝撃をNFLチームも受けると期待しながら。(おわり)