いわきFC

リスクを冒さぬ退屈な日本のサッカーを、圧倒的なパワーで変革する。 いわきFCが巻き起こすフィジカル革命 ~その8 前編

リスクを冒さぬ退屈な日本のサッカーを、圧倒的なパワーで変革する。
いわきFCが巻き起こすフィジカル革命 ~その8 前編

チーム創設2年目の2017年は、いわきFCにとって素晴らしい躍進の1年となった。チームが今年掲げた目標は二つ。まずは天皇杯 全日本サッカー選手権大会、そしてJFLへの飛び級昇格を賭けた、全日本社会人サッカー選手権大会~全国地域チャンピオンズリーグ2017である。

天皇杯では県リーグ所属ながらもJ1の北海道コンサドーレ札幌を破り、その名を全国にとどろかせた。しかし全日本社会人サッカー選手権大会2回戦で、いわきFCはアミティエSC京都にPK戦で敗れてしまう。

優勝候補筆頭との呼び声も高かっただけに、選手とスタッフが大きなショックを受けたことは想像に難くない。だが、この一つの敗戦で、今年のいわきFCの活動のすべてが否定されたのか。決してそんなことはないはずだ。

「いわき市を東北一の都市にする」
「日本のフィジカルスタンダードを変える~魂の息吹くフットボール」
「人材育成と教育を中心に据える」

いわきFCが目ざすのはあくまでこれらのビジョンを実現することで、目先の勝利ではない。つまりJFL昇格でも、Jリーグ昇格ですらない。選手たちはこの3つのビジョンのもと、フィジカルトレーニングに打ち込み、ピッチを駆け、ドームいわきベースで業務をこなす。そんな毎日から、チームは他の勝利至上主義のクラブでは決して得られぬ貴重なノウハウを積み上げ続けている。

そこで今回から3回に分け、2017年のいわきFCの活動をフィジカル、メディカル、栄養といったさまざまなファクターから多面的に振り返っていく。前編となる今回は大倉智総監督、田村雄三監督、FW吉田知樹、MF熊川翔、GK坂田大樹に話を聞く。


■サッカー選手にもウエイトトレーニングが必要であることを証明。

今年の躍進を支えた大きな要素が、ファシリティの充実である。昨年11月、ドームいわきベースの敷地内にグラウンドが完成。そして今年6月には、トレーニングジム(ドームアスリートハウス)を備えた日本初の商業施設併設型クラブハウス「いわきFCパーク」がオープンした。

それに伴い、選手たちは朝9時から12時まで、グラウンドでの練習とドームアスリートハウスでのフィジカルトレーニングを行い、午後からはドームいわきベース(DIB)で倉庫業務をこなす。食事については3食をDIBで摂り、不足する栄養素はサプリメントでしっかりと補う。そんな、J1のチームをも超える万全の体制が構築されたことで、チーム力は一気に上がっていく。

迎えた天皇杯。福島県予選ではJ3所属の福島ユナイテッドFCに圧勝。そして2回戦で延長の末、J1のコンサドーレ札幌を撃破。3回戦の清水エスパルス戦は敗れたものの、素晴らしい健闘を見せた。田村雄三監督は語る。

田村雄三監督
田村雄三監督

「天皇杯は思い切り戦った結果、選手に自信を与える大会になったと思います。J1のチームに勝ったことで、いわきFCの名前が全国に広まったことも大きかった。選手たちも以前は、本当にこんなに筋トレばっかりやっていていいの? という思いがあったはず。でも今は、自分たちがやってきたことに間違いはないと確信しているはず。確実に身体は強くなり、運動量も落ちず、当たり負けもしなくなっていますから」

彼らが目ざすのは、パワーのあるサッカー選手ではない。ラグビーやアメフトの選手に匹敵するパワーとスピードを備えた、優れたアスリートだ。その目標のために、選手たちはチーム立ち上げ当初から、徹底的にフィジカルトレーニングに取り組んできた。それが天皇杯での結果とともに多くのマスコミに注目されたことで、サッカー界に蔓延していた「筋肥大すると身体が重く、硬くなる。サッカー選手にウエイトトレーニングは必要ない」という俗説がいかに根拠のないものであるかが、はっきりと示された。その功績は大きい。

田村雄三監督田村雄三監督


■「鍛錬期」を設け、徹底的にトレーニングに打ち込む

もう一つの大きな目標が、10月の全国社会人サッカー選手権(以下:全社)だ。この大会で3位以内に入れば、11月に行われる全国地域チャンピオンズリーグ2017への出場権が与えられる。そして、この大会で2位以内に入ったチームはJFL(日本フットボールリーグ:J1をトップ=1部と考えた場合、4部に該当)に飛び級昇格する資格を得る。いわきFCは昨年、初めてこの大会にエントリーしたが、3回戦で敗退していた。

「今年こそ全社と地域チャンピオンズリーグで勝ち、JFLに上がる」

そんな決意と天皇杯で得た自信を胸に、選手たちは鍛錬の夏を過ごす。目標とする全社は、5日間の集中開催で最大5連戦となる、タフなノックアウト方式のトーナメント。求められるのは連戦に耐えうる強靭な身体と高い走力、そして強いメンタルだ。

チームは8月9日から9月9日までの5週にわたり「鍛錬期」を設け、ストレングストレーニングを中心にフィジカルの再構築を図った。「身体を大きくすること」にフォーカスし、トレーニングのボリュームを大幅にアップ。選手たちは朝9時から週4回、長い日は2時間半近く、ドームアスリートハウスのトレーニングルームにこもった。ボールを蹴るのはトレーニング後の10分~30分程度。徹底的にストレングストレーニングに打ち込みつつ、食事とサプリメントから質の高い栄養を摂取し、身体を大きく、強くしていった。

吉田知樹選手
吉田知樹選手

FW吉田知樹、MF熊川翔、GK坂田大樹の3人は、鍛錬期を経て感じた身体の変化について、こう語る。

「現在のサイズは身長176㎝、体重約70㎏です。昨年に高卒でいわきFCに入ってから、体重は5㎏アップしています。今年2年目ですが、最近よく、プレーが力強くなったと言われます。ドリブルが得意なのですが、相手に身体を当てられてもブレなくなりましたし、コンタクトも明らかに強くなりました」(吉田)

吉田知樹選手吉田知樹選手


熊川翔選手
熊川翔選手

「夏の鍛錬期にチームに加入しました。サイズは身長172㎝、体重64㎏。入った時は61㎏だったので、3㎏増えています。いわきFCはトレーニングがハードだと以前から聞いてはいましたが、実際にキツかったです。果たしてやっていけるのか? と不安になりましたが、どうにか乗り切れました。

そしてこの夏を経て、徐々に重さを扱えるようになってきました。鍛錬期直後にスクワットのMAXを測定してみたら、160㎏でした。かなり伸びていたし、自分がこんな重さを担げることに驚きました」(熊川)

熊川翔選手熊川翔選手


坂田大樹選手
坂田大樹選手

「サイズは身長184㎝、体重80kgです。大学時代は77㎏ぐらいだったので、3㎏増えています。入団前は筋トレはやっておらず、チームに入ってからです。トレーニングによって、力強いプレーができるようになりました。シュートが来て飛ぶ時に強く踏み込めますし、クロスが飛んできて相手選手に身体をぶつけられてもぐらつかないようになりました。

それとGKコーチに言われたのですが、特にこの夏でジャンプ力が上がったようです。明らかにウエイトトレーニングをやり込んだ成果ですね」(坂田)

坂田大樹選手坂田大樹選手

鍛錬期のトレーニングと確実な栄養摂取と並行して、全社に向けたトレーニングマッチをこなすハードな1カ月を経て、選手たちの骨格筋量は平均でプラス800gの増加。目指すラグビー、アメフト選手の肉体からはまだまだほど遠いが、立ち上げ当初とは比べ物にならぬフィジカルの強さを得て10月、チームは全社に挑んだ。

■サッカーで違いを見せてほしい。

全社には魔物が棲んでいた。優勝候補筆頭と評されたいわきFCは2回戦で、アミティエSC京都の闘志と粘りに足元をすくわれ、PKで5-4の敗戦。大会から早々に姿を消した。思いもよらぬ早期敗退。選手たちは語る。

「絶好のシュートチャンスを逃してしまった。あれを決められれば展開が変わっていたはずなので、悔やまれます。夏にたくさんトレーニングをしてたくさん走って走力がついたけれど、活かすことができませんでした」(吉田)

「残念ながら、いいサッカーができなかった。アミティエにはサッカーで負けた印象があります。鍛錬期で強くなっていたので、フィジカル的にはまだまだやれました。鍛錬期で得たものを出し切る前にやられてしまった印象です。出し切る前に、出せなかった。本当に残念です」(坂田)

全社という緊張感のある一発勝負の中で、しっかりプレーできる選手とそうではない選手の差が明確に出た。一部の主力選手が、普段の力をまったく出せなかったのはなぜなのか。大倉智総監督はその理由を、所属リーグのレベルのギャップ、そして選手のメンタリティの問題であると分析する。

大倉智総監督
大倉智総監督

「所属する県リーグ1部のレベルを考えると、リーグ戦を通じてチーム力を上げるのは難しい。つまり、同レベルのチームと競った試合をしていないことの影響が出てしまった気がします。例えば天皇杯でJリーグのチームに挑む時は、失敗を恐れずに食ってやろうという気持ちをたぎらせてプレーできる。でも、絶対に勝たなくてはいけないプレッシャーのかかった試合を、彼らはほとんど経験していない。そこがウィークポイントでした。

あらためて振り返ると、アミティエ戦は年間を通じて鍛え上げてきたフィジカルで完全制圧せねばならないゲームでした。実際、今回の地域チャンピオンズリーグを制してJFLに昇格したのは、全社東北予選の決勝で戦い、2対0で勝ったコバルトーレ女川。つまり、JFL昇格チームとのレベル差はまったくありませんし、全社という舞台はそれだけわからないということです。

もう一つの理由はメンタリティです。いわきFCの選手の多くはドームいわきベースで働きながらサッカーをしています。ですから今までは『社員だから仕事もしっかりやれ。そうしないとサッカーでも成功できないぞ』と言ってきました。でも、その部分が強くなりすぎたかな、と反省しています。仕事をしていることが逃げ場になり、サッカーを突き詰め切れていない選手がいたように感じています。

誤解してほしくないのは『仕事をちゃんとやっていれば試合で使うわけではない』ということ。試合に出るのはあくまで、サッカーの実力がある選手。だから、もっと自分にフォーカスしてほしい。負けた時、誰かのせいにするのは簡単。そうじゃない。逃げ道を探すのではなく、ダメな自分、できなかった自分としっかり向き合ってほしい」

大倉智総監督大倉智総監督

そんな状況を打開する一つの策が、選手の契約形態の変更だ。今回、2選手とプロ契約を結んだ。2018年より、外国人選手も合わせた3人が、プロとして活動していく。

「彼らの給料は頑張れば上がり、悪ければ下がります。そして、結果を出せなかったらクビ。プロとはそういうものです。プロ選手たちには『来年、最も厳しくするのはお前らだよ』と言いました。アマの選手は試合に出てプレーする。でも3人は、試合で勝敗を支配するプレーをせねばなりません。活躍するのは当たり前で、評価はそれプラスアルファの部分になります。だから彼らには『最初にグランドに来て、最後まで残る気持ちでやれ』と言いました。他の選手たちと比べて時間は倍以上ありますから、フィジカルトレーニングの個別メニューを組んでもらってもいいし、ひたすらボールを蹴ってもいい。それが十分できる施設もありますから」(田村)

「3人以外の選手はアマチュアですが、練習時間や環境、待遇などを考えると、実質的にセミプロといえます。つまり来年からは、プロとセミプロが混在する体制になるということ。それを明確にして、プロ選手には大きなプレッシャーを背負ってもらいます。

サッカーが上手くなるための努力をする選手だけが残っていく。そんなカルチャーを、もう一度構築したい。仕事をちゃんとやるのは当たり前。決まり事をちゃんとやるのも当たり前。その上で、評価の軸はサッカーです。上手い奴は使う。それだけ。選手たちはサッカーで違いを見せてほしい。そしてもっと自立して、自分で考え、自分を表現してほしい。それがチームを強くする近道。この世界でやっていきたいなら、サッカーで見せろ。それができるならいつでもプロにしてやる。そういうことです」(大倉)

■モチベーションは自分で作るもの。

来年所属する東北社会人2部リーグについては、問題なく優勝できると考えている。そのため、目標は今年と同じく天皇杯と全社である。だが全社については、今年限りでレギュレーションが変更。来年から、全社で上位に入っても地域チャンピオンズリーグに進むことはできなくなった。つまり来年以降、JFLへの飛び級昇格はない。

「決まってしまったことは仕方ありませんし、いわき市を東北一の都市にすると宣言した以上、東北社会人のタイトルは獲りたい。今年JFL昇格を逃したことで、むしろじっくりと選手を育てることができるので、プラスに捉えています。

そもそも、飛び級昇格がなくなったことを理由にモチベーションを下げるような選手は必要ない。モチベーションは自分で作るものです。自分が上手くなりたい、強くなりたい上に行きたいと思うなら、モチベーションは自然と上がります。

来年は1日1日を大切にしながら、いかに200%で毎日取り組むか。そこに注力していきます。そのためには、スタッフにピリピリした空気感が必要。隙のないようにやるしかありませんし、何を言われてもすべてを手配し、準備する。最高の状態を用意してあげるよう努力する。そして、選手にいっさいの言い訳をさせません」(田村)

今年のチームからは11人が退団。メンバーの4割近くが入れ替わる。飛び級昇格がなくなったこともあり、来年は若い選手をじっくりと鍛えていくつもりだ。

「今年、吉田知樹や高橋大河などの若い選手が伸びたのは大きかった。そして来年も、新たに高卒のFWが入ってくることが決まっています。一人は身長193㎝の大型選手ですが、まだ線が細い、彼は向こう2~3年しっかりとストレングストレーニングをさせて、日本一ヘディングの強いパワフルなFWにしたいですね」(大倉)

またリーグ戦の合間に力試しとして、Jリーグのチームとトレーニングマッチを増やす。そしてフィジカルは、今年の強化方針を基本的に踏襲。アスリートとして大きく強い身体を作りつつ、走力にフォーカスしていく。

「ボールを扱う時間をもっと増やした方がいい、という意見が選手から出ているのは知っています。でも『フィジカルトレーニングが多すぎてボールのフィーリングが薄れる』というのは逃げ道。それならば、仕事が終わってから自主練すればいい。そんなことは努力次第でどうにでもなると考えています。

今後、例えば3年目の選手はフィジカルのレベルがかなり上がっているので、全員が一斉にトレーニングすることは難しくなってきます。1年目の選手は大きくすればいいけれど、3年目は課題が変わり、作ったものを研ぎ澄ます過程に入っていくと思います。そしてもちろん、来年もハードなフィジカルトレーニングを行ってくことは間違いありません」

中編では、チーム創設時からトレーニングを見ているドームアスリートハウスの鈴木拓哉トレーナーに、鍛錬期に行ったトレーニングメニューの詳細と今年のレビュー、そして来年の展望について語ってもらう。



(中編に続く)




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Text:
前田成彦
DESIRE TO EVOLUTION編集長(株式会社ドーム コンテンツ企画部所属)。学生~社会人にてアメリカンフットボールを経験。趣味であるブラジリアン柔術の競技力向上、そして学生時代のベンチプレスMAX超えを目標に奮闘するも、誘惑に負け続ける日々を送る。お気に入りのマッスルメイトはホエイSP。

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