いわきFC

リスクを冒さぬ退屈な日本のサッカーを、圧倒的なパワーで変革する。 いわきFCが巻き起こすフィジカル革命 ~その8 中編

リスクを冒さぬ退屈な日本のサッカーを、圧倒的なパワーで変革する。
いわきFCが巻き起こすフィジカル革命 ~その8 中編

「日本のフィジカルスタンダードを変える~魂の息吹くフットボール」というビジョンを掲げ、2016年のチーム結成以来、意欲的にストレングストレーニングに取り組んできたいわきFC。中編では、彼らが鍛錬期に取り組んだメニューを具体的に紹介していく。

■正しいトレーニングを行えば、パフォーマンスは確実に上がる

「いわきFCにとっても自分にとっても、2017年は非常に充実した1年でした。選手たちのストレングスは着実に向上し、天皇杯を始めとするさまざまな大会で結果を残すこともできた。今年取り組んできたことに間違いはなく、血液検査や遺伝子検査、肉トレなど、新たに取り入れた取り組み(※後編にて詳しく解説予定)も含め、すべてが上手くハマったと思います」

鈴木拓哉パフォーマンスコーチ
鈴木拓哉パフォーマンスコーチ

語るのは、チームの創設時よりいわきFCのストレングストレーニングをサポートしてきた、ドームアスリートハウスの鈴木拓哉パフォーマンスコーチ。JFL(日本フットボールリーグ)への飛び級昇格を目指した10月の全国社会人サッカー選手権こそ、残念な結果に終わったが、正しいストレングストレーニングを行えば選手たちのパフォーマンスは上がる、という確信を揺るぎないものにできた2017年だった。

思い返せば1年目の2016年。集まった選手達は極めて線が細かった。そのためチームのストレングストレーニングは、ビッグスリーなどの基本メニューを中心にすえて身体を大きくすることから始まった。そして1年間で、選手達のフィジカルは飛躍的に向上。だが、それがピッチ上でのパフォーマンス向上に結びついた、という確信は誰も持てずにいた。実際のところ1年目は、選手達の貧弱な身体を、いわゆる「アスリート」のレベルまで引き上げることで手いっぱいだったのだ。

そして2017年、大倉智総監督-田村雄三監督の新体制が発足。チームがまず行ったのは「フィジカル」という言葉の再定義だった。

結成当初から掲げる「日本のフィジカルスタンダードを変える~魂の息吹くフットボール」というビジョン。そこで語られる「フィジカル」という言葉の正体は何なのか。解釈に若干のばらつきがあったこの言葉を、チームは「パワー=ストレングス×走力」と再定義。ストレングストレーニングで養った筋力を、ピッチにおけるパフォーマンスに転化させる、すなわち「パワーを高める」という明確な目的のもと、選手たちはドームアスリートハウスでパワー/筋力アップに務め、グラウンドではスピードトレーニングの頻度を増やした。

その成果がはっきりと出たのが、6月に行われた天皇杯 全日本サッカー選手権大会2回戦(対北海道コンサドーレ札幌)だった。テクニックで勝るJ1所属のチームに対しコンタクトと走力で優位に立ち、2対2で迎えた延長戦、札幌の選手たちの足が止まりつつある中、立て続けに3ゴールを奪って勝利を挙げた。この試合で選手は、自分たちが取り組んでいるトレーニングの方向性が正しい、という確信を得た。

鈴木拓哉パフォーマンスコーチ鈴木拓哉パフォーマンスコーチ

■鍛錬期の具体的なメニュー

今年のストレングス強化の大きなポイントが、夏にまとまった「鍛錬期」を設けたことだ。主な目的は、10月の全国社会人サッカー選手権に向けてトレーニングのボリュームを増やし、身体を大きくすること。選手たちは8月9日から9月9日までの5週にわたり、朝9時から週4回、長い日は2時間半近く、ドームアスリートハウスでストレングストレーニングに励んだ。

「鍛錬期では身体を大きくすることを主眼に置いていましたが、もちろん、ただ筋肉をたくさんつければOKではありません。これまで数多くのアスリートのトレーニングを手がけてきたドームアスリートハウスのメソッドに則り、筋肥大とともに『動きをよくする』ことを意識しています。

特に重視しているのが、片手や片足でのトレーニング。両足だと上手くこなせてしまう種目でも、片手や片足で行うことでバランスや身体コントロールを向上させられます。それにより、実戦のボディコンタクトで崩されずに体勢を保てる。また、例えばサイドアタッカーの選手になると、片側の足でのキックが極端に増えるなど、身体の使い方に偏りが出がち。それは負傷にもつながるので、全身のパワーをバランスよく発揮させることを意識しています。

そして重量とセット数、レップ数は、選手の遺伝子検査によるカテゴリー分け(※後編にて詳しく解説予定)で異なりますが、トータルのボリューム(回数×重さ)は同じ程度になるように調整しています」

では鍛錬期において、選手達は実際にどのようなメニューに取り組んだのか。具体的なトレーニングメニューを紹介しよう。

① 片手スナッチ(パラレルスタンス/スプリットスタンス)

股関節の伸展による爆発的パワー、キャッチ動作における片側荷重に耐えうる体幹の安定性を得る。パラレルスタンスを基本とし、バリエーションとしてスプリットスタンス(違側/同側)で行うことでさらに体幹の安定性を高める。爆発力を養うため、レップ数、セット数ともに2~5、レストは90秒~2分が目安。

片手スナッチ(パラレルスタンス)
片手スナッチ(スプリットスタンス)

②スクワット/ボックススクワット

下半身の筋力アップと体幹強化を狙う。ボックススクワットは、ボトムで腰を下げた状態でいったんリセットされるため、ゼロ状態から一気に筋力を発揮する爆発力の養成に適している。こちらも爆発力を養うため、レップ数、セット数ともに2~5、レストは90秒~2分が目安。

スクワット
ボックススクワット

③ハードルジャンプ フロント/サイド

ジャンプ動作を続けて行うことで、連続でパワーを発揮するイメージをつかむ。ポイントは足で床をしっかりと押し、反力を身体に伝えること。ハードルをクリアするにつれて猫背にならぬよう注意する(姿勢が崩れると着地が安定せず、次の動きにつながらない)。そして最後の着地の時、実際にプレーできるパワーポジションでフィニッシュすること。縦と横の両方向で行う。バリエーションとしてボックスを使うのは、伸張反射(=地面の反力を使うこと)を強調し、1歩目から大きな反力を得るため。

ハードルジャンプ(フロント)
ハードルジャンプ(サイド)

④ルーマニアンデッドリフト

目的は下半身の筋力強化と、ストップ&ゴーの多いサッカーで頻発するハムストリングスの肉離れを防ぐこと。ポイントは胸椎、腰椎のラインをまっすぐ=体幹がしっかりしている状態を保つこと。パワーポジションを取るためのヒップヒンジ動作(股関節を中心として、体重を後方へ移動させる動作)を行う(尻を軽く引くことで骨盤が入り、コアが安定する)。お尻を落として背中が丸まった状態にならないよう注意すること。

ルーマニアンデッドリフト

⑤リバースランジ ダンベルを前に持つ/横に持つ

ややブレーキ動作に近いフロントランジと比べ、リバースランジは足を前に持ってくる動作を強化しやすい。注意したい点は、足を後ろに下げる時にスタンスを広く取りすぎないこと(イメージは「やや大股」)と、軸足が外側荷重にならないこと(軸足がぶれると次の動きにつながらない)。

リバースランジ(横に持つ)

⑥グルートハムレイズ 片足/両足

ハムストリングスの強化を狙うアイソメトリクストレーニング。ルーマニアンデッドリフトと違って、片足で全体重を支えることで、よりスプリント動作に近いイメージを持つことができる。頭上でプレートを回すバリエーションもある。上半身が動いている状態でも、下半身のアイソメトリクスをキープする。

グルートハムレイズ(片足)

⑦ハングクリーン/スナッチ

全身のパワーと連動性の向上を狙う。最初のハングポジションで背中が曲がらぬよう注意し、手で挙げないこと。

ハングクリーン
ハングスナッチ

⑧ボックスジャンプ フロント/サイド(内側の足から/外側の足から)

サッカーで必要な片足でのパワー発揮と安定性を養う。これにグラウンドでのスピードトレーニングを加え、スピードと爆発力を高める。横向きで行う場合、内側の足と外側の足のそれぞれで行う。

ボックスジャンプ(フロント)
ボックスジャンプ(サイド)

⑨ベンチプレス

目的は上半身のプッシュ動作の強化。筋肥大を目指す場合とパワーの向上を目指す場合で、回数と挙上のテンポを分けている。筋肥大を目指した今回の鍛錬期では、MAXの75~80%の重量×8~12レップスを、2秒で下し、2秒で挙げるリズムで行った。

ベンチプレス

⑩ラットプルダウン

目的は主に広背筋の筋力強化。胸を張り、首をすくめずに長く保って引く。「鎖骨でバーを迎えに行く」イメージで、バーを下げると同時に胸を上げていく。腰を反りすぎないこと。

ラットプルダウン

⑪ダンベルローイング

目的は、片手ずつのプル動作による主に広背筋と体幹の強化。胸を張った状態で首を長く保ち、僧帽筋ではなく、広背筋を主に使ってプル動作を行うこと。ダンベルを持つ逆側の身体が崩れないよう意識すること。ダンベルを持っている逆側の前鋸筋を意識して、肩甲骨を安定させた状態で引く。

ダンベルローイング

⑫スタンディングショルダープレス(片膝立ち/パラレルスタンス/スプリットスタンス)

ショルダープレスをスタンディング状態で行うことによって、三角筋や僧帽筋の強化とともにバランス感覚の向上と体幹の強化を図る。まず片膝立ちで行い、次に両膝をそろえたパラレルスタンス。それができた後にスプリットスタンスで、というように段階的に行うといい。

スタンディングショルダープレス(スプリットスタンス)

■同じトレーニングルームで、全員が個別のトレーニングに取り組むのが理想

今年の成果を踏まえ、チーム結成3年目となる2018年は、選手のキャリアやポジションに応じてトレーニングの個別性を高めていく。

「1年目はストレングストレーニングというカルチャーを選手たちに植えつけることからスタートしました。そして今年はできつつある身体をさらに強くして、高い走力で走り続けることにフォーカス。その結果、やっとフィジカルとサッカーがつながってきた。

3年目となる2018年は、トレーニングメニューの個別性を高めていきます。身体作りのベースとなるトレーニングに加え、ポジションごとの特性やキャリアを考え、メニューのディテールに変更を加えていくイメージです。

来年また10人ほど新たな選手が入ってきますが、新入団選手はビッグスリーを中心にじっくりと身体を作ることから始めます。当然、例えば大卒3年目のそれなりに身体ができ上がっている選手とは、メニューが異なります。

またポジション別の特性で考えても、例えばスクワットなら、ジャンプ動作の多いGKはしっかりとしゃがみ込ませます。でもフィールドプレーヤーはGKほど深い動作を行う必要がないので、例えばクォータースクワットに変更し、その分重さを増したり片足で行う、といった調整を加えていきます。理想は、同じトレーニングルームにいながらも全員が個別のトレーニングに取り組んでいることです」

また、ストレングスとサッカー基礎パフォーマンスの相関関係を探るため、スローインとロングキックの距離、シュート速度などを測定し、データ取りを行う。

「例えば筋トレで扱う重量がどんどん上がっていても、遠くへボールを蹴れない選手がいるとします。彼が扱う重量とパフォーマンスの統合性を得るには、スクワットで200㎏を挙げればいいのか、というと違います。理由を突き詰めていくと、もしかすると蹴る時のフォームが悪く、パワーをロスしている可能性がある。その場合、選手の課題改善は監督やコーチに託していきます。

トレーニングの数値と実際のパフォーマンスがリンクしない場合は原因を解明し、課題がフィジカルならば必要な部分を強化。サッカーのテクニックならば監督やコーチに託し、伸ばすべきポイントを伸ばしてもらう。そういった連携を行います。フィジカル強化とピッチでのスキル向上を明確にリンクできる、いわきFCならではの試みといえます」

大きな目標であった全国社会人サッカー選手権は、残念ながら2回戦で敗退。今年もJFL(日本フットボールリーグ)への飛び級昇格を逃してしまった。だが、チームはそれを好機ととらえている。来年より飛び級昇格が廃止となるため、JFLに昇格するためには東北社会人2部と1部で最低2年間を過ごさねばならない。だからこそ、この2年間でじっくりと腰をすえて身体作りを行い、さらにノウハウを蓄積していくつもりでいる。チームはこの12月にも鍛錬期を設けて身体を作り直し、来年1月からは積極的に試合を組みながら、2月にハワイで予定されるパシフィック・リムカップ(アメリカのメジャーリーグサッカーからVancouver Whitecaps FCとColumbus Crew SC、Jリーグから北海道コンサドーレ札幌が参加予定)そして天皇杯に向けたチーム作りを行っていく。

後編では、いわきFCのチームドクターである順天堂大の齋田良知先生に、栄養摂取などコンディショニング全般について話を聞いていく。

(後編に続く)




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Text:
前田成彦
DESIRE TO EVOLUTION編集長(株式会社ドーム コンテンツ企画部所属)。学生~社会人にてアメリカンフットボールを経験。趣味であるブラジリアン柔術の競技力向上、そして学生時代のベンチプレスMAX超えを目標に奮闘するも、誘惑に負け続ける日々を送る。お気に入りのマッスルメイトはホエイSP。

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