いわきFC

リスクを冒さぬ退屈な日本のサッカーを、圧倒的なパワーで変革する。 いわきFCが巻き起こすフィジカル革命 ~その10 前編

リスクを冒さぬ退屈な日本のサッカーを、圧倒的なパワーで変革する。
いわきFCが巻き起こすフィジカル革命 ~その10 前編

チーム創設3年目となる2018年、いわきFCが掲げた目標は「日本一」。その中身とはまず、ファシリティ、フィジカル、メディカル、栄養摂取、ITなど、チームを構成するあらゆる要素でナンバーワンの環境を作り上げること。そして、天皇杯と全国社会人サッカー選手権を制することだった。

最大の目標であった天皇杯では、全国大会1回戦でソニー仙台FCに敗れた。だが、チームは歩みを止めない。夏から秋にかけて精力的にリーグ戦とトレーニングマッチをこなし、次なる目標「全国社会人サッカー選手権」に向けて研鑽を重ねてきた。

■「厄介者」として「魂の息吹くフットボール」で優勝する。

全国社会人サッカー選手権大会(以下:全社)とは、全国の地域リーグ及び県リーグ(J1から数えて5部以下)に属する社会人チームによるオープントーナメントだ。いわきFCはチーム創設の2016年以来、この大会に出場し続けている。

昨年まで、全社でベスト3以上(原則)の成績を収めたチームには、全国の地域リーグ1部優勝クラブがJFL(日本フットボールリーグ:4部相当)への昇格を争う「全国地域サッカーチャンピオンズリーグ」への出場権が与えられていた。つまり全社でベスト4、そして全国地域サッカーチャンピオンズリーグ(以下:地域CL)で優勝もしくは準優勝すれば、昨年まで福島県県社会人サッカーリーグ(7部~8部)に所属していたいわきFCにも、JFLに飛び級昇格できる可能性があった。

だがチーム創設から2年間、いわきFCの全社での戦いぶりは芳しいものではなかった。優勝候補と目されながら、1年目はベスト8、2年目は2回戦で敗退。「大舞台で持てる力を出し切れない」という課題を露呈する結果となった。

さらに今年から、大会のレギュレーションが変更。全社上位チームに与えられていた地域CLへの出場枠が廃止された。いわきFCは現在、東北社会人二部南リーグ(6部相当)に所属しており、もともと地域リーグ1部の優勝チームが争う地域CLへの参戦資格はない。昨年までの唯一の可能性だった地域CLの「全社枠」の廃止によって、いわきFCは今年、例え全社で優勝しても、地域CLには出場できない。つまり、JFLへの飛び級昇格の可能性は消えた。

しかしそれは、いわきFCが全社での優勝を目指さぬ理由とはなり得ない。

全社での屈辱は、全社でしか晴らせない。2年間の悔しさを乗り越え、止まった時計の針を再び動かしたい。それが、チーム全員の思いだ。例えJFL昇格への道が閉ざされても、圧倒的な強さで大会をかき回す「厄介者」として、「魂の息吹くフットボール」を展開し、優勝を勝ち取る。飛び級昇格がなくなっても、思いにブレはない。

■『筋トレすると身体が重くなる』という思い込みを払拭する。

10月20日からスタートする大会を前に、チームは8月末から1カ月間「鍛錬期」を過ごした。鍛錬期とは昨年から始めた取り組みで、筋肥大で身体をより大きくすることを狙い、ボールを扱う練習を極端に抑え、徹底的なウエイトトレーニングを週4日、約1カ月にわたり行う。田村雄三監督は語る。

「昨年は正直、僕らも疑心暗鬼の状態でした。でも結果として、選手達の身体は飛躍的に大きくなり、パワー、スピードとも大幅に向上した。だから今年も継続しています。とはいえ昨年の反省点も多々ありますので、その経験を生かし、随所にマイナーチェンジを加えています」

最も大きな変更点が、鍛錬期を設定するタイミングだ。目標とする試合を見すえ、試合のひと月前までに鍛錬期を終わらせ、その後は疲労を抜いてコンディションを整える。そしてトレーニングのスケジュールも変更。これまでは4日間連続でトレーニングを行っていたが、スケジュールを火・水・木・土の4日で組み木曜をオフにすることで、選手の身体に負荷がかかりすぎないよう考慮した。

「今回の鍛錬期では、みんながしっかりと結果を出しました。筋肉量の増減については体重ではなく、骨格筋量で管理していますが、特に伸びしろの大きい1年目の選手は、骨格筋量を約1㎏増やしました。また2年目、3年目の選手も着実にサイズアップし、トレーニングで扱う重量も増えています。

今の環境であれば、正しいストレングストレーニングをしてしっかり栄養を摂れば、着実に筋肉がついて身体も大きくなる。でも、それだけではいけません。パワーのついた身体を自分達のサッカーにフィットさせ、疲労を抜き、試合でいいパフォーマンスができるように仕上げていく作業が必要です。これにはどうしても1カ月程度かかることが、昨年の経験でわかりました」

サッカークラブがこれだけ集中的にストレングストレーニングに取り組むこと自体、これまでの日本で例のないことだった。今まで誰もやってこなかった挑戦がゆえ、チームは毎年試行錯誤を繰り返しながら、ノウハウを積み上げてきた。

「僕らはかつてサッカー界で当たり前のように言われていた『筋トレすると身体が重くなり、走力やパフォーマンスが落ちる』という思い込みを払拭したい。そのためにも、全社までのひと月で実戦練習や試合をこなしながら、90分間ノンストップで走り続けられるフィジカルを作り上げ、しっかりといい結果を出したいと思います」

■今は自己管理ができるようになった。

食事についても、ドームアスリートハウスの栄養サポートチームが全面的にバックアップし、随時、改善を行っている。選手達は朝昼晩の3食を練習グラウンドのあるドームいわきベース(DIB)内のDNSパワーカフェで摂るが、スポーツ栄養士の指導のもと、バランスを考慮しつつ、たんぱく質を1日で120g以上摂れる専用メニューを提供している。そして一人一人の血液検査の結果に基づき、不足しがちな栄養素をサプリメントで補う個別プログラムを組んでいる。

また、今回の鍛錬期においては捕食を用意。選手達は午後から夕方の時間にかけてDIBで業務をこなすが、休憩時間に選手一人当たりおにぎり2個を食べることをノルマとした。食事やサプリメント摂取の取り組みについて、入団3年目のFW久永翼、1年目のMF早坂翔は語る。

「昨年より味も栄養バランスもよくなりましたし、量についても考えていただきました。以前は朝昼晩とほぼ同じ量が出ていたのですが、朝の練習前にたくさん食べるのは正直キツかった。だから朝のボリュームを少し落とし、昼と夜を合わせて1日の中でたんぱく質をより多く摂れるようアレンジしてもらいました。他にも選手側からさまざまな要望を出したのですが、意見を聞いてくださって感謝しています。

今は3年目ですが、チームに入ったころと比べて身体がしっかりしてきました。今年から毎日の食事量が増えたので、その分、サプリメントは少し減らしています。今はコンディションが安定していて、急激な体重の変化はありません。例えば少し体脂肪が増えた気がした時は、有酸素運動を増やして調整しています。大学時代は食事のことをそれほど考えておらず、体重が増えたら嫌なのでほとんど食べずにたくさん走ったりしていましたが、今は自己管理ができるようになりました」(久永)

「僕も大学時代は栄養に関する知識が少なくて、摂っている栄養も偏りがありました。でもいわきFCに入ってしっかりと学んだことで、最近は身体の変化がよくわかるようになった気がします。

今年入団したので昨年までのことはわかりませんが、食事はとてもおいしく、栄養バランスも取れています。僕はパンが大好きなのですが、そういったものもたまには出るので、本当にありがたいです。またオフの日は、自宅が近いMF河村英侑と一緒に自炊しています。例えば鶏のささみを茹でてサラダにしたり鍋を作ったりと、オフもたんぱく質をしっかり摂ることを心がけています」(早坂)

■ストレングストレーニングはカルチャーになりつつある。

今年の取り組みの総決算となる全社、そしてチームのこれからについて、大倉智総監督は語る。

「正直、昨年負けた時は、選手のショックは大きかったと思います。JFLに昇格する可能性がなくなったことで、このチームでのキャリアを終わらせた選手もいました。今年の所属カテゴリーは東北社会人二部南リーグ。他チームとの実力差は依然として大きく、東北社会人一部リーグへの昇格はほぼ既定路線です。そのため、気持ちの持って行き方が難しい年なのは間違いありません。

でも、状況を言い訳にしてやる気を出さない選手は必要ありません。モチベーションは自分次第ですし、今年2月のハワイ遠征のように、成長できる機会はそれなりに作ってきた。今残っているメンバーはそのことをわかっていますし、与えらえた環境に対して感謝しているはずです」

東北社会人二部南リーグは大差での勝利が続き、JFLへの飛び級昇格の可能性はない。そんな目標設定の難しい谷間の年でも、選手達はしっかりと身体を鍛え「魂の息吹くフットボール」の体現を目指してきた。

「僕らスタッフはもともと『戦うカテゴリーについては無理をせず、一つ一つ上がっていった方がいい』と考えていました。今は昇格を急ぐより、チームのカルチャーを築く段階。さまざまなトライアルを重ねて、チームの地力を上げるいい機会になったと思います。

もちろん、ストレングストレーニングもその一部分です。身体を大きく、強くしていくのは、アスリートとして当たり前のこと。その考えが、チームのカルチャーとして確実に定着しつつあります。そして今や『日本のフィジカルスタンダードを変える』というチーム方針に異論を唱える選手は一人もいません。

これまでいろいろな媒体で、いわきFCが筋トレに熱心に取り組んでいることがフォーカスされてきました。それは、ストレングストレーニングというカルチャーがサッカー界になく、珍しかったからだと思います。今はもう『筋トレをして身体を大きく、強くしています。すごいでしょう?』というレベルではありません。築き上げたフィジカルを、サッカーに生かす方法を突き詰めている段階。身体が大きくなったことを、もっとサッカーに結びつけねばなりません。

コンタクトで相手をはじき飛ばし、90分間ノンストップでアグレッシブに走り続け、攻撃的にプレーする。その実現までに、やるべきことはたくさん残っている。フィジカルがだいぶよくなってきたからこそ、足りないものがしっかりと見えてきた気がします。この秋にはFC今治やアルビレックス新潟、モンテディオ山形といった格上のチームと練習試合を行いましたが、どれも気持ちの入ったいいゲームでした。全社はハードな戦いになりますが、ぜひ期待して下さい」

2018年の総決算となる舞台で、選手達は今年こそまばゆい輝きを放つのか。培ってきたストレングスと走力が噛み合い、どんな相手に対しても「魂の息吹くフットボール」を展開できれば、結果は自ずとついてくるはずだ。

(後編に続く)

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