競技パフォーマンスUP

いざ、前人未到の高みへ。~帝京大学ラグビー部・10連覇へのフィジカル構築。

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いざ、前人未到の高みへ。~帝京大学ラグビー部・10連覇へのフィジカル構築。

いざ、前人未到の高みへ。~帝京大学ラグビー部・10連覇へのフィジカル構築。

■トレーニング、栄養摂取、身体のケアの3つを、バランスよく回す。

大学選手権9連覇を果たした帝京大学ラグビー部。強さの理由は多々あるが、そのうち一つが徹底的なストレングス強化だろう。チームは10年以上前から、グラウンドでラグビーの練習を行う日とフィジカルトレーニングを行う日を完全に分けるなど、身体作りを徹底的に重視してきた。岩出雅之監督は語る。※取材は10月23日に実施

「ウェイトトレーニングに本格的に取り組むようになってすでに20年近く経ちます。現在のような身体作りを重視したサイクルを採用したのは、日本のラグビー界では比較的早い方だったと思います。かつては強豪チームでも、ウェイトトレーニングは学生の自主性に任されることが多く、食事やサプリメントについてもきちんと管理していることはまれでした。そんな状況の中、私達はトレーニングと栄養摂取に積極的に取り組み、大きくてパワーがあり、動ける選手を育てることができた。それがここ9年、明確な結果を残してこれた理由の一つです。現在は多くのチームがフィジカルの重要性を痛感し、ウェイトトレーニングと栄養摂取にしっかりと取り組むようになりました。そのため、今はかつてほど、フィジカルの差はなくなっているのも確かです」

追い上げを狙う他校を突き放す、そして何より選手達の成長を促すため、岩出監督は練習環境の整備にも余念がない。2002年より管理栄養士によるサポートを開始。今年6月には百草グラウンド横に広いウェイトトレーニングルームを備えたクラブハウスを新設した。

大学とも全面的に連携。2011年に設立された「帝京大スポーツ医科学センター」が、医学とスポーツサイエンスの両面から選手達の安全をケアする。この10月には、百草グラウンドから近い八王子キャンパス内に、地上5階建ての「スポーツ医科学センター棟」がオープン。メディカルチェックルームやリカバリー施設、トレーニング施設や食堂などを備え、大学の各クラブをメディカル、サイエンス、フィジカル、テクノロジーの4方面からバックアップする。

「夢を達成するために、まず何より大切なのは安全であること。競技力を上げるためにはトレーニングが欠かせませんが『守り』も大事。トレーニングを一所懸命頑張ったら、その次はしっかりと栄養を摂り、休養すること。トレーニング、栄養摂取、身体のケア。この3つをバランスよく回していくことが大事です」

帝京大学ラグビー部では、全部員が寮生活を送っている。質の高いプレーをするには、生活環境の充実が欠かせない。中でも重要なのは、栄養バランスに優れた食事を摂ること。寮の食堂では管理栄養士が、練習で不足した栄養素を個別でアドバイス。大学卒業後も自ら栄養管理ができるように指導する。

「栄養摂取において大切なのは、何より選手自身がやる気になること。栄養士がいくらいいプログラムを組んでも、選手がちゃんと食べなければ意味がない。選手にはセルフマネジメントする能力が欠かせませんし、栄養士も選手のモチベーションに上手くアプローチする必要がある。今の時代は、栄養士にもコーチング能力が欠かせないと私は思っています」

■9割以上をいつでも出せる状態を作る。

チームは現在、グラウンドでラグビーの練習を行う日とフィジカルトレーニングを行う日を交互に設定し選手達はウェイトトレーニングをこなす。現在のトレーニングプログラムについて、就任12年目となる加藤慶フィジカルコーチは語る。

「私はウェイトトレーニングと、グラウンド上でのフィットネストレーニングの両方を担当し、選手達のフィジカル全般を見ています。選手個人個人が必要な筋肉を効率よく鍛えられるよう、専用メニューを作っています。
ウェイトトレーニングはチーム全体で、百草グラウンド横にあるクラブハウス内のトレーニングルームで週2回行います。選手たちには、個々の時間を利用しての頑張りも奨励しています。選手によっては、授業の空き時間などを利用して、この10月に立ち上げられたスポーツ医科学センター棟にあるトレーニングルームでトレーニングを行っている者もいます。」

年間を通じてウェイトトレーニングに取り組みますが、特に春のシーズンでは、筋肥大をメインテーマとして、大きく強い身体を作っていく。

「秋に向けた土台を春のうちに作っておくことを考えています。主な目的は筋肥大ですが、だからといって高レップスのトレーニングばかりをやりましょう、ということはありません。2~3週間の間で重量や回数に変化をつけて回しています。
秋のシーズンに入った今、意識しているのは、動ける状態をキープすること。ただし、春と比べてそれほど大きなメニューの変化はありません。特に意識させているのが、常に9割以上を出させること。筋力でもフィットネスでも9割以上をいつでも出せる状態を作り、本当に必要な時、10割以上の力を発揮できることが理想だと考えています」

かつては秋のシーズンに入ると、調整と疲労軽減のためにウェイトトレー二ングの回数を極端に落としていた。

「でもそれでは、どうしてもパフォーマンスが落ちる。身体のサイズの重要なスポーツなので、身体をしぼませないことを考えると、シーズン中もしっかりとウェイトトレーニングをしてほしい。
とはいえ重要な試合が近づいてくると、選手達はどうしても疲労の蓄積を恐れ、身体作りを二の次に考えがち。そのカルチャーを変えていくため、まず数年間をかけて、ウェイトトレーニングを継続する習慣をつけていきました。これが定着するのに、3~4年はかかりました。
でも、長いシーズンであるため、シーズン終盤の選手の身体を見ると、どうしてもややしぼんだ印象が拭えませんでした。見た目の威圧感が減るし、パフォーマンスも今一つ上がっていかない。そんな印象がありました。そこで、ウェイトトレーニング量を抑えて調整をする期間を年々先送りし、徐々に延ばしながら、調整を行っています。」

また年間を通じて身体作りを続ける中で、ウェイトトレーニングを急に減らすとケガが増える傾向があった。そこで、秋のシーズン中も基本的に練習日のサイクルをいじらず、ウェイトトレーニングでしっかりと身体を大きくしていく。

「シーズンが深まってくると、どうしてもグラウンドでの練習時間が増えます。でも岩出監督は身体作りの重要性をしっかり理解して下さっているので、ウェイトトレーニングの時間はきちんと確保できています」

■補食を取り入れ、自らの武器を再認識。

今季キャプテンを務めるのが、身長192㎝体重111㎏の大型LO・秋山大地選手だ。

「ウェイトトレーニングは高校時代から取り組んでいましたが、大学に入ってから強度が桁違いに上がりました。そしてグラウンドでのコンタクトの激しさも、高校ラグビーとはまるで比較にならない。そのため、どうしても当たり負けしてしまう。
2年生になってもなかなかAチームに上がれず、試合に出られない時期が続きました。それが悔しくて、2年から3年にかけて特に一所懸命ウェイトトレーニングに打ち込みました。自分の強みは何かと考えた時、やはり身長の大きさと当たりの強さだと思い、いい部分をもっと伸ばそうと考えた結果です」

3年生よりAチームに定着。そのころからウェイトトレーニングの頻度と食事とサプリメントの摂取量を増やしていった。特に意識したのが、捕食をしっかりと摂ることだ。

「2年上の先輩が卒業して、3年生になった自分がAチームに入った形でした。先輩の後を引き継がなくてはいけないし、何より新チームの弱点と思われたくない。だから必死でやりました。
身体作りにおいて特に意識したのが、3食の合間に、例えば、ジェルエックスやバーエックスなどのサプリメントを摂ること。その成果もあって、3年生の春のシーズンのころには、1年生の時に感じた当たりの弱さはなくなり、3年生の終わりには、身につけたパワーを実際のプレーに生かせている実感が生まれました。相手に当たり勝つフィジカルという、自分の武器を再認識できた気がします」

■日本代表入りという目標を意識し、本格的なトレーニングを開始。

1年生からスタートメンバーとして活躍を続ける副将のFB竹山晃暉選手は、高校時代まで、ウェイトトレーニングの経験がほとんどなかった。大学入学後間もなく、類いまれなスピードを武器に頭角を現したこともあり、身体作りの重要性を実感するまでには時間がかかった。

「スピードで勝負できていたので、正直、自分のフィジカルの弱さを痛感する機会がありませんでした。でも1年生の途中ぐらいから、徐々に身体作りに目が向くようになりました。なぜなら自分の身体は周りの選手と比べて明らかに細く、日本代表に入るという将来の目標を考えると、今やっておくべきだと思ったからです。
でも当時は、周りについていくだけで精いっぱい。他の選手は皆、重さを上げることを意識していましたが、僕はトレーニング器具に触れることからのスタート。特に上半身の筋肉量が、まったく足りませんでした」

それでも地道にウェイトトレーニングに打ち込み、3年生になると、徐々に成果を実感できるように。

「スピードが重視されるWTBというポジションを考えた時、一気に体重を上げすぎると動きが鈍くなる気がしたので、栄養士さんに相談しながら少しずつ上げていきました。3年生になって身体が大きくなったのは、サプリメントを本格的に摂り始めたことが大きいです。プロテインなどのサプリメントを摂ったことで、3年生の途中で83~84㎏になりました。今は身長176㎝体重86㎏。大学に入ったころから12㎏ぐらい増えています。
身体が大きくなり、プレーも変わりました。先日の慶應戦で感じたことなのですが、相手選手に当たった時に体重が乗る感触をつかむことができた。ブレイクダウンで負けることもなく、コンタクトでも十分勝負できる自信が生まれました。今年はポジションがFBに変更となり、より多くのパワーが求められます。そのため、強くコンタクトとケガをしない身体作りにフォーカスし、ウェイトトレーニングに取り組んでいます」

■激しい競り合いを経験することで、すべての取り組みの質が上がっていく。

大学選手権10連覇を目指す帝京大学ラグビー部は秋のシーズン開幕から3連勝を飾り、10月21日、慶應義塾大学との全勝対決に臨んだ。試合は息を飲むスリリングな展開から、24対19で帝京の勝利となった。

「ここまでの3試合は実力差のあるチームが相手だったので、比較的楽にトライを取れました。慶應戦は初めての競った試合で、本当の勝負の厳しさを思い知らされる結果になりました。ゲーム運びが思い通りに行かない時、どうやって立て直して戦っていくのかを考えさせられました。
戦術面で言えば、接点でのコンタクトの甘さが露呈した形になりました。ここを練習からもっとハードにしないと勝てないとわかりました。10連覇に向けてプレッシャーもありますが、目の前の試合に向けていい準備をしていきます」(秋山)

「慶應戦は個人的なパフォーマンスは悪くなかったのですが、リーダーシップがダメでした。FBはゲームを組み立てるポジションですが、その役割はほとんど果たせなかった。自分の力量不足がはっきりしましたし、もっと精神的に自立してゲームを組み立てていかなくてはと思っています。やはり10連覇は簡単ではないと実感させられました。
とはいえ、チームはまだまだ伸びしろだらけ。今取り組んでいる身体作りも、あと2~3カ月後に成果がはっきりと表れると思います。これから帝京らしさが戻って来るはずなので、そこまではケガをしないように気をつけていきます」(竹山)

「ああいった激しい競り合いを経験することで、チームとしてのすべての取り組みの質が上がっていく。そして、ひと回りもふた回りも伸びる可能性が生まれます。5点差の厳しいゲームでしたが、きっとここから先につながっていくでしょう。
勝つことも大切ですが、学生にはいい経験をさせてあげたい。もちろん優勝は素晴らしい経験になりますし、例え負けても、それもまたいい経験になり得る。選手達は勝負の楽しさと厳しさをちゃんと理解した上で、今という大切な時間を思い切り使い、最大限の挑戦をしてほしいと思います」(岩出)

チームはその後、早稲田大学に45対28で勝利するも、明治大学には15対23で敗北を喫してしまった。だが、チームに過度な焦りはない。対抗戦の先に控えるのは大学選手権。10連覇を見すえて、彼らは今のこの時期も、しっかりと身体に負荷をかける。

(終わり)

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■トレーニング、栄養摂取、身体のケアの3つを、バランスよく回す。

大学選手権9連覇を果たした帝京大学ラグビー部。強さの理由は多々あるが、そのうち一つが徹底的なストレングス強化だろう。チームは10年以上前から、グラウンドでラグビーの練習を行う日とフィジカルトレーニングを行う日を完全に分けるなど、身体作りを徹底的に重視してきた。岩出雅之監督は語る。※取材は10月23日に実施

「ウェイトトレーニングに本格的に取り組むようになってすでに20年近く経ちます。現在のような身体作りを重視したサイクルを採用したのは、日本のラグビー界では比較的早い方だったと思います。かつては強豪チームでも、ウェイトトレーニングは学生の自主性に任されることが多く、食事やサプリメントについてもきちんと管理していることはまれでした。そんな状況の中、私達はトレーニングと栄養摂取に積極的に取り組み、大きくてパワーがあり、動ける選手を育てることができた。それがここ9年、明確な結果を残してこれた理由の一つです。現在は多くのチームがフィジカルの重要性を痛感し、ウェイトトレーニングと栄養摂取にしっかりと取り組むようになりました。そのため、今はかつてほど、フィジカルの差はなくなっているのも確かです」

追い上げを狙う他校を突き放す、そして何より選手達の成長を促すため、岩出監督は練習環境の整備にも余念がない。2002年より管理栄養士によるサポートを開始。今年6月には百草グラウンド横に広いウェイトトレーニングルームを備えたクラブハウスを新設した。

大学とも全面的に連携。2011年に設立された「帝京大スポーツ医科学センター」が、医学とスポーツサイエンスの両面から選手達の安全をケアする。この10月には、百草グラウンドから近い八王子キャンパス内に、地上5階建ての「スポーツ医科学センター棟」がオープン。メディカルチェックルームやリカバリー施設、トレーニング施設や食堂などを備え、大学の各クラブをメディカル、サイエンス、フィジカル、テクノロジーの4方面からバックアップする。

「夢を達成するために、まず何より大切なのは安全であること。競技力を上げるためにはトレーニングが欠かせませんが『守り』も大事。トレーニングを一所懸命頑張ったら、その次はしっかりと栄養を摂り、休養すること。トレーニング、栄養摂取、身体のケア。この3つをバランスよく回していくことが大事です」

帝京大学ラグビー部では、全部員が寮生活を送っている。質の高いプレーをするには、生活環境の充実が欠かせない。中でも重要なのは、栄養バランスに優れた食事を摂ること。寮の食堂では管理栄養士が、練習で不足した栄養素を個別でアドバイス。大学卒業後も自ら栄養管理ができるように指導する。

「栄養摂取において大切なのは、何より選手自身がやる気になること。栄養士がいくらいいプログラムを組んでも、選手がちゃんと食べなければ意味がない。選手にはセルフマネジメントする能力が欠かせませんし、栄養士も選手のモチベーションに上手くアプローチする必要がある。今の時代は、栄養士にもコーチング能力が欠かせないと私は思っています」

■9割以上をいつでも出せる状態を作る。

チームは現在、グラウンドでラグビーの練習を行う日とフィジカルトレーニングを行う日を交互に設定し選手達はウェイトトレーニングをこなす。現在のトレーニングプログラムについて、就任12年目となる加藤慶フィジカルコーチは語る。

「私はウェイトトレーニングと、グラウンド上でのフィットネストレーニングの両方を担当し、選手達のフィジカル全般を見ています。選手個人個人が必要な筋肉を効率よく鍛えられるよう、専用メニューを作っています。
ウェイトトレーニングはチーム全体で、百草グラウンド横にあるクラブハウス内のトレーニングルームで週2回行います。選手たちには、個々の時間を利用しての頑張りも奨励しています。選手によっては、授業の空き時間などを利用して、この10月に立ち上げられたスポーツ医科学センター棟にあるトレーニングルームでトレーニングを行っている者もいます。」

年間を通じてウェイトトレーニングに取り組みますが、特に春のシーズンでは、筋肥大をメインテーマとして、大きく強い身体を作っていく。

「秋に向けた土台を春のうちに作っておくことを考えています。主な目的は筋肥大ですが、だからといって高レップスのトレーニングばかりをやりましょう、ということはありません。2~3週間の間で重量や回数に変化をつけて回しています。
秋のシーズンに入った今、意識しているのは、動ける状態をキープすること。ただし、春と比べてそれほど大きなメニューの変化はありません。特に意識させているのが、常に9割以上を出させること。筋力でもフィットネスでも9割以上をいつでも出せる状態を作り、本当に必要な時、10割以上の力を発揮できることが理想だと考えています」

かつては秋のシーズンに入ると、調整と疲労軽減のためにウェイトトレー二ングの回数を極端に落としていた。

「でもそれでは、どうしてもパフォーマンスが落ちる。身体のサイズの重要なスポーツなので、身体をしぼませないことを考えると、シーズン中もしっかりとウェイトトレーニングをしてほしい。
とはいえ重要な試合が近づいてくると、選手達はどうしても疲労の蓄積を恐れ、身体作りを二の次に考えがち。そのカルチャーを変えていくため、まず数年間をかけて、ウェイトトレーニングを継続する習慣をつけていきました。これが定着するのに、3~4年はかかりました。
でも、長いシーズンであるため、シーズン終盤の選手の身体を見ると、どうしてもややしぼんだ印象が拭えませんでした。見た目の威圧感が減るし、パフォーマンスも今一つ上がっていかない。そんな印象がありました。そこで、ウェイトトレーニング量を抑えて調整をする期間を年々先送りし、徐々に延ばしながら、調整を行っています。」

また年間を通じて身体作りを続ける中で、ウェイトトレーニングを急に減らすとケガが増える傾向があった。そこで、秋のシーズン中も基本的に練習日のサイクルをいじらず、ウェイトトレーニングでしっかりと身体を大きくしていく。

「シーズンが深まってくると、どうしてもグラウンドでの練習時間が増えます。でも岩出監督は身体作りの重要性をしっかり理解して下さっているので、ウェイトトレーニングの時間はきちんと確保できています」

■補食を取り入れ、自らの武器を再認識。

今季キャプテンを務めるのが、身長192㎝体重111㎏の大型LO・秋山大地選手だ。

「ウェイトトレーニングは高校時代から取り組んでいましたが、大学に入ってから強度が桁違いに上がりました。そしてグラウンドでのコンタクトの激しさも、高校ラグビーとはまるで比較にならない。そのため、どうしても当たり負けしてしまう。
2年生になってもなかなかAチームに上がれず、試合に出られない時期が続きました。それが悔しくて、2年から3年にかけて特に一所懸命ウェイトトレーニングに打ち込みました。自分の強みは何かと考えた時、やはり身長の大きさと当たりの強さだと思い、いい部分をもっと伸ばそうと考えた結果です」

3年生よりAチームに定着。そのころからウェイトトレーニングの頻度と食事とサプリメントの摂取量を増やしていった。特に意識したのが、捕食をしっかりと摂ることだ。

「2年上の先輩が卒業して、3年生になった自分がAチームに入った形でした。先輩の後を引き継がなくてはいけないし、何より新チームの弱点と思われたくない。だから必死でやりました。
身体作りにおいて特に意識したのが、3食の合間に、例えば、ジェルエックスやバーエックスなどのサプリメントを摂ること。その成果もあって、3年生の春のシーズンのころには、1年生の時に感じた当たりの弱さはなくなり、3年生の終わりには、身につけたパワーを実際のプレーに生かせている実感が生まれました。相手に当たり勝つフィジカルという、自分の武器を再認識できた気がします」

■日本代表入りという目標を意識し、本格的なトレーニングを開始。

1年生からスタートメンバーとして活躍を続ける副将のFB竹山晃暉選手は、高校時代まで、ウェイトトレーニングの経験がほとんどなかった。大学入学後間もなく、類いまれなスピードを武器に頭角を現したこともあり、身体作りの重要性を実感するまでには時間がかかった。

「スピードで勝負できていたので、正直、自分のフィジカルの弱さを痛感する機会がありませんでした。でも1年生の途中ぐらいから、徐々に身体作りに目が向くようになりました。なぜなら自分の身体は周りの選手と比べて明らかに細く、日本代表に入るという将来の目標を考えると、今やっておくべきだと思ったからです。
でも当時は、周りについていくだけで精いっぱい。他の選手は皆、重さを上げることを意識していましたが、僕はトレーニング器具に触れることからのスタート。特に上半身の筋肉量が、まったく足りませんでした」

それでも地道にウェイトトレーニングに打ち込み、3年生になると、徐々に成果を実感できるように。

「スピードが重視されるWTBというポジションを考えた時、一気に体重を上げすぎると動きが鈍くなる気がしたので、栄養士さんに相談しながら少しずつ上げていきました。3年生になって身体が大きくなったのは、サプリメントを本格的に摂り始めたことが大きいです。プロテインなどのサプリメントを摂ったことで、3年生の途中で83~84㎏になりました。今は身長176㎝体重86㎏。大学に入ったころから12㎏ぐらい増えています。
身体が大きくなり、プレーも変わりました。先日の慶應戦で感じたことなのですが、相手選手に当たった時に体重が乗る感触をつかむことができた。ブレイクダウンで負けることもなく、コンタクトでも十分勝負できる自信が生まれました。今年はポジションがFBに変更となり、より多くのパワーが求められます。そのため、強くコンタクトとケガをしない身体作りにフォーカスし、ウェイトトレーニングに取り組んでいます」

■激しい競り合いを経験することで、すべての取り組みの質が上がっていく。

大学選手権10連覇を目指す帝京大学ラグビー部は秋のシーズン開幕から3連勝を飾り、10月21日、慶應義塾大学との全勝対決に臨んだ。試合は息を飲むスリリングな展開から、24対19で帝京の勝利となった。

「ここまでの3試合は実力差のあるチームが相手だったので、比較的楽にトライを取れました。慶應戦は初めての競った試合で、本当の勝負の厳しさを思い知らされる結果になりました。ゲーム運びが思い通りに行かない時、どうやって立て直して戦っていくのかを考えさせられました。
戦術面で言えば、接点でのコンタクトの甘さが露呈した形になりました。ここを練習からもっとハードにしないと勝てないとわかりました。10連覇に向けてプレッシャーもありますが、目の前の試合に向けていい準備をしていきます」(秋山)

「慶應戦は個人的なパフォーマンスは悪くなかったのですが、リーダーシップがダメでした。FBはゲームを組み立てるポジションですが、その役割はほとんど果たせなかった。自分の力量不足がはっきりしましたし、もっと精神的に自立してゲームを組み立てていかなくてはと思っています。やはり10連覇は簡単ではないと実感させられました。
とはいえ、チームはまだまだ伸びしろだらけ。今取り組んでいる身体作りも、あと2~3カ月後に成果がはっきりと表れると思います。これから帝京らしさが戻って来るはずなので、そこまではケガをしないように気をつけていきます」(竹山)

「ああいった激しい競り合いを経験することで、チームとしてのすべての取り組みの質が上がっていく。そして、ひと回りもふた回りも伸びる可能性が生まれます。5点差の厳しいゲームでしたが、きっとここから先につながっていくでしょう。
勝つことも大切ですが、学生にはいい経験をさせてあげたい。もちろん優勝は素晴らしい経験になりますし、例え負けても、それもまたいい経験になり得る。選手達は勝負の楽しさと厳しさをちゃんと理解した上で、今という大切な時間を思い切り使い、最大限の挑戦をしてほしいと思います」(岩出)

チームはその後、早稲田大学に45対28で勝利するも、明治大学には15対23で敗北を喫してしまった。だが、チームに過度な焦りはない。対抗戦の先に控えるのは大学選手権。10連覇を見すえて、彼らは今のこの時期も、しっかりと身体に負荷をかける。

(終わり)