体重・筋量UP

日本人よ、もっと鍛えよ ~サッカー編その2・前編 日本人選手に足りない「フィジカル」の正体とは?

日本人よ、もっと鍛えよ
~サッカー編その2・前編 日本人選手に足りない「フィジカル」の正体とは?

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日本人よ、もっと鍛えよ ~サッカー編その2・前編 日本人選手に足りない「フィジカル」の正体とは?

日本人よ、もっと鍛えよ
~サッカー編その2・前編 日本人選手に足りない「フィジカル」の正体とは?

サッカーの日本代表への逆風が吹き荒れている。史上最強ともいわれていた日本代表は6月、2敗1分けで予選敗退という戦績とともにブラジルを去った。期待を裏切る惨敗の原因は、果たして何だったのか。
不可解な采配、ベースキャンプ地の選定ミス、決定力不足、選手のメンタルの弱さ、強豪相手のアウェイの真剣勝負の少なさ…多くのメディアがさまざまな要因を指摘した。そんな中、攻撃の中心選手が自らのホームページの中で、今の日本代表が改善すべき課題として「身体能力の向上」を明確に掲げ「相手に競り勝つというよりも、当たられても負けない身体作りをしていく」という決意を述べた。

彼が言う「当たられても負けない身体作り」。その必要性は、図らずも本メディア6月特集「日本人よ、もっと鍛えよ~サッカー編 日本人選手のフィジカルは、本当にこのままでいいのか?」にて、われわれが指摘したことだ。われわれはかねてからサッカー日本代表選手の体格の貧弱さに着目。「もっと鍛えよ!」というエールを送ってきた。そもそもこれは、2006年ドイツでの惨敗後、当時のジーコ監督がすでに指摘していたことであり、それが8年経った今年も、まったく改善されていなかったことがはっきりした。
ブラジルでの惨敗を経ても「フィジカルの弱さをまず解決すべきだ」という声は、上記の中心選手を除いてあまり聞こえてこない。それどころか選手も指導者も、そしてファンの皆さんも「日本人は生まれついて体格が小さい。だからヨーロッパや南米、アフリカのサッカー選手に負けないフィジカルを作ることは不可能だ」と思い込み、身体能力の向上を諦めている。そんな印象すらある。

果たして、本当にそうなのだろうか。いくら日本人が本気で筋力トレーニングをしても、ヨーロッパや南米、アフリカの選手達と互角に渡り合える身体能力を作ることは、不可能なのだろうか?
決してそのようなことはない。プロ野球やラグビーのトップ選手、そして多くのオリンピックアスリートのトレーニングに携わってきたドームアスリートハウスのトレーナー達の目には、日本のサッカー選手の身体は、アスリートとしてすべき最低限の筋力トレーニングすらされていない貧弱なものに映るという。その理由が、然るべき年代から正しい筋力トレーニングに取り組んでいないことであるのは明白だ。

サッカー選手には本当に、筋力トレーニングは不要なのだろうか?
決してそんなことはない。われわれはそう断言する。

正しい筋力トレーニングを正しいタイミングで行い、適切に栄養を摂取すれば、日本人であっても世界トップクラスの国々と互角に渡り合える身体能力を身につけることはできる。選手も指導者も、そしてファンの皆さんも、さしたる根拠もない「日本人の体は強く、速く、大きくはならない」という迷信にとらわれているだけだ。

今回の特集は、多くの反響をいただいた「日本人よ、もっと鍛えよ~サッカー編 日本人選手のフィジカルは、本当にこのままでいいのか?」の続編である。ドームアスリートハウスのジェネラルマネージャー・友岡和彦、自らもサッカー経験者であり、Jリーガーのトレーニング指導を現在手がけるトレーナー・多良耕太郎に話を聞き、今の日本のサッカー選手の問題点と行うべきトレーニングについて、前後編の2回に分けて伝えていく。

■日本のサッカー選手に最も足りないのは、最大筋力

「世界トップクラスの国の選手は、みんな身体が大きくて当たりが強い。日本は選手の体格でも質量(=体重)でも完全に負けている。トップ選手達はみんな科学的なフィジカルトレーニングをしっかり行っているように見受けられますし、実際にそうだと思います。彼らと肩を並べようと考えるなら、サッカーの技術のみならず、それにふさわしいフィジカルトレーニングを行わなねばならないのは明白です」(友岡)

なぜ、サッカー選手が身体を大きくする必要があるのか。まずはそこから探っていきたい。

「サッカーの試合中のコンタクトは、格闘技に近い激しさです。ボールを巡って競り合い、ジャージを引っ張られたり抵抗をかけられながらも、前に進まねばなりません。体重が軽すぎると、飛ばされてしまいますよね。

ただし日本国内の論調として『日本人と外国人には生まれついてのパワーの差がある』という考えが主流となっているのは否めません。確かに今現在、生活環境や食生活の違いで、日本人選手の体格とパワーがヨーロッパや南米、アフリカの選手達に劣るのは確か。しかし日本人のサッカー選手の筋力アップへの取り組みはまだまだ不十分。フィジカルに関しては改善の余地が多々ある。筋量を増やして筋出力を上げることに、全体で取り組んでいく必要があると思っています」(友岡)

「サッカーは押し合って相手を倒すコンタクトスポーツではありません。だから、ラグビーやアメフト選手のような質量は必要ない。サッカーにおけるコンタクトプレーの目的は、相手を吹っ飛ばすよりも自分のプレーエリアを確保すること。そのために大事なのは、まっすぐな正しい姿勢を維持し、フェイントをかけられようと身体をぶつけられようと、それを崩さないこと。そのためには強いフィジカルとともに、柔軟性やフットワーク、バランス感覚も必要になります」(多良)

そもそもまず、日本のサッカー選手に特に欠けている「フィジカル」とは、具体的にどのような要素を指すのか。瞬発的なのか最大筋力なのか筋持久力なのか、柔軟性なのか反応能力なのか、アジリティなのか。持久力にしても10km走る持久力なのか、ショートスプリントにおける乳酸除去能力という意味なのか。もしフィジカルという言葉を「身体能力全般」と定義した場合、サッカー選手に必要な要素はその中の何だろうか。そして、日本人のアドバンテージとは何なのか。

「まず最も必要なのは、1試合あたりトータル8~10kmを、ダッシュを繰り返しながら走り続ける持久力。これはベースとして非常に大切なものです。その上で、何が勝敗を決めるのか。筋出力、筋持久力、柔軟性、反応能力、アジリティ、乳酸除去能力…すべての要素が必要になってきます。

これはサッカー選手に限ったことではありませんが、日本人ならではのアドバンテージは『感覚』。繊細なボールタッチ、相手との駆け引きといった感覚が研ぎ澄まされていることで、それは世界トップクラスです。だからこそ、筋力アップが必要なんです。武器とする感覚で勝負するには、最低限、世界と対等に戦えるフィジカルを持っていたい。何も、フィジカルを前面に押し出して勝負しろ、と言っているわけではありません。日本人の優れた利点である感覚で勝負するために、フィジカルを最低限のレベルに持って行こう、ということです」(友岡)

では、さまざまなフィジカルの構成要素の中で、日本のサッカー選手に最も足りていないものは何だろう。

「最大筋力です。でも日本のサッカー選手は、最大筋力を高めるトレーニングをほとんどしていないのが現状です。ただし、今プロの選手にそれを言っても響かないかもしれない。なぜならJリーグのチームも含め、筋力トレーニングをしっかりやる文化がないからです」(友岡)

「Jリーグのチームからユース、高校サッカーにいたるまで、ボールを扱う以外の練習はランニング系とコアトレーニングが中心。その中で多くの選手が、コアを鍛えて動きの質を上げることで、自分の身体が持つポテンシャルを最大限に引き出すことを考えている。それは決して間違ってはいないのですが、身体のポテンシャルのベースとなる最大筋力を底上げすることも考えなくてはいけません。体幹トレーニングもいいのですが、まずは最大筋力を上げ、体をひと回り大きくすることを考えてほしい」(多良)

■大きくて強い選手達の中に混じるからこそ生きる日本人選手

しかし、小柄で軽量ながらもヨーロッパの名門チームで活躍している日本人選手はいる。

「確かにヨーロッパのチームで活躍していますが、彼らはコンタクトの負担が比較的少ないポジションです。中央ポジションの選手ですが、小柄で機動力やアジリティに優れており、それがヨーロッパの選手達にない独特の強みになっている。ヨーロッパのチームの中で、彼らは助っ人外国人。大きくて強いヨーロッパや南米、アフリカの選手達の中に混じっているからこそ、生きる面はあると思います。
それに対して、最前線で身体を張るセンターフォワードや対峙するセンターバック、守備的ミッドフィールダーでは、ヨーロッパで活躍ができている日本人選手はまだいません。そしてコンタクトの負担が比較的少ないポジションの選手でも、屈強な選手達がそろう所属クラブとサイズ、筋力に劣る日本代表とでは、当然ながら求められる役割が変わってきます。残念ながら彼らが日本代表では所属クラブほどの活躍ができないのは、チームメイトの違いも要因の一つだと思います。
もちろんポジションや体格、プレースタイルにもよりますが、中央で身体を張る選手達は、80kgぐらいはほしいですね。体重が重くなる=スピードが遅くなる、ということはありません。それは世界トップクラスのラグビー選手やアメフト選手を見れば明白ですし、パワーがつくことで、プレースタイルの幅は確実に広がります」(多良)

「勘違いしてほしくないのが、問題は体重が少ないことではなく、世界で戦っていくための正しい身体作り、トレーニングができていないこと。だから、僕達は『ただ体重を増やせばいい』と言っているわけではありません。まず大事なのは、正しい筋力トレーニングをすること。そしてその結果、自然と必要なだけ大きくなる。そんなイメージで解釈してほしいです。決してボディビルダーやアメリカンフットボールやラグビーの選手のような身体になるべきだ、という意味ではない。そこは誤解してほしくありません」(友岡)

■ウエイトトレーニングを行うと身体が重く、硬くなる。それは本当なのか?

パワーと体重アップの必要性を切に感じ、ドームアスリートハウスで友岡や多良の指導の元、フィジカルトレーニングに励んでいるJリーガーはすでに何人もいる。

「ここに来る選手はみんな『身体を大きくしたい』『体重を増やして、ボディコンタクトで当たり負けない身体を作りたい』という目標を持っています。今の20代のJリーガーは、ヨーロッパでのプレーを目指すのが当たり前。海外でのプレーを見越した身体作りの大切さを切実に感じており、そのためには、身体を大きくする必要があることはすでにわかっている。でも、何をすればいいのかわからない。それが現状です。

要は、チームのトレーニングをこなすだけでは世界に追いつけないことはわかっているんです。ここに来ているある選手は最初細かったのですが、徐々に大きくなって6~7kg体重を上げ、対人プレーがとても強くなった。当たり負けることはほとんどなくなりましたね」(多良)

ただし筋力トレーニング、特に器具を使ったウエイトトレーニングに反対する指導者や選手が依然として多いのも確か。彼らは「筋力を上げると動きが遅くなり、硬くなり、感覚が鈍る」という意見を唱え続けている。そして今の日本のサッカー選手のほとんどは、それらの理由で身体を大きくすることに不安感を覚えている。

「確かに、何も考えずにただバルクを上げるためのウエイトトレーニングだけをすれば、おのずと体重が増えます。その結果、スピードが落ちる可能性はある。

まず、急激に体重を増やすことは避けてほしいです。ゆっくりと段階的に上げるべきで、一般的な目安は1週間で300~400g。1カ月で1.5kg以内でしょう。短期間で上げると、どうしても脂肪が付いてしまうんです。

急激に身体を大きくすると、もともとの自分のイメージと実際の動きがずれる。脳との動きの誤差が出るので、段階的に体重を上げつつ、神経系のトレーニングなどでイメージと実際の動きをつなぎ、ギャップを解消していかないと誤作動が起こる。

そして、トレーニングメニューも注意が必要です。速度の遅いウエイトトレーニングばかりを行っていると、動作が鈍ってしまいます。つまり、速筋と遅筋をバランスよく刺激する必要があるのです。一般的なウエイトトレーニングは動きが遅く、動きの速度が実際の競技とは違う。スピードや実際の動きをまったく考えずにバルクアップだけを行うと、見た目が大きいだけの身体になってしまうのです。筋力トレーニングを行う際、そこは考慮せねばなりません」(友岡)

では、世界で戦うために身体を大きくしつつ、競技に則した動きの質を維持・向上させるには、どのような工夫をすればいいのだろうか。

「動きのキレを出す時には、筋力トレーニングのスピードを上げねばなりません。例えばスクワットなら、通常のゆっくり行うだけでは、神経がそのスピードを覚えてしまう。ゆっくり行うスクワットで最大筋力を高めることも重要ですが、そこに、例えばスクワットジャンプなどのメニューを加える。それにより神経回路が対応し、速い動きが生まれる。ある程度の筋力がついた後で、そういったトレーニングを行うことで動きの質を維持・向上させることができます。

筋力トレーニングとグラウンドでの練習をなるべく切り離して考えないことが大事です。例えば最大筋力を高めるためにスローなスクワットを行った後で、アジリティを向上させるためにラダーやショートダッシュを行うことは、とても有効だと思います」(多良)

ただし速度が遅いウエイトトレーニングも、最大筋力を高める上での基礎となるもの。ゆえに、決して避けてはいけない。神経系トレーニングはあくまで、ベーシックなウエイトトレーニングと並行して行うべきものだ。

「要は時期によって、何をトレーニングの目的とするのかを考えなくてはなりません。例えば2~3週間、みっちりとスタンダードなウエイトトレーニングをやり込む。するともしかすると、体が重いと感じる可能性もあります。要は、パワーはつくけれども違和感があるわけです。それは当然のことで、そこから体をなじませていけばいい。そして次の段階として、2~3週間、今度はウエイトトレーニングの頻度を週1度程度に下げ、スプリントの練習を増やし、動きづらさを解消していく。その繰り返しによって、サイズとスピードを兼ね備えた選手に成長していくのです。

また、ウエイトトレーニングを行うと動きが硬くなり、しなやかさがなくなる、という意見も多く聞きます。確かに、ウエイトトレーニングは基本的に一方向の動きなので、行い方次第で可動域を制限する。その結果、柔軟性が失われる可能性はある。

それを解消するには、ウエイトトレーニングの間に、柔軟性を上げるトレーニングやストレッチを入れる、といったことが必要になります。これは、トレーナーによってアプローチが若干異なる面があります」

続く後編では、サッカー選手が強化すべきポイントと必要なトレーニングについての見解を述べていく。

(その1を読む)
(後編へ続く)

 




Text:
前田成彦
DESIRE TO EVOLUTION編集長(株式会社ドーム コンテンツ企画部所属)。学生~社会人にてアメリカンフットボールを経験。趣味であるブラジリアン柔術の競技力向上、そして学生時代のベンチプレスMAX超えを目標に奮闘するも、誘惑に負け続ける日々を送る。お気に入りのマッスルメイトはホエイSP。

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サッカーの日本代表への逆風が吹き荒れている。史上最強ともいわれていた日本代表は6月、2敗1分けで予選敗退という戦績とともにブラジルを去った。期待を裏切る惨敗の原因は、果たして何だったのか。
不可解な采配、ベースキャンプ地の選定ミス、決定力不足、選手のメンタルの弱さ、強豪相手のアウェイの真剣勝負の少なさ…多くのメディアがさまざまな要因を指摘した。そんな中、攻撃の中心選手が自らのホームページの中で、今の日本代表が改善すべき課題として「身体能力の向上」を明確に掲げ「相手に競り勝つというよりも、当たられても負けない身体作りをしていく」という決意を述べた。

彼が言う「当たられても負けない身体作り」。その必要性は、図らずも本メディア6月特集「日本人よ、もっと鍛えよ~サッカー編 日本人選手のフィジカルは、本当にこのままでいいのか?」にて、われわれが指摘したことだ。われわれはかねてからサッカー日本代表選手の体格の貧弱さに着目。「もっと鍛えよ!」というエールを送ってきた。そもそもこれは、2006年ドイツでの惨敗後、当時のジーコ監督がすでに指摘していたことであり、それが8年経った今年も、まったく改善されていなかったことがはっきりした。
ブラジルでの惨敗を経ても「フィジカルの弱さをまず解決すべきだ」という声は、上記の中心選手を除いてあまり聞こえてこない。それどころか選手も指導者も、そしてファンの皆さんも「日本人は生まれついて体格が小さい。だからヨーロッパや南米、アフリカのサッカー選手に負けないフィジカルを作ることは不可能だ」と思い込み、身体能力の向上を諦めている。そんな印象すらある。

果たして、本当にそうなのだろうか。いくら日本人が本気で筋力トレーニングをしても、ヨーロッパや南米、アフリカの選手達と互角に渡り合える身体能力を作ることは、不可能なのだろうか?
決してそのようなことはない。プロ野球やラグビーのトップ選手、そして多くのオリンピックアスリートのトレーニングに携わってきたドームアスリートハウスのトレーナー達の目には、日本のサッカー選手の身体は、アスリートとしてすべき最低限の筋力トレーニングすらされていない貧弱なものに映るという。その理由が、然るべき年代から正しい筋力トレーニングに取り組んでいないことであるのは明白だ。

サッカー選手には本当に、筋力トレーニングは不要なのだろうか?
決してそんなことはない。われわれはそう断言する。

正しい筋力トレーニングを正しいタイミングで行い、適切に栄養を摂取すれば、日本人であっても世界トップクラスの国々と互角に渡り合える身体能力を身につけることはできる。選手も指導者も、そしてファンの皆さんも、さしたる根拠もない「日本人の体は強く、速く、大きくはならない」という迷信にとらわれているだけだ。

今回の特集は、多くの反響をいただいた「日本人よ、もっと鍛えよ~サッカー編 日本人選手のフィジカルは、本当にこのままでいいのか?」の続編である。ドームアスリートハウスのジェネラルマネージャー・友岡和彦、自らもサッカー経験者であり、Jリーガーのトレーニング指導を現在手がけるトレーナー・多良耕太郎に話を聞き、今の日本のサッカー選手の問題点と行うべきトレーニングについて、前後編の2回に分けて伝えていく。

■日本のサッカー選手に最も足りないのは、最大筋力

「世界トップクラスの国の選手は、みんな身体が大きくて当たりが強い。日本は選手の体格でも質量(=体重)でも完全に負けている。トップ選手達はみんな科学的なフィジカルトレーニングをしっかり行っているように見受けられますし、実際にそうだと思います。彼らと肩を並べようと考えるなら、サッカーの技術のみならず、それにふさわしいフィジカルトレーニングを行わなねばならないのは明白です」(友岡)

なぜ、サッカー選手が身体を大きくする必要があるのか。まずはそこから探っていきたい。

「サッカーの試合中のコンタクトは、格闘技に近い激しさです。ボールを巡って競り合い、ジャージを引っ張られたり抵抗をかけられながらも、前に進まねばなりません。体重が軽すぎると、飛ばされてしまいますよね。

ただし日本国内の論調として『日本人と外国人には生まれついてのパワーの差がある』という考えが主流となっているのは否めません。確かに今現在、生活環境や食生活の違いで、日本人選手の体格とパワーがヨーロッパや南米、アフリカの選手達に劣るのは確か。しかし日本人のサッカー選手の筋力アップへの取り組みはまだまだ不十分。フィジカルに関しては改善の余地が多々ある。筋量を増やして筋出力を上げることに、全体で取り組んでいく必要があると思っています」(友岡)

「サッカーは押し合って相手を倒すコンタクトスポーツではありません。だから、ラグビーやアメフト選手のような質量は必要ない。サッカーにおけるコンタクトプレーの目的は、相手を吹っ飛ばすよりも自分のプレーエリアを確保すること。そのために大事なのは、まっすぐな正しい姿勢を維持し、フェイントをかけられようと身体をぶつけられようと、それを崩さないこと。そのためには強いフィジカルとともに、柔軟性やフットワーク、バランス感覚も必要になります」(多良)

そもそもまず、日本のサッカー選手に特に欠けている「フィジカル」とは、具体的にどのような要素を指すのか。瞬発的なのか最大筋力なのか筋持久力なのか、柔軟性なのか反応能力なのか、アジリティなのか。持久力にしても10km走る持久力なのか、ショートスプリントにおける乳酸除去能力という意味なのか。もしフィジカルという言葉を「身体能力全般」と定義した場合、サッカー選手に必要な要素はその中の何だろうか。そして、日本人のアドバンテージとは何なのか。

「まず最も必要なのは、1試合あたりトータル8~10kmを、ダッシュを繰り返しながら走り続ける持久力。これはベースとして非常に大切なものです。その上で、何が勝敗を決めるのか。筋出力、筋持久力、柔軟性、反応能力、アジリティ、乳酸除去能力…すべての要素が必要になってきます。

これはサッカー選手に限ったことではありませんが、日本人ならではのアドバンテージは『感覚』。繊細なボールタッチ、相手との駆け引きといった感覚が研ぎ澄まされていることで、それは世界トップクラスです。だからこそ、筋力アップが必要なんです。武器とする感覚で勝負するには、最低限、世界と対等に戦えるフィジカルを持っていたい。何も、フィジカルを前面に押し出して勝負しろ、と言っているわけではありません。日本人の優れた利点である感覚で勝負するために、フィジカルを最低限のレベルに持って行こう、ということです」(友岡)

では、さまざまなフィジカルの構成要素の中で、日本のサッカー選手に最も足りていないものは何だろう。

「最大筋力です。でも日本のサッカー選手は、最大筋力を高めるトレーニングをほとんどしていないのが現状です。ただし、今プロの選手にそれを言っても響かないかもしれない。なぜならJリーグのチームも含め、筋力トレーニングをしっかりやる文化がないからです」(友岡)

「Jリーグのチームからユース、高校サッカーにいたるまで、ボールを扱う以外の練習はランニング系とコアトレーニングが中心。その中で多くの選手が、コアを鍛えて動きの質を上げることで、自分の身体が持つポテンシャルを最大限に引き出すことを考えている。それは決して間違ってはいないのですが、身体のポテンシャルのベースとなる最大筋力を底上げすることも考えなくてはいけません。体幹トレーニングもいいのですが、まずは最大筋力を上げ、体をひと回り大きくすることを考えてほしい」(多良)

■大きくて強い選手達の中に混じるからこそ生きる日本人選手

しかし、小柄で軽量ながらもヨーロッパの名門チームで活躍している日本人選手はいる。

「確かにヨーロッパのチームで活躍していますが、彼らはコンタクトの負担が比較的少ないポジションです。中央ポジションの選手ですが、小柄で機動力やアジリティに優れており、それがヨーロッパの選手達にない独特の強みになっている。ヨーロッパのチームの中で、彼らは助っ人外国人。大きくて強いヨーロッパや南米、アフリカの選手達の中に混じっているからこそ、生きる面はあると思います。
それに対して、最前線で身体を張るセンターフォワードや対峙するセンターバック、守備的ミッドフィールダーでは、ヨーロッパで活躍ができている日本人選手はまだいません。そしてコンタクトの負担が比較的少ないポジションの選手でも、屈強な選手達がそろう所属クラブとサイズ、筋力に劣る日本代表とでは、当然ながら求められる役割が変わってきます。残念ながら彼らが日本代表では所属クラブほどの活躍ができないのは、チームメイトの違いも要因の一つだと思います。
もちろんポジションや体格、プレースタイルにもよりますが、中央で身体を張る選手達は、80kgぐらいはほしいですね。体重が重くなる=スピードが遅くなる、ということはありません。それは世界トップクラスのラグビー選手やアメフト選手を見れば明白ですし、パワーがつくことで、プレースタイルの幅は確実に広がります」(多良)

「勘違いしてほしくないのが、問題は体重が少ないことではなく、世界で戦っていくための正しい身体作り、トレーニングができていないこと。だから、僕達は『ただ体重を増やせばいい』と言っているわけではありません。まず大事なのは、正しい筋力トレーニングをすること。そしてその結果、自然と必要なだけ大きくなる。そんなイメージで解釈してほしいです。決してボディビルダーやアメリカンフットボールやラグビーの選手のような身体になるべきだ、という意味ではない。そこは誤解してほしくありません」(友岡)

■ウエイトトレーニングを行うと身体が重く、硬くなる。それは本当なのか?

パワーと体重アップの必要性を切に感じ、ドームアスリートハウスで友岡や多良の指導の元、フィジカルトレーニングに励んでいるJリーガーはすでに何人もいる。

「ここに来る選手はみんな『身体を大きくしたい』『体重を増やして、ボディコンタクトで当たり負けない身体を作りたい』という目標を持っています。今の20代のJリーガーは、ヨーロッパでのプレーを目指すのが当たり前。海外でのプレーを見越した身体作りの大切さを切実に感じており、そのためには、身体を大きくする必要があることはすでにわかっている。でも、何をすればいいのかわからない。それが現状です。

要は、チームのトレーニングをこなすだけでは世界に追いつけないことはわかっているんです。ここに来ているある選手は最初細かったのですが、徐々に大きくなって6~7kg体重を上げ、対人プレーがとても強くなった。当たり負けることはほとんどなくなりましたね」(多良)

ただし筋力トレーニング、特に器具を使ったウエイトトレーニングに反対する指導者や選手が依然として多いのも確か。彼らは「筋力を上げると動きが遅くなり、硬くなり、感覚が鈍る」という意見を唱え続けている。そして今の日本のサッカー選手のほとんどは、それらの理由で身体を大きくすることに不安感を覚えている。

「確かに、何も考えずにただバルクを上げるためのウエイトトレーニングだけをすれば、おのずと体重が増えます。その結果、スピードが落ちる可能性はある。

まず、急激に体重を増やすことは避けてほしいです。ゆっくりと段階的に上げるべきで、一般的な目安は1週間で300~400g。1カ月で1.5kg以内でしょう。短期間で上げると、どうしても脂肪が付いてしまうんです。

急激に身体を大きくすると、もともとの自分のイメージと実際の動きがずれる。脳との動きの誤差が出るので、段階的に体重を上げつつ、神経系のトレーニングなどでイメージと実際の動きをつなぎ、ギャップを解消していかないと誤作動が起こる。

そして、トレーニングメニューも注意が必要です。速度の遅いウエイトトレーニングばかりを行っていると、動作が鈍ってしまいます。つまり、速筋と遅筋をバランスよく刺激する必要があるのです。一般的なウエイトトレーニングは動きが遅く、動きの速度が実際の競技とは違う。スピードや実際の動きをまったく考えずにバルクアップだけを行うと、見た目が大きいだけの身体になってしまうのです。筋力トレーニングを行う際、そこは考慮せねばなりません」(友岡)

では、世界で戦うために身体を大きくしつつ、競技に則した動きの質を維持・向上させるには、どのような工夫をすればいいのだろうか。

「動きのキレを出す時には、筋力トレーニングのスピードを上げねばなりません。例えばスクワットなら、通常のゆっくり行うだけでは、神経がそのスピードを覚えてしまう。ゆっくり行うスクワットで最大筋力を高めることも重要ですが、そこに、例えばスクワットジャンプなどのメニューを加える。それにより神経回路が対応し、速い動きが生まれる。ある程度の筋力がついた後で、そういったトレーニングを行うことで動きの質を維持・向上させることができます。

筋力トレーニングとグラウンドでの練習をなるべく切り離して考えないことが大事です。例えば最大筋力を高めるためにスローなスクワットを行った後で、アジリティを向上させるためにラダーやショートダッシュを行うことは、とても有効だと思います」(多良)

ただし速度が遅いウエイトトレーニングも、最大筋力を高める上での基礎となるもの。ゆえに、決して避けてはいけない。神経系トレーニングはあくまで、ベーシックなウエイトトレーニングと並行して行うべきものだ。

「要は時期によって、何をトレーニングの目的とするのかを考えなくてはなりません。例えば2~3週間、みっちりとスタンダードなウエイトトレーニングをやり込む。するともしかすると、体が重いと感じる可能性もあります。要は、パワーはつくけれども違和感があるわけです。それは当然のことで、そこから体をなじませていけばいい。そして次の段階として、2~3週間、今度はウエイトトレーニングの頻度を週1度程度に下げ、スプリントの練習を増やし、動きづらさを解消していく。その繰り返しによって、サイズとスピードを兼ね備えた選手に成長していくのです。

また、ウエイトトレーニングを行うと動きが硬くなり、しなやかさがなくなる、という意見も多く聞きます。確かに、ウエイトトレーニングは基本的に一方向の動きなので、行い方次第で可動域を制限する。その結果、柔軟性が失われる可能性はある。

それを解消するには、ウエイトトレーニングの間に、柔軟性を上げるトレーニングやストレッチを入れる、といったことが必要になります。これは、トレーナーによってアプローチが若干異なる面があります」

続く後編では、サッカー選手が強化すべきポイントと必要なトレーニングについての見解を述べていく。

(その1を読む)
(後編へ続く)