競技パフォーマンスUP
「日本のサッカー選手のフィジカルスタンダードを変える」。そんな壮大な目標を掲げ、この春、福島県社会人2部リーグからスタートを切ったいわきFC。フィジカルアップを目指す選手達にとって、ハードな筋力トレーニングと正しい栄養摂取は決して欠かせないものだ。チーム発足から5カ月あまり。今回はいわきFCのフィジカルトレーニングについて、担当するドームアスリートハウスの鈴木拓哉トレーナーに話を聞いた。(※インタビューは2016年に実施)
福島県社会人2部リーグで勝利を重ね、この夏にはJ1の強豪FC東京とのチャリティーマッチや、天皇杯予選を兼ねた福島県サッカー選手権決勝(VS福島ユナイテッドFC)を控えるいわきFC。順調にチーム力を向上させつつ、チーム設立当初から掲げる「日本のサッカー選手のフィジカルスタンダードを変える」という壮大な目標に対しても、着実な前進を続けている。
「今はまだホームグラウンドを持っていない状態ですが、それでも週5~6日、サッカーの練習前に全員でウエイトトレーニングを行っています。1日約3時間という練習時間の約半分をフィジカルトレーニングに充てているのは、ピーター・ハウストラ監督のこだわり。身体がフレッシュな状態の時にしっかりトレーニングして筋力をアップさせつつ、サッカーの練習では疲労した状態でもしっかり動けるように、という考えです。監督はサッカー界には非常に珍しい方。週に3回、練習時間の半分使ってOKと、ここまでフィジカルトレーニングに理解を示している指導者は、非常に少ないと思います」
語るのは、いわきFCのフィジカルトレーニングを手がけるDAH(ドームアスリートハウス)の鈴木拓哉トレーナー。現状はしっかりトレーニングに取り組んでいるとはいえ、選手達の身体は、まだまだ未完成。今は基本となるウエイトトレーニングと栄養摂取を、習慣としてしっかり根づかせることを主眼に置いている。
鈴木拓哉トレーナー
「今はまだトレーニングジムができておらず、本格的な器具がありません。ですからグラウンドに組み込み式のダンベルを持ち込み、ビッグスリーを中心とした基本のトレーニングを中心に。そして合間にプランクなど、体幹トレーニングも行います。
彼らに言い聞かせているのが、ウエイトトレーニングも体幹トレーニングも、それ自体が目的になってはいけないということ。ウエイトはただ重量を挙げるためにやっているわけではないし、体幹トレーニング上手になっても意味がない。鍛えた筋肉をサッカーでしっかりと使えるようにしなくてはいけない。そのためにも、動きの中で体幹を安定させる意識を持つこと。動きの中で体幹を安定させ、動くべき所をしっかり動かし、固定するところはしっかり固定する。それを繰り返しリマインドしています」
扱った重量については毎回記録を取り、個人のファイルを作って管理。楽に挙げているようならば、積極的に重量を増やす。
「大学でしっかり筋トレをしてきた選手が2名ほどいるのですが、彼らは『まだ物足りない』と言います。しかしその反面、今の選手26人のうち24人は、ほぼウエイトトレーニング未経験。最初のころは、ほんの少しやっただけで筋肉痛に苦しんでいました。それは逆に言うと、伸びしろだらけということ。彼らは今、着実にパワーアップしています。
来春にクラブハウスが完成し、その中にトレーニングジムができます。その時に今ダンベルで行っている種目をバーベルで応用するための基礎を今、長い時間をかけて築いている。そんなイメージです。ジムができた時にしっかりトレーニングするためにも、大事なのは今なので」
栄養摂取についても、彼らには理想的な環境が与えられている。選手達には昼と夜、DIB(ドームいわきベース)にて、高タンパク低カロリーの特別メニューの食事が提供される。鍛えた身体を最も効率的に大きくするために、サプリメントについてもDNSがフルパッケージでサポート。プロテインなどベーシックなサプリメントに始まり、摂取タイミングまでしっかりと管理している。
「食事に加え、起床後とトレーニング後、練習終了後、就寝前にはプロテインやR4を、タイムスケジュール通りに摂ってもらっています。サプリメントは毎月、必要量を配り、減りが少ない場合はスタッフがチェック。消費量が少ない場合は飲むように指導します。このチームに入るまで、トレーニングもサプリメント摂取もしていない選手がほとんどですので、僕の仕事はトレーニングよりもむしろその指導でした。ライフサイクルの中に、しっかりとトレーニングとサプリメントを根づかせる。呼吸と一緒で、摂らないと選手として死んでしまう。最初の2~3カ月は、そんな思いをインプットさせることに気を配りました。彼らにはそもそも、トレーニングの習慣がなかったので…。
ただしその分、トレーニングを行うと、選手達の体重は一気に上がった。
「それはそうですよ(笑)。モヤシっ子がたくさんトレーニングをして栄養を摂れば、すぐに太くなりますから。一番大きくなった選手で7㎏ぐらい増えていますね。ただしそれは、もともとあまりにも細かったから。ベンチプレス60㎏が一度も挙がらないぐらいの選手なので、それぐらい一気に増えても何らおかしくありません。もちろん増えたのは筋肉がほとんどですし、スピードが落ちたということはまったくないです」
日本のサッカー界には、ウエイトトレーニングで筋肉をつけると体が重くなり、動きが鈍くなる、という思い込みが今もある。そのような迷信にとらわれていた選手達も、トレーニングを重ねるうちに変わっていった。
「われわれが変えなければならないのはそこです。だから選手達には『いわきFCのミッションは日本のサッカーのフィジカルスタンダードを変えること。僕らはこれを絶対に崩さない。だから、今までの自分の基準で考えるな』と、口を酸っぱくして言い続けました。僕は、サッカーはフィールド上の格闘技だと考えています。個人的なイメージはアメフト選手。走れて、当たれて、飛べて、強い。マラソン選手とスプリンター、力士、重量挙げの選手。そのすべてを合体させたスーパーアスリートを育てたい。
ただし今はもう、選手達のマインドセットが違います。『重くなる』『鈍くなる』という話題はまったく出てこないし、徐々に自信もついてきている。その証拠に、相手に対して飛び込める選手が出てきました。今まではきれいにプレーしていた選手が、フィジカルに自信がついてきたのでしょう。際どい局面でガッとスライディングタックルに行くようになった。筋力面で自信がついたおかげで、プレースタイルだけでなく、メンタルも成長してきた。
そして彼ら自身の口からも、たびたび『世界基準』という言葉が挙がるようになりました。例えば『どんな選手になりたいか?』と聞くと、出てくるのはスアレス(バルセロナ/ウルグアイ代表)、クリスティアーノ・ロナウド(レアル・マドリー/ポルトガル代表)、イブラヒモビッチ(マンチェスター・ユナイテッド/スウェーデン代表)、アレクシス・サンチェス(アーセナル/チリ代表)など、海外選手の名前ばかり。トレーニングを通じてそういう選手になりたい気持ちが出てきているのは、大きな変化です。
日本のサッカークラブでここまで筋力トレーニングをしっかり行っているのは、J1のチームでもほとんどない。上位カテゴリーのチームと比べて体格は劣っていませんし、先日試合をしたJ1のチームの監督さんからも身体をほめていただきました。今まで僕らがやってきたことは間違っていない。それがはっきりとわかりましたね」
最後に言いたい。日本のサッカーは、必ずや、変われる。来春にはドームいわきベース(DIB)の敷地内に、グラウンドとトレーニングルームが完成する。その時、彼らは練習、筋力トレーニング、仕事、そして栄養摂取を一つの場所で行うことができる、理想的な環境を手に入れることになる。だがそれは、結果を出さなければ明日はない、という意味でもある。今までの日本にないスピーディでパワフルなサッカーを展開し、世界基準の選手像を作り上げるその日まで、戦いは続く。
(その2を読む) |
(その4を読む) |
「日本のサッカー選手のフィジカルスタンダードを変える」。そんな壮大な目標を掲げ、この春、福島県社会人2部リーグからスタートを切ったいわきFC。フィジカルアップを目指す選手達にとって、ハードな筋力トレーニングと正しい栄養摂取は決して欠かせないものだ。チーム発足から5カ月あまり。今回はいわきFCのフィジカルトレーニングについて、担当するドームアスリートハウスの鈴木拓哉トレーナーに話を聞いた。(※インタビューは2016年に実施)
福島県社会人2部リーグで勝利を重ね、この夏にはJ1の強豪FC東京とのチャリティーマッチや、天皇杯予選を兼ねた福島県サッカー選手権決勝(VS福島ユナイテッドFC)を控えるいわきFC。順調にチーム力を向上させつつ、チーム設立当初から掲げる「日本のサッカー選手のフィジカルスタンダードを変える」という壮大な目標に対しても、着実な前進を続けている。
「今はまだホームグラウンドを持っていない状態ですが、それでも週5~6日、サッカーの練習前に全員でウエイトトレーニングを行っています。1日約3時間という練習時間の約半分をフィジカルトレーニングに充てているのは、ピーター・ハウストラ監督のこだわり。身体がフレッシュな状態の時にしっかりトレーニングして筋力をアップさせつつ、サッカーの練習では疲労した状態でもしっかり動けるように、という考えです。監督はサッカー界には非常に珍しい方。週に3回、練習時間の半分使ってOKと、ここまでフィジカルトレーニングに理解を示している指導者は、非常に少ないと思います」
語るのは、いわきFCのフィジカルトレーニングを手がけるDAH(ドームアスリートハウス)の鈴木拓哉トレーナー。現状はしっかりトレーニングに取り組んでいるとはいえ、選手達の身体は、まだまだ未完成。今は基本となるウエイトトレーニングと栄養摂取を、習慣としてしっかり根づかせることを主眼に置いている。
鈴木拓哉トレーナー
「今はまだトレーニングジムができておらず、本格的な器具がありません。ですからグラウンドに組み込み式のダンベルを持ち込み、ビッグスリーを中心とした基本のトレーニングを中心に。そして合間にプランクなど、体幹トレーニングも行います。
彼らに言い聞かせているのが、ウエイトトレーニングも体幹トレーニングも、それ自体が目的になってはいけないということ。ウエイトはただ重量を挙げるためにやっているわけではないし、体幹トレーニング上手になっても意味がない。鍛えた筋肉をサッカーでしっかりと使えるようにしなくてはいけない。そのためにも、動きの中で体幹を安定させる意識を持つこと。動きの中で体幹を安定させ、動くべき所をしっかり動かし、固定するところはしっかり固定する。それを繰り返しリマインドしています」
扱った重量については毎回記録を取り、個人のファイルを作って管理。楽に挙げているようならば、積極的に重量を増やす。
「大学でしっかり筋トレをしてきた選手が2名ほどいるのですが、彼らは『まだ物足りない』と言います。しかしその反面、今の選手26人のうち24人は、ほぼウエイトトレーニング未経験。最初のころは、ほんの少しやっただけで筋肉痛に苦しんでいました。それは逆に言うと、伸びしろだらけということ。彼らは今、着実にパワーアップしています。
来春にクラブハウスが完成し、その中にトレーニングジムができます。その時に今ダンベルで行っている種目をバーベルで応用するための基礎を今、長い時間をかけて築いている。そんなイメージです。ジムができた時にしっかりトレーニングするためにも、大事なのは今なので」
栄養摂取についても、彼らには理想的な環境が与えられている。選手達には昼と夜、DIB(ドームいわきベース)にて、高タンパク低カロリーの特別メニューの食事が提供される。鍛えた身体を最も効率的に大きくするために、サプリメントについてもDNSがフルパッケージでサポート。プロテインなどベーシックなサプリメントに始まり、摂取タイミングまでしっかりと管理している。
「食事に加え、起床後とトレーニング後、練習終了後、就寝前にはプロテインやR4を、タイムスケジュール通りに摂ってもらっています。サプリメントは毎月、必要量を配り、減りが少ない場合はスタッフがチェック。消費量が少ない場合は飲むように指導します。このチームに入るまで、トレーニングもサプリメント摂取もしていない選手がほとんどですので、僕の仕事はトレーニングよりもむしろその指導でした。ライフサイクルの中に、しっかりとトレーニングとサプリメントを根づかせる。呼吸と一緒で、摂らないと選手として死んでしまう。最初の2~3カ月は、そんな思いをインプットさせることに気を配りました。彼らにはそもそも、トレーニングの習慣がなかったので…。
ただしその分、トレーニングを行うと、選手達の体重は一気に上がった。
「それはそうですよ(笑)。モヤシっ子がたくさんトレーニングをして栄養を摂れば、すぐに太くなりますから。一番大きくなった選手で7㎏ぐらい増えていますね。ただしそれは、もともとあまりにも細かったから。ベンチプレス60㎏が一度も挙がらないぐらいの選手なので、それぐらい一気に増えても何らおかしくありません。もちろん増えたのは筋肉がほとんどですし、スピードが落ちたということはまったくないです」
日本のサッカー界には、ウエイトトレーニングで筋肉をつけると体が重くなり、動きが鈍くなる、という思い込みが今もある。そのような迷信にとらわれていた選手達も、トレーニングを重ねるうちに変わっていった。
「われわれが変えなければならないのはそこです。だから選手達には『いわきFCのミッションは日本のサッカーのフィジカルスタンダードを変えること。僕らはこれを絶対に崩さない。だから、今までの自分の基準で考えるな』と、口を酸っぱくして言い続けました。僕は、サッカーはフィールド上の格闘技だと考えています。個人的なイメージはアメフト選手。走れて、当たれて、飛べて、強い。マラソン選手とスプリンター、力士、重量挙げの選手。そのすべてを合体させたスーパーアスリートを育てたい。
ただし今はもう、選手達のマインドセットが違います。『重くなる』『鈍くなる』という話題はまったく出てこないし、徐々に自信もついてきている。その証拠に、相手に対して飛び込める選手が出てきました。今まではきれいにプレーしていた選手が、フィジカルに自信がついてきたのでしょう。際どい局面でガッとスライディングタックルに行くようになった。筋力面で自信がついたおかげで、プレースタイルだけでなく、メンタルも成長してきた。
そして彼ら自身の口からも、たびたび『世界基準』という言葉が挙がるようになりました。例えば『どんな選手になりたいか?』と聞くと、出てくるのはスアレス(バルセロナ/ウルグアイ代表)、クリスティアーノ・ロナウド(レアル・マドリー/ポルトガル代表)、イブラヒモビッチ(マンチェスター・ユナイテッド/スウェーデン代表)、アレクシス・サンチェス(アーセナル/チリ代表)など、海外選手の名前ばかり。トレーニングを通じてそういう選手になりたい気持ちが出てきているのは、大きな変化です。
日本のサッカークラブでここまで筋力トレーニングをしっかり行っているのは、J1のチームでもほとんどない。上位カテゴリーのチームと比べて体格は劣っていませんし、先日試合をしたJ1のチームの監督さんからも身体をほめていただきました。今まで僕らがやってきたことは間違っていない。それがはっきりとわかりましたね」
最後に言いたい。日本のサッカーは、必ずや、変われる。来春にはドームいわきベース(DIB)の敷地内に、グラウンドとトレーニングルームが完成する。その時、彼らは練習、筋力トレーニング、仕事、そして栄養摂取を一つの場所で行うことができる、理想的な環境を手に入れることになる。だがそれは、結果を出さなければ明日はない、という意味でもある。今までの日本にないスピーディでパワフルなサッカーを展開し、世界基準の選手像を作り上げるその日まで、戦いは続く。
(その2を読む) |
(その4を読む) |