競技パフォーマンスUP
(※この記事は2016年12月に作成されたものです)
今年の春、福島県社会人2部リーグからスタートを切ったいわきFC。「日本のサッカー選手のフィジカルスタンダードを変える」という壮大な目標を掲げて身体作りに取り組み、リーグ戦の他、数々の大会で勝利を重ねていった。1年目シーズンの活動を終えたチーム首脳陣と選手達が、この1年を振り返る。
大倉智 代表取締役
「思えば、奇跡のような9カ月間でした」 株式会社いわきスポーツクラブ代表取締役・大倉智は、2016年シーズンの戦いについてそう語る。今年2月「日本のフィジカルスタンダードを変える ~魂の息吹くフットボール~」をスローガンに掲げ、たった5人の選手で船出したいわきFC。チームは、誰もが驚愕する速さで進化を遂げていった。
2月の本格始動以降、選手達が重点的に取り組んできたのがウエイトトレーニングである。週5~6日、ドームアスリートハウス(DAH)鈴木拓哉トレーナーの指導により、1日約3時間という練習時間の約半分をフィジカルトレーニングに充てた。専用のトレーニング施設がまだ完成していないため、グラウンドに組み込み式のダンベルを持ち込んで行う基本トレーニングを軸。しかし、学生時代からウエイトトレーニングで身体を作ってきた選手がほとんどいない分「伸びしろだらけ」だった。
チームは4月10日に開幕した福島県社会人リーグ2部リーグ、そして全国クラブチームサッカー選手権、全国社会人サッカー選手権、県選手権(天皇杯代表決定戦)を戦い、圧倒的な大差で勝ちを積み重ねていった。
試合をこなしながらも、毎日の練習の中でフィジカルトレーニングに半分近くの時間を割くことに変わりはない。トレーニングと栄養摂取、サッカーの練習と試合、そして平日午後から始まるDIB(ドームいわきベース)での仕事…理想の環境を手に入れた選手達はひたむきにハードワークし、一気にサイズアップしていった。
その成果に誰より驚いたのが、大倉自身だった
「正しいメソッドのフィジカルトレーニングを定期的に行い、質の高い栄養をしっかり摂れば、こんなにも短期間で身体が変わる。私自身、選手時代にプロテインを飲んだ経験がなかったですし、このような成功体験は初めて。本当に大きな衝撃を受けました」
チーム首脳陣が考える今シーズンのベストゲームは、8月天皇杯への出場権をかけた県予選代表決定戦・福島ユナイテッドFC戦だった。惜しくも1-2で敗れたが、フィジカルではJ3所属チームを圧倒。選手達は延長戦も含めた120分間アグレッシブに動き続け、コンタクトプレーでも堂々と渡り合い、足が痙攣する選手は一人もいなかった。この試合が大きな契機となり、フィジカルを重視した力強いサッカーを展開するチームは全国的にも注目を浴びていく。いわきFC強化部スタッフ・田村雄三は語る。
「負けたものの、選手達は輝いていました。福島ユナイテッドと実力は変わらなかった。J2、J3、JFLと、実力はそれほど変わらないことが、はっきりとわかりました」
いわきFC強化部スタッフ
田村雄三
パワー、スピード、テクニック。現代のサッカーは、そのすべてを等しく求められる。それなのに日本のプロサッカー選手の多くは「パワーでは世界に勝てない」と、身体を鍛えて大きくすることから目を背け、貧弱な身体のまま技術ばかりを磨こうとする。しかし、フィジカルを伴わない小手先の球扱いが通用するほど、世界は甘くない。極限状態の身体のぶつけ合いの中でも発揮できるテクニックこそ、本物の技術であるはずだ。
「身体が大きく、パワーとスピードにあふれた選手達が、ノンストップで動き続ける。それが世界のサッカーです。確かにリオネル・メッシのように、小柄で素晴らしいテクニックを誇る選手もいますが、これはメッシが不世出な存在だから。バルセロナというチームは、メッシという替えの効かない『個』と、彼をサポートして汗をかく残りの選手達で成り立っているわけです。現代サッカーにおいて、ポジションという概念は希薄。みんなで守り、みんなで攻撃するのがセオリーです。それを踏まえると、大きく強いことは必須でしょう」(田村)
久永翼 選手
首脳陣が「最も大きく変わった」と評する選手が、MF久永翼。「メッシのファンでした」と語る彼は、幼少のころからドリブルが得意で守備は大嫌い。ボールを受けたら奔放に動き、相手に取られたら他の選手任せ。そんなプレースタイルだった。しかし駒澤大時代は捻挫や肉離れ、骨折などケガを繰り返し、選手としては停滞が続いていた。
「大学まで筋トレは大嫌い。何かと言い訳をして、ぜんぜんやっていませんでした。『ウエイトトレーニングをすると体が重くなる』とも言われていたし、実際にそう思っていましたから…。FWの菊池が大学時代のチームメイトなのですが、先に入団していた彼から、いわきFCは筋トレをすごくやると聞き『身体、重くならないのかな?』と気にしていたぐらいです。
でもいわきFCに入って、しっかり筋トレをしてプロテインを摂ると、どんどん体重が増え、体脂肪率は変わらないのに、筋肉が付いて大きくなっていきました。いくら筋トレをしても、身体が重く感じることはなかったし、むしろ動きやすくなった。フィジカルコンタクトも強くなり、7割ぐらいの力で当たれるようになったから消耗が減り、疲れも少ない。筋肉をしっかり付けて体重がアップした方が絶対に有利だとわかりました。
いわきFC強化部スタッフ
平松大志
そもそも、チョコチョコやって上手い選手は日本にたくさんいるわけです。でも、しっかりと守備をして、ボールを確実に味方につなげる選手は少ない。だから、思い切って大学時代までのドリブル中心で攻撃ばかりのプレースタイルを捨て、中盤でDFとFWを確実にリンクさせる選手を目指そう、と考えるようになりました」
入団前は64㎏だった体重は5㎏アップ。現在のサイズは168㎝69㎏。体脂肪率は11~12%と、入団前とほぼ変化なし。そして悩まされ続けたケガは、ぴたりとなくなった。今や中心選手として攻守のつなぎ役を担う彼について、いわきFC強化部の平松大志は語る。
「試合の中で、自分から当たりに行くようになりましたね。マークをはがされてもついて行けるし、ボールを奪える。彼はもともと、そういう選手じゃなかったんですよ。今までは明らかに、コンタクトを嫌がる傾向があった。でも、しっかり筋トレをして身体が大きくなってからは当たっても負けないし、球際でボールを奪えるようになった。コンタクトを恐れないから、相手が取りに来ても、身体をぶつけて自分でキープできる。そこがすごく変わりました。コンタクトを決して恐れないし、逃げないのは大きい」
菊池将太 選手
プレーが大きく変わったのは、もちろん久永だけではない。例えばFW菊池将太。現在のサイズは身長177cm、体重74㎏。大学時代から行っていたウエイトトレーニングにさらに熱心に取り組み、大幅にサイズアップした。
「僕は前線で踏ん張ってパワーを発揮するプレースタイルなので、ある程度の重さは必要。重さとパワーがあれば、ゴール前で身体をしっかりと入れられる。一時期、77~78㎏まで体重を上げたのですが、動きに問題はありませんでした。
でも実は今、そこから3~4㎏減ってしまい、相手とぶつかり合った時に少々きつく感じるようになってしまいました。身体作りにおいて何がよくて何が悪いのか、やや迷ったのは今年の反省点です。僕らはDNSのサポートを受けてトレーニングしているのだから、もっともっと圧倒的に進化できたはず。もっともっとやらなきゃいけない。そして、来年はさらに進化したいです」
古山瑛翔 選手
フランスで2年間、スロベニアで半年間、SBとしてプレーした経験を持つCB古山瑛翔。彼は入団以前からヨーロッパの選手達のサイズとパワーを知っている数少ない選手の一人だ。現在のサイズは179㎝73㎏。いわきFC加入後、しっかりトレーニングを積んで体重を2㎏アップさせた。
「ヨーロッパの選手はやはり大きいです。当時はSB(サイドバック)で、なるべくコンタクトをせず、日本人の特性を出そうと考えていました。でも結局、試合中の身体のぶつかり合いは避けられず、何度もはじき飛ばされました。そんな環境の中、しっかり筋トレをして身体を作り直そうと思っていたところ、いわきFCに入団が決まってうれしかったです。
今はCB(センターバック)でプレーしているので、コンタクトする場面はSBより多い。相手をはじき飛ばすような圧倒的パワーはまだありませんが、はじき飛ばされないレベルにはどうにか来た。線が細く体重が増えにくいので、そこは今後、変えていかなくてはいけない。もっと体重を増やし、相手をはじき飛ばすぐらいの体格を手に入れ、相手を圧倒できるようになりたい。僕はもともとパスの判断力には自信があるのですが、そこに競り負けない強さが加われば、もっといい選手になれると信じています」
今年の春、福島県社会人2部リーグからスタートを切ったいわきFC。「日本のサッカー選手のフィジカルスタンダードを変える」という壮大な目標を掲げて身体作りに取り組み、リーグ戦の他、数々の大会で勝利を重ねていった。1年目シーズンの活動を終えたチーム首脳陣と選手達が、この1年を振り返る。
大倉智 代表取締役
「思えば、奇跡のような9カ月間でした」 株式会社いわきスポーツクラブ代表取締役・大倉智は、2016年シーズンの戦いについてそう語る。今年2月「日本のフィジカルスタンダードを変える ~魂の息吹くフットボール~」をスローガンに掲げ、たった5人の選手で船出したいわきFC。チームは、誰もが驚愕する速さで進化を遂げていった。
2月の本格始動以降、選手達が重点的に取り組んできたのがウエイトトレーニングである。週5~6日、ドームアスリートハウス(DAH)鈴木拓哉トレーナーの指導により、1日約3時間という練習時間の約半分をフィジカルトレーニングに充てた。専用のトレーニング施設がまだ完成していないため、グラウンドに組み込み式のダンベルを持ち込んで行う基本トレーニングを軸。しかし、学生時代からウエイトトレーニングで身体を作ってきた選手がほとんどいない分「伸びしろだらけ」だった。
チームは4月10日に開幕した福島県社会人リーグ2部リーグ、そして全国クラブチームサッカー選手権、全国社会人サッカー選手権、県選手権(天皇杯代表決定戦)を戦い、圧倒的な大差で勝ちを積み重ねていった。
試合をこなしながらも、毎日の練習の中でフィジカルトレーニングに半分近くの時間を割くことに変わりはない。トレーニングと栄養摂取、サッカーの練習と試合、そして平日午後から始まるDIB(ドームいわきベース)での仕事…理想の環境を手に入れた選手達はひたむきにハードワークし、一気にサイズアップしていった。
その成果に誰より驚いたのが、大倉自身だった
「正しいメソッドのフィジカルトレーニングを定期的に行い、質の高い栄養をしっかり摂れば、こんなにも短期間で身体が変わる。私自身、選手時代にプロテインを飲んだ経験がなかったですし、このような成功体験は初めて。本当に大きな衝撃を受けました」
チーム首脳陣が考える今シーズンのベストゲームは、8月天皇杯への出場権をかけた県予選代表決定戦・福島ユナイテッドFC戦だった。惜しくも1-2で敗れたが、フィジカルではJ3所属チームを圧倒。選手達は延長戦も含めた120分間アグレッシブに動き続け、コンタクトプレーでも堂々と渡り合い、足が痙攣する選手は一人もいなかった。この試合が大きな契機となり、フィジカルを重視した力強いサッカーを展開するチームは全国的にも注目を浴びていく。いわきFC強化部スタッフ・田村雄三は語る。
「負けたものの、選手達は輝いていました。福島ユナイテッドと実力は変わらなかった。J2、J3、JFLと、実力はそれほど変わらないことが、はっきりとわかりました」
いわきFC強化部スタッフ 田村雄三
パワー、スピード、テクニック。現代のサッカーは、そのすべてを等しく求められる。それなのに日本のプロサッカー選手の多くは「パワーでは世界に勝てない」と、身体を鍛えて大きくすることから目を背け、貧弱な身体のまま技術ばかりを磨こうとする。しかし、フィジカルを伴わない小手先の球扱いが通用するほど、世界は甘くない。極限状態の身体のぶつけ合いの中でも発揮できるテクニックこそ、本物の技術であるはずだ。
「身体が大きく、パワーとスピードにあふれた選手達が、ノンストップで動き続ける。それが世界のサッカーです。確かにリオネル・メッシのように、小柄で素晴らしいテクニックを誇る選手もいますが、これはメッシが不世出な存在だから。バルセロナというチームは、メッシという替えの効かない『個』と、彼をサポートして汗をかく残りの選手達で成り立っているわけです。現代サッカーにおいて、ポジションという概念は希薄。みんなで守り、みんなで攻撃するのがセオリーです。それを踏まえると、大きく強いことは必須でしょう」(田村)
久永翼 選手
首脳陣が「最も大きく変わった」と評する選手が、MF久永翼。「メッシのファンでした」と語る彼は、幼少のころからドリブルが得意で守備は大嫌い。ボールを受けたら奔放に動き、相手に取られたら他の選手任せ。そんなプレースタイルだった。しかし駒澤大時代は捻挫や肉離れ、骨折などケガを繰り返し、選手としては停滞が続いていた。
「大学まで筋トレは大嫌い。何かと言い訳をして、ぜんぜんやっていませんでした。『ウエイトトレーニングをすると体が重くなる』とも言われていたし、実際にそう思っていましたから…。FWの菊池が大学時代のチームメイトなのですが、先に入団していた彼から、いわきFCは筋トレをすごくやると聞き『身体、重くならないのかな?』と気にしていたぐらいです。
でもいわきFCに入って、しっかり筋トレをしてプロテインを摂ると、どんどん体重が増え、体脂肪率は変わらないのに、筋肉が付いて大きくなっていきました。いくら筋トレをしても、身体が重く感じることはなかったし、むしろ動きやすくなった。フィジカルコンタクトも強くなり、7割ぐらいの力で当たれるようになったから消耗が減り、疲れも少ない。筋肉をしっかり付けて体重がアップした方が絶対に有利だとわかりました。
いわきFC強化部スタッフ 平松大志
そもそも、チョコチョコやって上手い選手は日本にたくさんいるわけです。でも、しっかりと守備をして、ボールを確実に味方につなげる選手は少ない。だから、思い切って大学時代までのドリブル中心で攻撃ばかりのプレースタイルを捨て、中盤でDFとFWを確実にリンクさせる選手を目指そう、と考えるようになりました」
入団前は64㎏だった体重は5㎏アップ。現在のサイズは168㎝69㎏。体脂肪率は11~12%と、入団前とほぼ変化なし。そして悩まされ続けたケガは、ぴたりとなくなった。今や中心選手として攻守のつなぎ役を担う彼について、いわきFC強化部の平松大志は語る。
「試合の中で、自分から当たりに行くようになりましたね。マークをはがされてもついて行けるし、ボールを奪える。彼はもともと、そういう選手じゃなかったんですよ。今までは明らかに、コンタクトを嫌がる傾向があった。でも、しっかり筋トレをして身体が大きくなってからは当たっても負けないし、球際でボールを奪えるようになった。コンタクトを恐れないから、相手が取りに来ても、身体をぶつけて自分でキープできる。そこがすごく変わりました。コンタクトを決して恐れないし、逃げないのは大きい」
菊池将太 選手
プレーが大きく変わったのは、もちろん久永だけではない。例えばFW菊池将太。現在のサイズは身長177cm、体重74㎏。大学時代から行っていたウエイトトレーニングにさらに熱心に取り組み、大幅にサイズアップした。
「僕は前線で踏ん張ってパワーを発揮するプレースタイルなので、ある程度の重さは必要。重さとパワーがあれば、ゴール前で身体をしっかりと入れられる。一時期、77~78㎏まで体重を上げたのですが、動きに問題はありませんでした。
でも実は今、そこから3~4㎏減ってしまい、相手とぶつかり合った時に少々きつく感じるようになってしまいました。身体作りにおいて何がよくて何が悪いのか、やや迷ったのは今年の反省点です。僕らはDNSのサポートを受けてトレーニングしているのだから、もっともっと圧倒的に進化できたはず。もっともっとやらなきゃいけない。そして、来年はさらに進化したいです」
古山瑛翔 選手
フランスで2年間、スロベニアで半年間、SBとしてプレーした経験を持つCB古山瑛翔。彼は入団以前からヨーロッパの選手達のサイズとパワーを知っている数少ない選手の一人だ。現在のサイズは179㎝73㎏。いわきFC加入後、しっかりトレーニングを積んで体重を2㎏アップさせた。
「ヨーロッパの選手はやはり大きいです。当時はSB(サイドバック)で、なるべくコンタクトをせず、日本人の特性を出そうと考えていました。でも結局、試合中の身体のぶつかり合いは避けられず、何度もはじき飛ばされました。そんな環境の中、しっかり筋トレをして身体を作り直そうと思っていたところ、いわきFCに入団が決まってうれしかったです。
今はCB(センターバック)でプレーしているので、コンタクトする場面はSBより多い。相手をはじき飛ばすような圧倒的パワーはまだありませんが、はじき飛ばされないレベルにはどうにか来た。線が細く体重が増えにくいので、そこは今後、変えていかなくてはいけない。もっと体重を増やし、相手をはじき飛ばすぐらいの体格を手に入れ、相手を圧倒できるようになりたい。僕はもともとパスの判断力には自信があるのですが、そこに競り負けない強さが加われば、もっといい選手になれると信じています」