競技パフォーマンスUP
(※この記事は2017年6月に作成されたものです。)
6月初旬。天皇杯2回戦・対北海道コンサドーレ札幌戦を控えたいわきFC。J1の強豪と激突するアウェイでのビッグマッチを2週間後に控えても、彼らのフィジカル重視の姿勢に変わりはない。オフ明けのこの日、約3時間の練習時間の大半はフィジカルトレーニングに充てられている。
選手達は早朝に食事を摂ってから、今年新設されたばかりのいわきFCクラブハウスに集合。ドームアスリートハウスにて、鈴木拓哉トレーナーの指導のもとウエイトトレーニングをこなし、グラウンドでは大前祐介コーチの指導のもと、階段ダッシュやスプリントを行う。
熱気にあふれたトレーニングが続き、結局、この日の約3時間の練習はほとんどボールに触れぬまま終了。選手達はすぐさまプロテインを摂り、シャワーと着替えを済ませて昼食。軽く休憩すると、ドームいわきベース内のそれぞれの仕事場へと向かった。
「日本のサッカーのフィジカルスタンダードを変える」
壮大な目標を掲げ、2016年に始動したいわきFC。彼らはフィジカルトレーニングを徹底重視し、練習時間の半分以上をウエイトトレーニングやスプリントなど、ボールを使わぬトレーニングに充てた。結果、選手達の身体は見るからに大きくなった。
例えば昨年9月にJ3のAC長野パルセイロから移籍してきたFW平岡将豪は、移籍当初63~65㎏だったが、現在は69~70㎏。完全に見違えた。
平岡将豪選手
平岡将豪選手
「この半年ちょっとで、当たり負けすることがほぼなくなりました。僕はもともとよく倒れる選手だったのですが、改善されました。確かに急に大きくなると身体が重く感じることはあるし、激しいトレーニングを積むことで、ケガのリスクもある。でもその分、このチームはケアをしっかりできるので心配していません。このチームがフィジカルトレーニングをしっかりやることは、もちろん移籍する前からわかっていましたし、それがチームの強み。できればもう少しボールに触れたい気持ちはありますが、短い技術練習でも集中すれば、十分に補えることだと思っています」
いわきFCはチームの立ち上げ初年となった2016年、しっかりと結果を出した。2016年10月には、全国クラブチームサッカー選手権大会で優勝。11月には福島県社会人リーグ2部を圧倒的大差で全勝優勝して1部昇格を決めた。全国社会人サッカー選手権大会はベスト8に終わったものの、フィジカルを前面に押し出し、決して当たり負けしない身体の強さを武器に上々の成果を残した。
そしてチームはさらなる高みを目指し、2017年1月、改革へと舵を切る。まずは創設1年目にチームを率いたピーター・ハウストラ監督に代わり、新たに強化・スカウト本部長の田村雄三が監督に、いわきFCの運営元、株式会社いわきスポーツクラブ代表の大倉智が新たに総監督に就任。そして1年目のチームから約半数の選手が去り、環境もガラリと変わった。それまでは公営のグラウンドを転々としながらフィジカルトレーニングと技術練習を行っていたが、今年はクラブハウスが完成。優れたファシリティの下で、腰を落ち着けて練習に励むことができるようになった。
※ウェイトルームからグラウンドに直結
※グラウンドはサッカーコート1面 フットサルコートが2面確保できる。
2017年のシーズンが開幕すると、チームは勝ちを積み重ねていく。4月に行われた第22回福島県サッカー選手権兼天皇杯全日本サッカー選手権福島県代表決定戦では、J3で首位を走っていた福島ユナイテッドFCに2対0で完勝し、ユナイテッドの10連覇を阻止し、初の天皇杯本戦出場を決めた。そして4月22日の天皇杯1回戦、ノルブリッツ北海道との初戦に8対2で快勝。2回戦でJ1の強豪・コンサドーレ札幌との対戦へと駒を進めた。
チームは天皇杯1回戦からコンサドーレとの天皇杯2回戦までの約8週間を「鍛錬期」とし、徹底的にフィジカルアップに励んだ。
「この期間の前半4週ではオーソドックスな筋力トレーニングを行いました。ビッグスリーを中心に遅めのテンポでじっくりと上げ下げし、ベースとなる筋量を作る。そして後半4週では、重量を増やしつつ挙上のテンポを上げ、回数は落とす。つまりトレーニング強度は上げながらも、全体的ボリュームは下げていきます。そして、例えばスクワット後すぐにハードルジャンプ、ルーマニアンデッドリフト後すぐにメディシンボール投げ、というように、瞬発系の動きを混ぜていきます。今日はそのタイミングでしたが、ここから試合に向けて徐々に回数は減らし、重さは上げていきます。
鈴木拓哉トレーナー
鈴木拓哉トレーナー
今日は水曜日でオフ明け2日目なので、ボールを使う時間は少なくなります。今日のように、ほぼフィジカル強化のメニューで終わることもたびたびあります。2週間後にコンサドーレとの試合がありますが、あくまで通過点。決して最終目標ではないので、多少疲れが溜まろうとも、フィジカルをしっかりやる方針は変えません。選手からすると、ボールをもっと触りたい気持ちは正直あるでしょうが…」
語るのは、いわきFCのフィジカルトレーニングを担当して2年目になる、ドームアスリートハウスの鈴木拓哉トレーナー。
「ウエイトトレーニングの内容はすべて個人シートで管理し、常に成果を『見える化』し、成長を自分で確認できるようにしています。そしてもちろん、ただパワーをつけるだけでは意味がありません。大事なのは筋力×スピードですから、ストレングスに加え走力アップを重視。走力アップといってもダラダラ走るのではなく、今は特にスタートダッシュの本数を増やし、初速のアップを目指しています。スタート時の2歩目から3歩目を強調しつつ、筋トレでも、下半身から上半身への連動をスムーズにしていきます。
板倉直紀選手
板倉直紀選手
今日は時間が押してほとんどできませんでしたが、フィジカルトレーニングの後に確認のための自主練タイムを設けていて、その時に、筋トレで作った筋肉を実際のサッカーの動きにリンクさせています。やはり、実際のサッカーの動きが変わらなければ意味がありませんし、そこを指導するのがトレーナーの大切な役目。実際のサッカーの動きで筋肉をどう使えばいいのかを、常に選手達に伝えています」
例えばMF板倉直紀は、自らの成長を実感している選手の一人だ。
「僕は2年目になりますが、体重は67~69㎏。チームに入ってから1~2㎏増えたぐらいです。大学がフィジカルを重視していたびで、筋トレは結構やっていて、ケガをしている間に5㎏ぐらい増やせたことがあります。でも、このチームのフィジカルトレーニングの質は、大学とは比べものにならない。大学時代はつけた筋肉の使い方がわからなかったのですが、いわきFCはウエイトトレーニングに加えてスピードトレーニングなどもしっかりやるので、つけた筋肉をアスリートとしてどう使うかをイメージできる気がします」
高柳昂平選手
高柳昂平選手
「大学時代は週に一度ぐらい、自主的にウエイトトレーニングをやっていた程度でした。昔は膝や足首をよくケガしていたのでトレーニングはあまりできなかったし、当たられたらよく飛ばされていました。でもいわきFCに入ってきちんとトレーニングに取り組んだら、身体ができて、当たり負けることが大幅に減りました」
いわきFCの大きな特徴。それは、彼らは1年のうち多くの時間「鍛錬期」にあることだ。田村雄三監督は語る。
「もちろん変化はありますが、基本的に1年間、しっかりと身体を鍛えます。ウチは試合前日でもゲームをやりますし、調整は必要ない。
このチームが特殊なのは、選手のレベルと属するリーグのレベルに差があるからです。例えば一般的なJのチームは、開幕戦から逆算してひと月前からキャンプを張り、練習試合を数試合こなして開幕。開幕したら、毎週のように試合です。そんなサイクルなので、シーズン中はなかなか鍛えられません。
田村雄三監督
田村雄三監督
でもいわきFCの選手達は違う。彼らは勝ち負けを気にせず、1年中鍛えられる。こんなチームは他にないですよ。もちろん選手からするとキツいですが、その現実をポジティブにとらえてほしい。これだけサッカーに打ち込んで身体を鍛えられる環境は他にない。すごく恵まれた状況だと思います」
そして迎える6月21日のコンサドーレ札幌戦。チームはどのようなプランで挑むのか。
「われわれが目指す『魂の息吹くフットボール』。その言葉をどうやって具現化するかを、ずっと考えてきました。その結果、ここまでは本当に基本的なことしかしていません。例えば局面局面の強さを増すとか、走力を上げるとか、そんなことだけ。展開するサッカーはいたってシンプルで、ゴールは真ん中だからゴールに向かって行こう、というだけ。ゴールは真ん中で動かないわけで、ゴールから逆算したプレーが一番素晴らしい。シンプルに速く前に出る。
月曜日がだいたいオフなので、火曜から日曜までの6日間で、拓さんには火水木の三日間来てもらって、フィジカルトレーニングをたくさんやります。そのため、僕が受け持つボールを使った練習の時間、たった30分だけです(笑)。これ、普通の監督なら無理ですよね。サッカーやりたいし。ボールを蹴らせたい。だって、結果が出ないと彼らもクビですから。でも僕らは、そこまで至近の結果を意識しなくていい。『いわきを東北一の都市にする』『魂の息吹くフットボール』という理念のもとでやっているので、ストレスは何もありません。
そもそも、なぜこのチームは生まれたのか。いわきを元気にするためです。そこだけは絶対にブレてはいけない。ただ勝つためだけなら、きっとぜんぜん違うことをするでしょう。札幌が相手だって、ガチガチに引いて守れば勝つ確率は上がるかもしれない。
でも、そうじゃない。穴を突くようなサッカーに意味は何もない。そうじゃなくて、見ている人がわくわくするような攻撃的なサッカーを展開する。3点取られても1点を取りに行く。全員が一つになってゴールに向かって、全員で守る。特別なことは何もせず、自分たちのやってきたことを出せばいい。それができれば、何も言うつもりはありません」
田村雄三監督
田村雄三監督
勝つことより、もっと大切なことがあるのだ。
「天皇杯の福島県予選の決勝で、福島ユナイテッドに勝つことができました。その時、選手は、俺達もJとやれるんだ、と大きな自信をつけたはずです。勝利はやっぱり、選手に最も大きな自信を与えますから。だからこそ、札幌に勝たせてあげたい気持ちはある。もちろん、全員が勝ちたい。でも、それがすべてではない。
選手達には勘違いしてほしくありません。『お前らなんて、まだ何も成し遂げてないよ』と僕は言いたい。『Jだからやる』とか『高校生だからこれぐらいで手を抜いておけばいいや』じゃダメです。常に100%、120%のテンションで全力を尽くし、とにかく前に出て戦い続ける。その姿がファンの心を引きつけ、いわき市を元気にして、その結果、いわき市は東北一の街になる。すべてがそこにつながらくてはいけないし、選手は常にそれを意識して戦わなくてはいけないと思っています」
第97回天皇杯 全日本サッカー選手権大会2回戦。いわきFC対北海道コンサドーレ札幌は、6月21日19:00、運命のキックオフを迎える。
(後編を読む) |
(※この記事は2017年6月に作成されたものです。)
6月初旬。天皇杯2回戦・対北海道コンサドーレ札幌戦を控えたいわきFC。J1の強豪と激突するアウェイでのビッグマッチを2週間後に控えても、彼らのフィジカル重視の姿勢に変わりはない。オフ明けのこの日、約3時間の練習時間の大半はフィジカルトレーニングに充てられている。
選手達は早朝に食事を摂ってから、今年新設されたばかりのいわきFCクラブハウスに集合。ドームアスリートハウスにて、鈴木拓哉トレーナーの指導のもとウエイトトレーニングをこなし、グラウンドでは大前祐介コーチの指導のもと、階段ダッシュやスプリントを行う。
熱気にあふれたトレーニングが続き、結局、この日の約3時間の練習はほとんどボールに触れぬまま終了。選手達はすぐさまプロテインを摂り、シャワーと着替えを済ませて昼食。軽く休憩すると、ドームいわきベース内のそれぞれの仕事場へと向かった。
「日本のサッカーのフィジカルスタンダードを変える」
壮大な目標を掲げ、2016年に始動したいわきFC。彼らはフィジカルトレーニングを徹底重視し、練習時間の半分以上をウエイトトレーニングやスプリントなど、ボールを使わぬトレーニングに充てた。結果、選手達の身体は見るからに大きくなった。
例えば昨年9月にJ3のAC長野パルセイロから移籍してきたFW平岡将豪は、移籍当初63~65㎏だったが、現在は69~70㎏。完全に見違えた。
平岡将豪選手
平岡将豪選手
「この半年ちょっとで、当たり負けすることがほぼなくなりました。僕はもともとよく倒れる選手だったのですが、改善されました。確かに急に大きくなると身体が重く感じることはあるし、激しいトレーニングを積むことで、ケガのリスクもある。でもその分、このチームはケアをしっかりできるので心配していません。このチームがフィジカルトレーニングをしっかりやることは、もちろん移籍する前からわかっていましたし、それがチームの強み。できればもう少しボールに触れたい気持ちはありますが、短い技術練習でも集中すれば、十分に補えることだと思っています」
いわきFCはチームの立ち上げ初年となった2016年、しっかりと結果を出した。2016年10月には、全国クラブチームサッカー選手権大会で優勝。11月には福島県社会人リーグ2部を圧倒的大差で全勝優勝して1部昇格を決めた。全国社会人サッカー選手権大会はベスト8に終わったものの、フィジカルを前面に押し出し、決して当たり負けしない身体の強さを武器に上々の成果を残した。
そしてチームはさらなる高みを目指し、2017年1月、改革へと舵を切る。まずは創設1年目にチームを率いたピーター・ハウストラ監督に代わり、新たに強化・スカウト本部長の田村雄三が監督に、いわきFCの運営元、株式会社いわきスポーツクラブ代表の大倉智が新たに総監督に就任。そして1年目のチームから約半数の選手が去り、環境もガラリと変わった。それまでは公営のグラウンドを転々としながらフィジカルトレーニングと技術練習を行っていたが、今年はクラブハウスが完成。優れたファシリティの下で、腰を落ち着けて練習に励むことができるようになった。
※ウェイトルームからグラウンドに直結
※グラウンドはサッカーコート1面 フットサルコートが2面確保できる。
2017年のシーズンが開幕すると、チームは勝ちを積み重ねていく。4月に行われた第22回福島県サッカー選手権兼天皇杯全日本サッカー選手権福島県代表決定戦では、J3で首位を走っていた福島ユナイテッドFCに2対0で完勝し、ユナイテッドの10連覇を阻止し、初の天皇杯本戦出場を決めた。そして4月22日の天皇杯1回戦、ノルブリッツ北海道との初戦に8対2で快勝。2回戦でJ1の強豪・コンサドーレ札幌との対戦へと駒を進めた。
チームは天皇杯1回戦からコンサドーレとの天皇杯2回戦までの約8週間を「鍛錬期」とし、徹底的にフィジカルアップに励んだ。
「この期間の前半4週ではオーソドックスな筋力トレーニングを行いました。ビッグスリーを中心に遅めのテンポでじっくりと上げ下げし、ベースとなる筋量を作る。そして後半4週では、重量を増やしつつ挙上のテンポを上げ、回数は落とす。つまりトレーニング強度は上げながらも、全体的ボリュームは下げていきます。そして、例えばスクワット後すぐにハードルジャンプ、ルーマニアンデッドリフト後すぐにメディシンボール投げ、というように、瞬発系の動きを混ぜていきます。今日はそのタイミングでしたが、ここから試合に向けて徐々に回数は減らし、重さは上げていきます。
鈴木拓哉トレーナー
鈴木拓哉トレーナー
今日は水曜日でオフ明け2日目なので、ボールを使う時間は少なくなります。今日のように、ほぼフィジカル強化のメニューで終わることもたびたびあります。2週間後にコンサドーレとの試合がありますが、あくまで通過点。決して最終目標ではないので、多少疲れが溜まろうとも、フィジカルをしっかりやる方針は変えません。選手からすると、ボールをもっと触りたい気持ちは正直あるでしょうが…」
語るのは、いわきFCのフィジカルトレーニングを担当して2年目になる、ドームアスリートハウスの鈴木拓哉トレーナー。
「ウエイトトレーニングの内容はすべて個人シートで管理し、常に成果を『見える化』し、成長を自分で確認できるようにしています。そしてもちろん、ただパワーをつけるだけでは意味がありません。大事なのは筋力×スピードですから、ストレングスに加え走力アップを重視。走力アップといってもダラダラ走るのではなく、今は特にスタートダッシュの本数を増やし、初速のアップを目指しています。スタート時の2歩目から3歩目を強調しつつ、筋トレでも、下半身から上半身への連動をスムーズにしていきます。
板倉直紀選手
板倉直紀選手
今日は時間が押してほとんどできませんでしたが、フィジカルトレーニングの後に確認のための自主練タイムを設けていて、その時に、筋トレで作った筋肉を実際のサッカーの動きにリンクさせています。やはり、実際のサッカーの動きが変わらなければ意味がありませんし、そこを指導するのがトレーナーの大切な役目。実際のサッカーの動きで筋肉をどう使えばいいのかを、常に選手達に伝えています」
例えばMF板倉直紀は、自らの成長を実感している選手の一人だ。
「僕は2年目になりますが、体重は67~69㎏。チームに入ってから1~2㎏増えたぐらいです。大学がフィジカルを重視していたびで、筋トレは結構やっていて、ケガをしている間に5㎏ぐらい増やせたことがあります。でも、このチームのフィジカルトレーニングの質は、大学とは比べものにならない。大学時代はつけた筋肉の使い方がわからなかったのですが、いわきFCはウエイトトレーニングに加えてスピードトレーニングなどもしっかりやるので、つけた筋肉をアスリートとしてどう使うかをイメージできる気がします」
高柳昂平選手
高柳昂平選手
「大学時代は週に一度ぐらい、自主的にウエイトトレーニングをやっていた程度でした。昔は膝や足首をよくケガしていたのでトレーニングはあまりできなかったし、当たられたらよく飛ばされていました。でもいわきFCに入ってきちんとトレーニングに取り組んだら、身体ができて、当たり負けることが大幅に減りました」
いわきFCの大きな特徴。それは、彼らは1年のうち多くの時間「鍛錬期」にあることだ。田村雄三監督は語る。
「もちろん変化はありますが、基本的に1年間、しっかりと身体を鍛えます。ウチは試合前日でもゲームをやりますし、調整は必要ない。
このチームが特殊なのは、選手のレベルと属するリーグのレベルに差があるからです。例えば一般的なJのチームは、開幕戦から逆算してひと月前からキャンプを張り、練習試合を数試合こなして開幕。開幕したら、毎週のように試合です。そんなサイクルなので、シーズン中はなかなか鍛えられません。
田村雄三監督
田村雄三監督
でもいわきFCの選手達は違う。彼らは勝ち負けを気にせず、1年中鍛えられる。こんなチームは他にないですよ。もちろん選手からするとキツいですが、その現実をポジティブにとらえてほしい。これだけサッカーに打ち込んで身体を鍛えられる環境は他にない。すごく恵まれた状況だと思います」
そして迎える6月21日のコンサドーレ札幌戦。チームはどのようなプランで挑むのか。
「われわれが目指す『魂の息吹くフットボール』。その言葉をどうやって具現化するかを、ずっと考えてきました。その結果、ここまでは本当に基本的なことしかしていません。例えば局面局面の強さを増すとか、走力を上げるとか、そんなことだけ。展開するサッカーはいたってシンプルで、ゴールは真ん中だからゴールに向かって行こう、というだけ。ゴールは真ん中で動かないわけで、ゴールから逆算したプレーが一番素晴らしい。シンプルに速く前に出る。
月曜日がだいたいオフなので、火曜から日曜までの6日間で、拓さんには火水木の三日間来てもらって、フィジカルトレーニングをたくさんやります。そのため、僕が受け持つボールを使った練習の時間、たった30分だけです(笑)。これ、普通の監督なら無理ですよね。サッカーやりたいし。ボールを蹴らせたい。だって、結果が出ないと彼らもクビですから。でも僕らは、そこまで至近の結果を意識しなくていい。『いわきを東北一の都市にする』『魂の息吹くフットボール』という理念のもとでやっているので、ストレスは何もありません。
そもそも、なぜこのチームは生まれたのか。いわきを元気にするためです。そこだけは絶対にブレてはいけない。ただ勝つためだけなら、きっとぜんぜん違うことをするでしょう。札幌が相手だって、ガチガチに引いて守れば勝つ確率は上がるかもしれない。
でも、そうじゃない。穴を突くようなサッカーに意味は何もない。そうじゃなくて、見ている人がわくわくするような攻撃的なサッカーを展開する。3点取られても1点を取りに行く。全員が一つになってゴールに向かって、全員で守る。特別なことは何もせず、自分たちのやってきたことを出せばいい。それができれば、何も言うつもりはありません」
田村雄三監督
田村雄三監督
勝つことより、もっと大切なことがあるのだ。
「天皇杯の福島県予選の決勝で、福島ユナイテッドに勝つことができました。その時、選手は、俺達もJとやれるんだ、と大きな自信をつけたはずです。勝利はやっぱり、選手に最も大きな自信を与えますから。だからこそ、札幌に勝たせてあげたい気持ちはある。もちろん、全員が勝ちたい。でも、それがすべてではない。
選手達には勘違いしてほしくありません。『お前らなんて、まだ何も成し遂げてないよ』と僕は言いたい。『Jだからやる』とか『高校生だからこれぐらいで手を抜いておけばいいや』じゃダメです。常に100%、120%のテンションで全力を尽くし、とにかく前に出て戦い続ける。その姿がファンの心を引きつけ、いわき市を元気にして、その結果、いわき市は東北一の街になる。すべてがそこにつながらくてはいけないし、選手は常にそれを意識して戦わなくてはいけないと思っています」
第97回天皇杯 全日本サッカー選手権大会2回戦。いわきFC対北海道コンサドーレ札幌は、6月21日19:00、運命のキックオフを迎える。
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