いわきFC

リスクを冒さぬ退屈な日本のサッカーを、圧倒的なパワーで変革する。 いわきFCが巻き起こすフィジカル革命 ~その11 後編

リスクを冒さぬ退屈な日本のサッカーを、圧倒的なパワーで変革する。
いわきFCが巻き起こすフィジカル革命 ~その11 後編

いわきFCの大きな目標の一つ、天皇杯。チームは昨年同様、全国大会1回戦で姿を消すことになった。チームは仙台大を相手に優勢に試合を進めるも、2対3で逆転負けを喫した。躍進はならなかったが、シーズンはまだまだ続く。魂の息吹くフットボールの実現と東北社会人1部リーグ、そして地域チャンピオンズリーグでの優勝を目指し、チームが歩みを止めることはない。

■ 食事を通じて自己管理能力をつけてもらう。

チームはこの3年ストレングストレーニングに取り組み、身体作りに関しては、日本のサッカー界に1本のくさびを打ち込むことができた。いわきFCが次のステップとして取り組むのが、ハードな練習をこなす選手達を支える毎日の食事。目指すのは、日本のアスリートの「フードスタンダード」の変革だ。

今年2月、練習フィールド横に選手専用のフードスペース「いわきFCステーション」が完成した。サッカー日本代表専属シェフであり、いわきFCパークで「NISHI's KITCHEN」を出店する西芳照さんを総料理長に迎え、選手達の食をトータルサポート。同時に地元の食材をふんだんに使用し、原発事故の風評被害の払拭も目指す。大倉智総監督は語る。

「身体作りは結局、栄養が8割。いくらトレーニングを積んでも、ちゃんと食べなければ意味がない。その点、いわきFCステーションの食事は栄養バランスをしっかり考えられていて品数も多く、何より本当においしい。みんなとても喜んでいます」

選手達はこれまで、アマチュア選手が働くドームいわきベース内のDNSパワーカフェで3食を摂っていたが、この2月から昼食と夕食をいわきFCステーションに変更。選手達は午前中に練習を終えると、11時半から14時までの間に昼食。午後からアマチュア選手は隣接するドームいわきベースで業務、プロ契約選手は自主練や身体のメンテナンス。そして18時から20時までの間に、再びいわきFCステーションで夕食を摂る。

最大のポイントはビュッフェ形式であること。1食1400kcal前後でモデルケースが設定され、1ポーションずつのカロリーをPOPで表示。選手達は自分に必要なエネルギー量や不足しがちな栄養素を把握した上で、毎日の食事を自分に最適な形にパーソナライズできる。ビュッフェ形式だからこその強みだ。いわきFCステーションの平田太圭龍料理長は語る。

「カロリーは朝食と合わせて1日約4000kcalを摂れるよう設定しています。同年代の一般男性の食事量が1日2500kcalぐらいですから、かなりの量です。それでも場合によっては、1日5000kcal近く食べる選手もいます。

選手個々のトータルカロリーは、白米の量で調整してもらいます。選手達はステーションの入り口に置いた紙に、その時の食事で白米を何g食べるかを書いて提出します。体重を増やそうとよく食べる選手で、600gというケースもあります。いわきFCの練習はハードですから、特に大型の選手はたくさん食べないと痩せてしまいます。逆に小型の選手は、大型の選手と同じ量を食べると太ってしまう可能性もあるので、白米の量を減らして調整することもあります」

メニューは日替わりで肉、魚、生野菜、パスタ、ご飯などバリエーション豊富。1日のメニューのどこかにサバやイワシ、カツオなどの青魚を入れて疲労回復を狙い、試合2日前からは油モノを控え、肉は鶏の胸肉と牛の赤身肉のみにするなど、工夫が行き届いている。

長友佑都選手や長谷部誠選手、吉田麻也選手など、私達がこれまで見てきた日本代表のトップ選手達はみんな栄養の知識が豊富で、意識が非常に高い。その点、いわきの選手は平均年齢20代前半と若いこともあり、まだちょっと意識が低い気がします。

この年齢からスポーツ栄養士さんが付いて徹底的に管理してくれる環境は、Jリーグのチームでもそうありません。だからこそ環境のありがたさを理解してほしいし、日本のトップ選手の素晴らしさを伝えていくのも、僕らの役目だと思います。20代後半以降に『若い時に食事のことをちゃんと考えればよかった』と後悔することのないよう、今からしっかり取り組んでほしいです」

現在の自分に必要な栄養素は何なのか。そして、どれぐらいの量を摂るべきなのか。それを把握し「おいしいから食べたい」という当たり前の感情に流されず、身体が必要としている栄養を摂る。選手達に、そんな自己管理能力をつけてもらうことがチームの目標だ。

■ 自分達のストロングポイントを押し出し、突き抜ける。

いわきFCの2019年最大の目標はJFL(日本フットボールリーグ)昇格である。所属する東北社会人サッカーリーグ1部で上位に入り、各地域リーグのチームが出場する「全国地域サッカーチャンピオンズリーグ(地域CL)」で上位に入ると、昇格への道が開かれる。

大きN目標のため、チームは今年、かねてから掲げてきた『魂の息吹くフットボール』のより細かい具体化を図る。細かいところでは『相手ボールを5秒以内に奪い返し、8秒でシュートまで持っていく』というルールを作り、さらにスピードアップしたサッカーを目指している。そんな方針に対し、田村雄三監督は「実はシーズン前には、今年の戦い方についての迷いもあった」と語る。

「地域CLは一筋縄ではいかない舞台。実際に昇格したチームに聞いても『やはり社会人リーグには社会人リーグのサッカーがあり、プロとは違う難しさがある。そこを勝ち抜くには社会人に勝つための戦い方を考えた方がいい』とみんな言います。いわきFCと戦うとすれば、ほとんどのチームは走り勝てないので、後ろに人数を残して引いてくるでしょう。彼らは仕事があるのでケガを避けたいし、練習量も十分ではない。だから、試合を通じて全力で走り続けることができない。

そういう相手を崩す戦術も、勝つためには必要じゃないかと思っていた。でもいろいろなサッカーを見ているうちに、やはり自分達の戦い方をもう一度磨こう、と原点に戻りました。

なぜならわれわれは、他のチームがやっていないことをしているチームだから。僕らはケガをしない身体と、1試合走り続けられるフィジカルを作っている。相手が向き合えないことを、すべてやっている。だからこそ、相手に合わせて戦い方を変えてはいけない。自分達のストロングポイントを押し出し、そこで突き抜ける方が勝機は多い。

引いている相手から点を取るのは、相当難しいことです。僕らはその問題を、外国人の1億円プレーヤーを連れて来て解決できるJリーグのチームとは違う。みんなでどうやってゴールをこじ開けて点を取るか。そのための最適な答えを探していきたいです」

天皇杯で敗退しても、地域CLへの出場が懸かる東北社会人1部リーグの戦いは続く。リーグは2節を終え、初戦のコバルトーレ女川には1対0の接戦で勝利したものの、ブランデュー弘前とは0対0で引き分けた。リーグ戦での初めてのドローという結果からもわかる通り、やすやすと優勝できるリーグではない。大倉智総監督は語る。

「いいコンディションのベストメンバーで戦わないと、勝ち抜けないリーグに来た。それは間違いありません。でも、ここを勝ち抜けなかったらJ3やJ2を見る資格はない。僕らは『いわき市を東北一の都市にする』と宣言しているチーム。いわき市から福島県内、そして東北全域を盛り上げていくためにも、このリーグで必ず優勝します」

リーグ優勝そして地域CL。そしてJFL昇格。2016年の福島県2部リーグからスタートしたチームにとって、おそらく最大の難関となるだろう。チームは檜舞台に向け、コツコツと世界レベルのフィジカルを築き上げていく。

(終わり)

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