競技パフォーマンスUP

リスクを冒さぬ退屈な日本のサッカーを、圧倒的なパワーで変革する。 いわきFCが巻き起こすフィジカル革命 ~その11 前編

リスクを冒さぬ退屈な日本のサッカーを、圧倒的なパワーで変革する。
いわきFCが巻き起こすフィジカル革命 ~その11 前編

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リスクを冒さぬ退屈な日本のサッカーを、圧倒的なパワーで変革する。 いわきFCが巻き起こすフィジカル革命 ~その11 前編

リスクを冒さぬ退屈な日本のサッカーを、圧倒的なパワーで変革する。
いわきFCが巻き起こすフィジカル革命 ~その11 前編

2019年のいわきFCは、日本フットボールリーグ(JFL)への昇格を明確な目標として掲げている。東北社会人サッカーリーグ1部で上位の成績を収め、各地域のリーグの上位チームなどが出場する全国地域サッカーチャンピオンズリーグで上位に進出すると、JFL昇格への道が開かれる。

青森山田高で高校選手権を制したバスケス・バイロンらが新加入したチームは。2月のパシフィック・リムカップから本格始動。2月のJヴィレッジ再開記念福島ダービーマッチでJ3所属の同県ライバル・福島ユナイテッドFCに5対0で圧勝すると、4月14日に開幕した東北社会人1部リーグ第1節では、昨年JFLで戦ったコバルトーレ女川とのアウェイマッチに競り勝った。

そして5月12日には、福島ユナイテッドFCとの天皇杯福島県代表決定戦に2対0で完勝。翌週のリーグ第2節ではブランデュー弘前と引き分けたが、昨年までとは明らかに違う戦いぶりには、期待を寄せずにいられない。

ただし、いわきFCは勝利だけを目指すチームではない。戦うステージがどこであろうと、いわきFCのプレースタイルにブレはない。「魂の息吹くフットボール」。その実現のため、彼らは今シーズンも世界レベルのフィジカル構築を目指す。

■ とことん自分のフィジカルと向き合う。

2016年のチーム結成から3年が経過。選手達はここまで、右肩上がりでパワーを向上させてきた。彼らの身体は今や、日本のサッカー選手のスタンダードを軽く凌ぐ。そしては今年も「鍛錬期」と称し、1日3時間×週4日×4週間、集中的にストレングストレーニングに打ち込む。サッカークラブとしては極めて異例なこの取り組みも、今年で3年目だ。田村雄三監督は語る。

「鍛錬期にはゲームをせず、練習時間も短縮。とことん自分のフィジカルと向き合ってもらいます。鍛錬期を取り入れた1年目は、4日間連続で筋力ストレーニングに取り組んでいましたが、昨年から中休みを入れる形に変更。疲労の軽減のため、月火で上半身・下半身、水曜をトレーニング休みにして木で下半身・上半身、という形にしました。

もちろん水曜日もサッカーの練習はしますが、負荷は落とします。その分プレー映像を見る時間を増やしたり、グラウンドでの練習も長くても45分程度までに短縮しています」

今年一度目の鍛錬期は、4月15日の東北社会人1部リーグ開幕戦から逆算して、鍛錬期は重要な試合のひと月前に終わらせるようスケジュールを設定。2月中旬から3月中旬まで取った。選手達はハワイで行われたパシフィック・リムカップから帰国後、ひと月間、トレーニングルームにこもった。

■ ひと言で言うと重戦車。

鍛錬期を終えたチームは3月下旬、第1回目のフィールド&ストレングス測定を行った。昨年同時期の測定値の平均と比べると、体組成は体重1.7kg増、体脂肪0.6%減、骨格筋量 1.1㎏増、という理想的な結果となった。そしてフィールドでの測定値は、スプリントとアジリティに関しては昨年より若干劣ったものの、ジャンプ種目や持久力では優った。

特筆すべきはストレングス、すなわち筋力だ。クリーン意外、すべての種目で昨年を超える数値が出ており、中でもスクワットとベンチプレスは、体重比&挙上重量で昨年を大きく上回っている(スクワット:12.9kg増/ベンチプレス:3.4kg増)。ドームアスリートハウスの鈴木拓哉パフォーマンスコーチは語る。

「十分、自信を持っていいでしょう。ひと言で言うと重戦車です。昨年の同時期と比較すると昨チームより骨格筋量が1kg重く、各選手、十分な力発揮ができている。チーム平均値がクリーンで体重×1.1倍、スクワットで体重×2倍、ベンチプレスで体重×1.2倍。あくまで自分の経験則での話ですが、このレベルの数値をそろえたサッカーチームは日本に存在しません。

またフィールドでの測定値については、スプリントとアジリティは若干劣っていたものの、垂直跳びや立ち幅跳びのジャンプ系種目、そしてヨーヨーテストなど持久力系種目は優っており、非常に高い数値が出ていました。全体としては『より重戦車化し、走り続けれて、飛べる』。そんな印象です。理由はクレアチンローディング、新しいトレーニング器具の導入、そしていわきFCアスリートステーションでの食事でしょう」

チームはこれまで遺伝子検査や血液検査、ニュートリション管理、メディカル体制の整備など、さまざまな取り組みを行ってきた。その結果、選手達の筋力は如実に向上した。「パワー=筋力×スピード」。そこから測定結果を考えると、総合的なパワーの向上を目指す上で、最も伸びしろがあるのは動作スピードだということがはっきりした。

■ 基礎的なストレングスとサッカーの動きをつなぐ二つの機器。

2019年を通して、チームはここまで養ってきた筋力に加えて動作スピードを上げることで、スプリント力そして総合的なパワーの向上に取り組む。そのためのアプローチとして、新たに二つの機器を導入した。一つがS&CのGymAware(ジムアウェア)、もう一つがマイクロゲートのWITTY(ウィッティ)というシステムだ。

ジムアウェアは、シャフトやマシンにケーブルを取り付け、ケーブルの移動距離と時間から挙上スピードの平均値を測定するシステム。デバイスと連携し、1レップごとにアプリケーション上に数値を表示する。いわきFCが現在行っているのが、ジムアウェアを用いた「ベロシティ(速度)ベーストレーニング(VBT)」。バーベルやダンベルの挙上スピードを可視化するアプローチだ。

「今までは、最大挙上重量と疲労度をベースにメニューを考えてきました。例えば1回挙げられるMAX重量が100kgとすると、MAX×80%=80kgを6レップスでメニューを作成。疲労で5レップスしか挙げられなくなったら80kgを75kgに下げる、というやり方です。VBTではこれに加え、挙上スピードという新たな基準を設けています。ジムアウェアではは筋力の向上や筋肥大などの狙いに応じて理想の速度レンジを設定でき、いわきFCは今回の鍛錬期で、基準値を秒速0.5~0.75mmに定めています。

例えばギリギリの挙上重量で6レップスを行ったとしましょう。この時、1回1回の速度がタブレットに計6回表示されます。この6レップスの平均値が秒速0.5~0.75mmに収まっていればOKです」

そしてウィッティは、リアクション能力とアジリティを向上させるワイヤレストレーニングシステム。センサーの点灯に反応して器具にタッチし、かかった秒数を計測する。この機器は、MLBやJリーグのチームも導入している。

「特に狙うのは、脳からの情報を実際のサッカーの動きにつなげるまでのスピードを上げること。視覚から得た情報を、いかにして身体の動きへと素早くトランスファーするか。その点で脳トレやビジョントレーニングともいえます。

挙上速度がアップし、リアクションとアジリティが向上することで、グラウンドでのスプリント回数やスピードが上がる。それが『魂の息吹くフットボール』の実現につながる。僕らはそんな仮説を立て、それを今年1年をかけて検証していきます。この二つの機器が、今まで身につけてきた基礎的なストレングスとサッカーの動きの、貴重な架け橋になってくれることを期待しています」

■ 身体が重いと思ったら、身体を削らず運動量を増やす。

ストレングストレーニングにおいてチームが考慮せねばならないポイントが、選手ごとの筋力のばらつきだ。すでに身体ができ上がっている3~4年目の選手もいれば、20代前半の大卒1~2年目選手や他チームからの移籍選手、そして高卒1年目の選手もいるなど、チーム創設から4年目のシーズンを迎え、選手達のキャリアに幅が生まれてきた。その分、ストレングスにも大きな差がある。田村監督は語る。

「3年やってきてわかったのが、このチームに慣れるまでには一定の時間が必要、ということ。特に他のチームと大きく異なる点が、ストレングストレーニングの質と栄養摂取の環境です。

いわきFCに入団すると、ほぼ全選手の身体が急激に大きくなります。なぜそうなるかと言うと、ここまで徹底してカロリーや栄養素を計算した食事を、十分に摂ってきていないから。ちゃんと食べれば筋肉が付くし体重も上がる。そして体脂肪も多少、増える。

そして選手によっては、急激に体重を上げたことでプレーが鈍くなることもあります。身体の変化に意識が追いつかず、筋肥大して大きくなった身体を自分のものにするまでに時間がかかってしまうわけです。その結果、自分のプレーを見失ってしまったり、ケガが増える。そんなケースも過去にはありました」

選手達には、大きくなった身体にサッカーの動きをアジャストさせる時間が必要。そのため、ゆっくりと右肩上がりにストレングスが向上していくように調整していく。特に高卒選手は、本格的なストレングストレーニングをほとんどやっていないケースが多い。まだ身体ができていないので、急激な筋肥大をさせないよう、まずはトレーニングのフォームをしっかり体得することから始めて、少しずつ身体を大きくしく。ただし、そこには注意せねばならないポイントがあるという。

「入ったばかりの選手に伝えているのは、身体が大きくなって体脂肪が増えた時に、身体を削るな、ということ。体脂肪を増やしたくないから、食事量を減らそう。そう考える選手が時々いる。それではダメ。自分の身体が重かったり、体脂肪が増えているならば、運動量を増やすことです。

これは、アスリートとして非常に大事な考え。身体を削るのは、楽をするということ。自分のポテンシャルをもっと上げる。その気持ちが必要。アスリートとして、もっと高い所に自分を持っていってほしい」

また鈴木拓哉パフォーマンスコーチは、体重管理はトレーニング同様、期分けが必要だと語る。

「みんな良くも悪くも真面目すぎるんです。例えば1年目の選手の目標は、骨格筋量1kgアップ。そこでみんな律儀にやろうと思い過ぎてしまって、一気にたくさん食べ始める。その結果、一気に2㎏ぐらい体重が増えて動けない、となる。

そうではなく、年間スケジュールをよく考えて計画的に取り組むこと。例えば2月の鍛錬期、そして4月のリーグ開幕までに600g増やす。そこからは試合期に入るので、いったん維持。そして8月ごろにもう一度鍛錬期があるので、あと400~500gを増やす、というように、時期を考えること。ストレングスとサッカーの技術やスピードを同時に上げるのは無理だと割り切って、一気にやりすぎないことが大事です」

(後編に続く)

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2019年のいわきFCは、日本フットボールリーグ(JFL)への昇格を明確な目標として掲げている。東北社会人サッカーリーグ1部で上位の成績を収め、各地域のリーグの上位チームなどが出場する全国地域サッカーチャンピオンズリーグで上位に進出すると、JFL昇格への道が開かれる。

青森山田高で高校選手権を制したバスケス・バイロンらが新加入したチームは。2月のパシフィック・リムカップから本格始動。2月のJヴィレッジ再開記念福島ダービーマッチでJ3所属の同県ライバル・福島ユナイテッドFCに5対0で圧勝すると、4月14日に開幕した東北社会人1部リーグ第1節では、昨年JFLで戦ったコバルトーレ女川とのアウェイマッチに競り勝った。

そして5月12日には、福島ユナイテッドFCとの天皇杯福島県代表決定戦に2対0で完勝。翌週のリーグ第2節ではブランデュー弘前と引き分けたが、昨年までとは明らかに違う戦いぶりには、期待を寄せずにいられない。

ただし、いわきFCは勝利だけを目指すチームではない。戦うステージがどこであろうと、いわきFCのプレースタイルにブレはない。「魂の息吹くフットボール」。その実現のため、彼らは今シーズンも世界レベルのフィジカル構築を目指す。

■ とことん自分のフィジカルと向き合う。

2016年のチーム結成から3年が経過。選手達はここまで、右肩上がりでパワーを向上させてきた。彼らの身体は今や、日本のサッカー選手のスタンダードを軽く凌ぐ。そしては今年も「鍛錬期」と称し、1日3時間×週4日×4週間、集中的にストレングストレーニングに打ち込む。サッカークラブとしては極めて異例なこの取り組みも、今年で3年目だ。田村雄三監督は語る。

「鍛錬期にはゲームをせず、練習時間も短縮。とことん自分のフィジカルと向き合ってもらいます。鍛錬期を取り入れた1年目は、4日間連続で筋力ストレーニングに取り組んでいましたが、昨年から中休みを入れる形に変更。疲労の軽減のため、月火で上半身・下半身、水曜をトレーニング休みにして木で下半身・上半身、という形にしました。

もちろん水曜日もサッカーの練習はしますが、負荷は落とします。その分プレー映像を見る時間を増やしたり、グラウンドでの練習も長くても45分程度までに短縮しています」

今年一度目の鍛錬期は、4月15日の東北社会人1部リーグ開幕戦から逆算して、鍛錬期は重要な試合のひと月前に終わらせるようスケジュールを設定。2月中旬から3月中旬まで取った。選手達はハワイで行われたパシフィック・リムカップから帰国後、ひと月間、トレーニングルームにこもった。

■ ひと言で言うと重戦車。

鍛錬期を終えたチームは3月下旬、第1回目のフィールド&ストレングス測定を行った。昨年同時期の測定値の平均と比べると、体組成は体重1.7kg増、体脂肪0.6%減、骨格筋量 1.1㎏増、という理想的な結果となった。そしてフィールドでの測定値は、スプリントとアジリティに関しては昨年より若干劣ったものの、ジャンプ種目や持久力では優った。

特筆すべきはストレングス、すなわち筋力だ。クリーン意外、すべての種目で昨年を超える数値が出ており、中でもスクワットとベンチプレスは、体重比&挙上重量で昨年を大きく上回っている(スクワット:12.9kg増/ベンチプレス:3.4kg増)。ドームアスリートハウスの鈴木拓哉パフォーマンスコーチは語る。

「十分、自信を持っていいでしょう。ひと言で言うと重戦車です。昨年の同時期と比較すると昨チームより骨格筋量が1kg重く、各選手、十分な力発揮ができている。チーム平均値がクリーンで体重×1.1倍、スクワットで体重×2倍、ベンチプレスで体重×1.2倍。あくまで自分の経験則での話ですが、このレベルの数値をそろえたサッカーチームは日本に存在しません。

またフィールドでの測定値については、スプリントとアジリティは若干劣っていたものの、垂直跳びや立ち幅跳びのジャンプ系種目、そしてヨーヨーテストなど持久力系種目は優っており、非常に高い数値が出ていました。全体としては『より重戦車化し、走り続けれて、飛べる』。そんな印象です。理由はクレアチンローディング、新しいトレーニング器具の導入、そしていわきFCアスリートステーションでの食事でしょう」

チームはこれまで遺伝子検査や血液検査、ニュートリション管理、メディカル体制の整備など、さまざまな取り組みを行ってきた。その結果、選手達の筋力は如実に向上した。「パワー=筋力×スピード」。そこから測定結果を考えると、総合的なパワーの向上を目指す上で、最も伸びしろがあるのは動作スピードだということがはっきりした。

■ 基礎的なストレングスとサッカーの動きをつなぐ二つの機器。

2019年を通して、チームはここまで養ってきた筋力に加えて動作スピードを上げることで、スプリント力そして総合的なパワーの向上に取り組む。そのためのアプローチとして、新たに二つの機器を導入した。一つがS&CのGymAware(ジムアウェア)、もう一つがマイクロゲートのWITTY(ウィッティ)というシステムだ。

ジムアウェアは、シャフトやマシンにケーブルを取り付け、ケーブルの移動距離と時間から挙上スピードの平均値を測定するシステム。デバイスと連携し、1レップごとにアプリケーション上に数値を表示する。いわきFCが現在行っているのが、ジムアウェアを用いた「ベロシティ(速度)ベーストレーニング(VBT)」。バーベルやダンベルの挙上スピードを可視化するアプローチだ。

「今までは、最大挙上重量と疲労度をベースにメニューを考えてきました。例えば1回挙げられるMAX重量が100kgとすると、MAX×80%=80kgを6レップスでメニューを作成。疲労で5レップスしか挙げられなくなったら80kgを75kgに下げる、というやり方です。VBTではこれに加え、挙上スピードという新たな基準を設けています。ジムアウェアではは筋力の向上や筋肥大などの狙いに応じて理想の速度レンジを設定でき、いわきFCは今回の鍛錬期で、基準値を秒速0.5~0.75mmに定めています。

例えばギリギリの挙上重量で6レップスを行ったとしましょう。この時、1回1回の速度がタブレットに計6回表示されます。この6レップスの平均値が秒速0.5~0.75mmに収まっていればOKです」

そしてウィッティは、リアクション能力とアジリティを向上させるワイヤレストレーニングシステム。センサーの点灯に反応して器具にタッチし、かかった秒数を計測する。この機器は、MLBやJリーグのチームも導入している。

「特に狙うのは、脳からの情報を実際のサッカーの動きにつなげるまでのスピードを上げること。視覚から得た情報を、いかにして身体の動きへと素早くトランスファーするか。その点で脳トレやビジョントレーニングともいえます。

挙上速度がアップし、リアクションとアジリティが向上することで、グラウンドでのスプリント回数やスピードが上がる。それが『魂の息吹くフットボール』の実現につながる。僕らはそんな仮説を立て、それを今年1年をかけて検証していきます。この二つの機器が、今まで身につけてきた基礎的なストレングスとサッカーの動きの、貴重な架け橋になってくれることを期待しています」

■ 身体が重いと思ったら、身体を削らず運動量を増やす。

ストレングストレーニングにおいてチームが考慮せねばならないポイントが、選手ごとの筋力のばらつきだ。すでに身体ができ上がっている3~4年目の選手もいれば、20代前半の大卒1~2年目選手や他チームからの移籍選手、そして高卒1年目の選手もいるなど、チーム創設から4年目のシーズンを迎え、選手達のキャリアに幅が生まれてきた。その分、ストレングスにも大きな差がある。田村監督は語る。

「3年やってきてわかったのが、このチームに慣れるまでには一定の時間が必要、ということ。特に他のチームと大きく異なる点が、ストレングストレーニングの質と栄養摂取の環境です。

いわきFCに入団すると、ほぼ全選手の身体が急激に大きくなります。なぜそうなるかと言うと、ここまで徹底してカロリーや栄養素を計算した食事を、十分に摂ってきていないから。ちゃんと食べれば筋肉が付くし体重も上がる。そして体脂肪も多少、増える。

そして選手によっては、急激に体重を上げたことでプレーが鈍くなることもあります。身体の変化に意識が追いつかず、筋肥大して大きくなった身体を自分のものにするまでに時間がかかってしまうわけです。その結果、自分のプレーを見失ってしまったり、ケガが増える。そんなケースも過去にはありました」

選手達には、大きくなった身体にサッカーの動きをアジャストさせる時間が必要。そのため、ゆっくりと右肩上がりにストレングスが向上していくように調整していく。特に高卒選手は、本格的なストレングストレーニングをほとんどやっていないケースが多い。まだ身体ができていないので、急激な筋肥大をさせないよう、まずはトレーニングのフォームをしっかり体得することから始めて、少しずつ身体を大きくしく。ただし、そこには注意せねばならないポイントがあるという。

「入ったばかりの選手に伝えているのは、身体が大きくなって体脂肪が増えた時に、身体を削るな、ということ。体脂肪を増やしたくないから、食事量を減らそう。そう考える選手が時々いる。それではダメ。自分の身体が重かったり、体脂肪が増えているならば、運動量を増やすことです。

これは、アスリートとして非常に大事な考え。身体を削るのは、楽をするということ。自分のポテンシャルをもっと上げる。その気持ちが必要。アスリートとして、もっと高い所に自分を持っていってほしい」

また鈴木拓哉パフォーマンスコーチは、体重管理はトレーニング同様、期分けが必要だと語る。

「みんな良くも悪くも真面目すぎるんです。例えば1年目の選手の目標は、骨格筋量1kgアップ。そこでみんな律儀にやろうと思い過ぎてしまって、一気にたくさん食べ始める。その結果、一気に2㎏ぐらい体重が増えて動けない、となる。

そうではなく、年間スケジュールをよく考えて計画的に取り組むこと。例えば2月の鍛錬期、そして4月のリーグ開幕までに600g増やす。そこからは試合期に入るので、いったん維持。そして8月ごろにもう一度鍛錬期があるので、あと400~500gを増やす、というように、時期を考えること。ストレングスとサッカーの技術やスピードを同時に上げるのは無理だと割り切って、一気にやりすぎないことが大事です」

(後編に続く)

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