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先日、東京ビッグサイトにて、食品業界関係者が一堂に集う専門展示会「ifia Japan(国際食品素材/添加物・会議)が開催された。
この展示会で開かれた「サプリメントのアンチ・ドーピング対策:現状と今後」と題するセミナーに、株式会社ドーム執行役員SO・青柳清治(栄養学博士)が登壇。日本アンチ・ドーピング機構(JADA)によるサプリメント認証の終了と、英国LGC社の認証プログラム「インフォームドチョイス」への切り替えに関する進捗状況の報告、そして今後の取り組みについて、プレゼンテーションを行った。さらにセミナー後半では、IC導入企業5社によるパネルディスカッションが開かれた。ここでは、その内容についてレポートしたい。
まず、今回のプレゼンテーションに至る経緯をおさらいしておこう。わが国にはJADAが2006年に始めたサプリメントのアンチ・ドーピング認証制度があり、DNS製品もJADAによる認証を受けていた。しかしDNSは2016年、JADAのアンチ・ドーピング認証取得をやめ、英国LGC社の認証プログラム、「インフォームドチョイス(以下IC)」に切り替えることを決めた。
理由は、JADA認証プログラムの不可解な運営にあった。そもそもJADAの認証を受けるにはJADAへの加盟が必要であり、年間1000万円という高額の協賛金の納付が義務づけられていた。さらには年2回の製品分析や工場監査費用として、製品一つにつき75万円が発生する。
問題は高額な協賛金だけではない。JADAはこれらの費用を支払ったメーカーだけに「禁止物質に関して問題はありません」とお墨付きを与えているが、JADAは実際に、どこの機関でどのような方法で分析を行い、どのような結果に基づいて認証を行っているのか。DNSが何度となく開示を求めても、その答えが公表されることはなかった。高額な協賛金を徴収しているにも関わらず、きちんと製品分析を行っているかどうかは非常に疑わしい。DNSはそう考えざるを得なかった。
また、JADAの認証を受けるには、アメリカ食品医薬品局(FDA)が定める基準「cGMP(製造品質管理基準)」の取得が製造工場に義務づけられているのも不可解だ。日本国内にあるcGMP取得工場は約20のみで、その中に大手の工場はほぼない。つまり、JADAの認証を受けているすべての製品がcGMP工場で製造されているかというと…正直、信頼性は薄い。またcGMPはそもそも、アンチ・ドーピングを想定した管理基準ではない。
本来、JADAはドーピング検査を行い、違反選手を検挙する立場である。その彼らが、高額な協賛金を支払ったメーカーの個別製品だけに認証を付与し、選手や競技団体に対し、認証製品の使用を推奨していることも問題だ。これは利益相反に当たり、違法なカルテルとも解釈されかねない。JADAのアンチ・ドーピング認証は、あくまで日本国内だけで行われているローカルなものに過ぎず、JADAが連携するグローバル団体「世界アンチ・ドーピング機関(WADA)」は、こういった認証を行っていない。それどころか、WADAはJADAの認証制度を非難していた。
このように謎な部分の多いJADAの認証と比べ、DNSが2016年から認証を受けているICは、グローバルかつ透明性が高い。世界30カ国で200以上のブランドの約1000製品に採用され、協賛金制度はない。製造工程監査では、禁止物質が製造現場にあるかどうかを徹底的に検証。分析はISO17025を取得したラボで行われ、どの物質をどのような分析方法で検出しているのかはすべて公表される。そして認証後も、市場から無作為に製品サンプルを購入。毎月1回の分析を行う。これにより、禁止物質混入のリスクを徹底的に排除。こういった万全の策を取ることで、IC認証製品によるドーピング事例は現状0である。
JADAの非国際的かつ反モラル的な矛盾に対し、2016年にDNSが認証取得取りやめという行動を起こしたことは、大きな波紋を呼んだ。IC認証取得以降の動きについて、青柳はプレゼン内でこのように語った。
「私達の動きに対し、JADAは既存のサプリメント認証制度の問題点を認識。2016年9月に『サプリメント認証制度検証有識者会議』を設置しました。この会議は事実上、JADAによる認証制度の終息に向けた話し合いでした。
結果、JADAは2019年3月31日をもって、サプリメント分析認証プログラムの終了を発表。同時に、彼らが作成した『スポーツにおけるサプリメントの製品情報公開の枠組みに関するガイドライン』に沿った形で、アスリートやサプリメントメーカーがそれぞれの責任のもと、アンチ・ドーピングに取り組むべし、という考えを公表しました。
要は、JADAによるサプリメントのアンチ・ドーピング認証が終わったということ。それだけでは、現場のアスリートのドーピングに対する不安はなくなりません。大切なのは、ICの普及に向けた活動です。
DNSは2017年、JADAのやり方に疑問を抱いていた企業や、ICの質の高さとグローバルな信頼性の高さに共感する企業を取りまとめ『インフォームドチョイス・コンソーシアム(ICC)』を立ち上げました。狙いは、各社共通のパンフレットなどを作成するなど、ICの普及に向けて各企業が隔たりなく活動すること。それにより、アスリートの『うっかりドーピング』事例をなくし、彼らが自己責任ながらも安心してサプリメントを選択できる環境を整えることを目指してきました。
活動は徐々に実を結びつつあります。2016年当初、日本でICを取得していたのはDNSのみでしたが、私達の動きに多くの企業が共感、賛同してくださっています。現在、国内のICを導入している企業は国内で31社、製品は73製品、108品目。今後はこれを、もっと増やしていきます」
そしてセミナー後半では、IC導入企業による座談会が行われた。ここでは各社の事業内容と取り組みを紹介しつつ、うっかりドーピングの撲滅、そしてIC取得のメリットなどについて、活発な意見が交わされた。
ファイバープロテイン配合のコラーゲンゼリーでICの認証を受けている機能性食品メーカー、株式会社ステアス代表取締役社長・菅田貴司さんは、世界で戦うアスリートにとってのICの信頼性の高さを強調する。
「弊社の製品のICマークを見て、アスリートから声をかけられる機会が多くなりました。その結果、契約選手も増えています。独自で行ったアンケートでも、多くの選手がアンチ・ドーピングを強く意識しているという結果が出ていました。
ICはグローバルスタンダードとして信頼性が非常に高い。すべてはアスリートのため。サプリメントの業界全体として、IC認証取得企業を増やしていきたいと思います」
また食品メーカー、日本水産株式会社(ニッスイ)の小笹英興さんは、ICの認証取得がスムーズな商談に直結することを強調した。
「私達は1年前、青魚に含まれる栄養素EPAを使ったスポーツサプリメントでIC認証を取得しました。EPAについては、以前から他社様より、サプリメントに使用したいというお話を多数いただいていましたが、ICを取得したことで、よりスムーズに商談を進めることができたと思います。また、アスリートやスポーツの愛好家以外の方も、ICに関心を寄せていると聞いています」
他にもアダプトゲン製薬株式会社代表取締役社長・林博道さん、小林香料株式会社 化成品営業部部長・杉田直樹さん、そしてICの日本総代理店である有限会社バイオヘルスリサーチ・リミテッド取締役社長・池田秀子さんらによって、活発な意見交換が行われた。参加したいずれの企業も言及していたのが、ICの透明性と国際的な信頼度である。
注意せねばならないのが、JADAの認証が終了するという情報ばかりが拡散されてしまい、競技の現場に動揺が広がることだ。今後のカギとなるのは、アンチ・ドーピングのグローバルスタンダードとしてのICの日本国内での浸透である。アスリートのパフォーマンス向上に、サプリメントは必要不可欠。2020年の東京オリンピックに向けて注目が集まる中、「うっかりドーピング」で選手の積み重ねてきた努力がムダになることは、何としても避けねばならない。
サプリメントの摂取はあくまでアスリート自己責任。大切なのは、アンチ・ドーピングに対するリテラシーを、アスリート自身が高めることだ。JADAの認証プログラムが終了した今だからこそ、DNSを始めとするインフォームドチョイス・コンソーシアムのメンバーが中心となり、アスリートにグローバルスタンダードとしてのICの存在を啓蒙していきたい。
(終わり)
栄養学博士、(株)DNS 執行役員
米国オキシデンタル大学卒業後、㈱協和発酵バイオでアミノ酸研究に従事する中で、イリノイ大学で栄養学の博士号を取得。以降、外資企業で栄養剤ビジネス、商品開発の責任者を歴任した。日本へ帰国後2015年から、ウェアブランド「アンダーアーマー」の日本総代理店・㈱ドームのサプリメントブランド「DNS」にて責任者を務める。2020年より分社化した㈱DNSでサイエンティフィックオフィサーを務める。
先日、東京ビッグサイトにて、食品業界関係者が一堂に集う専門展示会「ifia Japan(国際食品素材/添加物・会議)が開催された。
この展示会で開かれた「サプリメントのアンチ・ドーピング対策:現状と今後」と題するセミナーに、株式会社ドーム執行役員SO・青柳清治(栄養学博士)が登壇。日本アンチ・ドーピング機構(JADA)によるサプリメント認証の終了と、英国LGC社の認証プログラム「インフォームドチョイス」への切り替えに関する進捗状況の報告、そして今後の取り組みについて、プレゼンテーションを行った。さらにセミナー後半では、IC導入企業5社によるパネルディスカッションが開かれた。ここでは、その内容についてレポートしたい。
まず、今回のプレゼンテーションに至る経緯をおさらいしておこう。わが国にはJADAが2006年に始めたサプリメントのアンチ・ドーピング認証制度があり、DNS製品もJADAによる認証を受けていた。しかしDNSは2016年、JADAのアンチ・ドーピング認証取得をやめ、英国LGC社の認証プログラム、「インフォームドチョイス(以下IC)」に切り替えることを決めた。
理由は、JADA認証プログラムの不可解な運営にあった。そもそもJADAの認証を受けるにはJADAへの加盟が必要であり、年間1000万円という高額の協賛金の納付が義務づけられていた。さらには年2回の製品分析や工場監査費用として、製品一つにつき75万円が発生する。
問題は高額な協賛金だけではない。JADAはこれらの費用を支払ったメーカーだけに「禁止物質に関して問題はありません」とお墨付きを与えているが、JADAは実際に、どこの機関でどのような方法で分析を行い、どのような結果に基づいて認証を行っているのか。DNSが何度となく開示を求めても、その答えが公表されることはなかった。高額な協賛金を徴収しているにも関わらず、きちんと製品分析を行っているかどうかは非常に疑わしい。DNSはそう考えざるを得なかった。
また、JADAの認証を受けるには、アメリカ食品医薬品局(FDA)が定める基準「cGMP(製造品質管理基準)」の取得が製造工場に義務づけられているのも不可解だ。日本国内にあるcGMP取得工場は約20のみで、その中に大手の工場はほぼない。つまり、JADAの認証を受けているすべての製品がcGMP工場で製造されているかというと…正直、信頼性は薄い。またcGMPはそもそも、アンチ・ドーピングを想定した管理基準ではない。
本来、JADAはドーピング検査を行い、違反選手を検挙する立場である。その彼らが、高額な協賛金を支払ったメーカーの個別製品だけに認証を付与し、選手や競技団体に対し、認証製品の使用を推奨していることも問題だ。これは利益相反に当たり、違法なカルテルとも解釈されかねない。JADAのアンチ・ドーピング認証は、あくまで日本国内だけで行われているローカルなものに過ぎず、JADAが連携するグローバル団体「世界アンチ・ドーピング機関(WADA)」は、こういった認証を行っていない。それどころか、WADAはJADAの認証制度を非難していた。
このように謎な部分の多いJADAの認証と比べ、DNSが2016年から認証を受けているICは、グローバルかつ透明性が高い。世界30カ国で200以上のブランドの約1000製品に採用され、協賛金制度はない。製造工程監査では、禁止物質が製造現場にあるかどうかを徹底的に検証。分析はISO17025を取得したラボで行われ、どの物質をどのような分析方法で検出しているのかはすべて公表される。そして認証後も、市場から無作為に製品サンプルを購入。毎月1回の分析を行う。これにより、禁止物質混入のリスクを徹底的に排除。こういった万全の策を取ることで、IC認証製品によるドーピング事例は現状0である。
JADAの非国際的かつ反モラル的な矛盾に対し、2016年にDNSが認証取得取りやめという行動を起こしたことは、大きな波紋を呼んだ。IC認証取得以降の動きについて、青柳はプレゼン内でこのように語った。
「私達の動きに対し、JADAは既存のサプリメント認証制度の問題点を認識。2016年9月に『サプリメント認証制度検証有識者会議』を設置しました。この会議は事実上、JADAによる認証制度の終息に向けた話し合いでした。
結果、JADAは2019年3月31日をもって、サプリメント分析認証プログラムの終了を発表。同時に、彼らが作成した『スポーツにおけるサプリメントの製品情報公開の枠組みに関するガイドライン』に沿った形で、アスリートやサプリメントメーカーがそれぞれの責任のもと、アンチ・ドーピングに取り組むべし、という考えを公表しました。
要は、JADAによるサプリメントのアンチ・ドーピング認証が終わったということ。それだけでは、現場のアスリートのドーピングに対する不安はなくなりません。大切なのは、ICの普及に向けた活動です。
DNSは2017年、JADAのやり方に疑問を抱いていた企業や、ICの質の高さとグローバルな信頼性の高さに共感する企業を取りまとめ『インフォームドチョイス・コンソーシアム(ICC)』を立ち上げました。狙いは、各社共通のパンフレットなどを作成するなど、ICの普及に向けて各企業が隔たりなく活動すること。それにより、アスリートの『うっかりドーピング』事例をなくし、彼らが自己責任ながらも安心してサプリメントを選択できる環境を整えることを目指してきました。
活動は徐々に実を結びつつあります。2016年当初、日本でICを取得していたのはDNSのみでしたが、私達の動きに多くの企業が共感、賛同してくださっています。現在、国内のICを導入している企業は国内で31社、製品は73製品、108品目。今後はこれを、もっと増やしていきます」
そしてセミナー後半では、IC導入企業による座談会が行われた。ここでは各社の事業内容と取り組みを紹介しつつ、うっかりドーピングの撲滅、そしてIC取得のメリットなどについて、活発な意見が交わされた。
ファイバープロテイン配合のコラーゲンゼリーでICの認証を受けている機能性食品メーカー、株式会社ステアス代表取締役社長・菅田貴司さんは、世界で戦うアスリートにとってのICの信頼性の高さを強調する。
「弊社の製品のICマークを見て、アスリートから声をかけられる機会が多くなりました。その結果、契約選手も増えています。独自で行ったアンケートでも、多くの選手がアンチ・ドーピングを強く意識しているという結果が出ていました。
ICはグローバルスタンダードとして信頼性が非常に高い。すべてはアスリートのため。サプリメントの業界全体として、IC認証取得企業を増やしていきたいと思います」
また食品メーカー、日本水産株式会社(ニッスイ)の小笹英興さんは、ICの認証取得がスムーズな商談に直結することを強調した。
「私達は1年前、青魚に含まれる栄養素EPAを使ったスポーツサプリメントでIC認証を取得しました。EPAについては、以前から他社様より、サプリメントに使用したいというお話を多数いただいていましたが、ICを取得したことで、よりスムーズに商談を進めることができたと思います。また、アスリートやスポーツの愛好家以外の方も、ICに関心を寄せていると聞いています」
他にもアダプトゲン製薬株式会社代表取締役社長・林博道さん、小林香料株式会社 化成品営業部部長・杉田直樹さん、そしてICの日本総代理店である有限会社バイオヘルスリサーチ・リミテッド取締役社長・池田秀子さんらによって、活発な意見交換が行われた。参加したいずれの企業も言及していたのが、ICの透明性と国際的な信頼度である。
注意せねばならないのが、JADAの認証が終了するという情報ばかりが拡散されてしまい、競技の現場に動揺が広がることだ。今後のカギとなるのは、アンチ・ドーピングのグローバルスタンダードとしてのICの日本国内での浸透である。アスリートのパフォーマンス向上に、サプリメントは必要不可欠。2020年の東京オリンピックに向けて注目が集まる中、「うっかりドーピング」で選手の積み重ねてきた努力がムダになることは、何としても避けねばならない。
サプリメントの摂取はあくまでアスリート自己責任。大切なのは、アンチ・ドーピングに対するリテラシーを、アスリート自身が高めることだ。JADAの認証プログラムが終了した今だからこそ、DNSを始めとするインフォームドチョイス・コンソーシアムのメンバーが中心となり、アスリートにグローバルスタンダードとしてのICの存在を啓蒙していきたい。
(終わり)
栄養学博士、(株)DNS 執行役員
米国オキシデンタル大学卒業後、㈱協和発酵バイオでアミノ酸研究に従事する中で、イリノイ大学で栄養学の博士号を取得。以降、外資企業で栄養剤ビジネス、商品開発の責任者を歴任した。日本へ帰国後2015年から、ウェアブランド「アンダーアーマー」の日本総代理店・㈱ドームのサプリメントブランド「DNS」にて責任者を務める。2020年より分社化した㈱DNSでサイエンティフィックオフィサーを務める。