競技パフォーマンスUP

リスクを冒さぬ退屈な日本のサッカーを、圧倒的なパワーで変革する。 いわきFCが巻き起こすフィジカル革命 ~その13 前編

リスクを冒さぬ退屈な日本のサッカーを、圧倒的なパワーで変革する。
いわきFCが巻き起こすフィジカル革命 ~その13 前編

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リスクを冒さぬ退屈な日本のサッカーを、圧倒的なパワーで変革する。 いわきFCが巻き起こすフィジカル革命 ~その13 前編

リスクを冒さぬ退屈な日本のサッカーを、圧倒的なパワーで変革する。
いわきFCが巻き起こすフィジカル革命 ~その13 前編

2016年に福島県社会人2部からスタートし、昨年、東北社会人1部リーグそして全国地域サッカーチャンピオンズリーグ2019を無敗で制覇。ついに全国リーグJFL(日本フットボールリーグ)への昇格を決めたいわきFC。

だが、今年のスタートは思いもよらぬ形となった。新型コロナウイルスの影響で、第22回JFLの開幕は当初の3月から7月に延期。大会方式も16チームによるホーム&アウェー方式から、16チーム1回戦総当たり方式に変更されることになった。

難しい判断を迫られる中、いわきFCは可能な限りの注意を払いながら、活動を継続していた。

■大きく強い身体を作る「鍛錬期」

今年のチームは昨年の29名から5名減り、全24名の少数精鋭となった。昨シーズン限りで14名が退団した一方、FW鈴木翔大やDF田中龍志郎など他チームからの移籍選手、そして大卒選手の計9名を補強した。

初のJFL参戦とはいえ、MF日高大やGK坂田大樹など、チームにはすでにJFLでのプレー経験がある選手も多い。そのため、初参戦ながらも優勝を狙える力は十分ある。チームは3月のリーグ戦開幕をターゲットに、1月から活動を開始した。

「日本のフィジカルスタンダードを変える」

チームが2016年に掲げたスローガンは不変だ。これまでも「鍛錬期」と称し、週3~4日、徹底的にストレングストレーニングに打ち込む期間を設け、日本のサッカー選手の枠を超える大きく強い身体を作ることを目指してきた。今年も1月に週3日×4週、徹底的にストレングストレーニングに打ち込んだ。鈴木秀紀パフォーマンスコーチは語る。
「重量とレップスのバランス、挙上スピードの強弱、筋力を上げるのかトータルでのパワーを上げるのか。ストレングストレーニングにはさまざまな行い方がありますが、1月の鍛錬期の主な狙いは、筋肥大によって身体を大きく、強くすることです」

遺伝子検査の結果に基づき、選手達をRR(パワー系)、RX(中間系)、XX(持久系)の3パターンに分けてメニューを微調整しつつ、1年間のリーグ戦を戦い抜くベースとなる身体を作り上げる。それがテーマだった。

「今年の鍛錬期は、シーズンスタート時のこの1回のみとなる予定でした。昨年はリーグ戦にそれほど強敵がおらず、優勝チームが出場する11月の『全国地域チャンピオンズリーグ2019』に照準を絞っていたため、鍛錬期を複数回入れることができた。
でも今年からは、それはできない。3月から11月まで毎週のように試合があり、アウェーの遠征も増える。そして当然、相手のレベルも上がる。そのため、鍛錬期は1月の1回のみ。シーズン中のストレングストレーニングも週1日だけになります。そんな事情もあり、1月の鍛錬期は昨年よりも強い負荷をかけ、かなり追い込みました」

■サッカー選手がストレングストレーニングに取り組むのはもう常識

鍛錬期における身体作りの指標について、これまでは主にチーム在籍年数によって筋肉量と体重の目標値を設定していたが、今年はそれを細分化。体組成の目標値について、ヨーロッパのトップクラブの選手などを参考に年齢とポジション、身長も考慮して個別性を重視。個人でより細かく数値を設定した。

「例えば高卒2年目のMF寺村浩平とDF増崎大虎の二人。彼らは年齢も若く、2年、3年をかけて大きく花開いてほしい選手で、身体のサイズはほぼ同じです。でも寺村はボランチ、増崎はセンターバックと、ポジションが異なります。そこから考えると寺村は現段階で求める筋肉量をクリアしているのですが、増崎はもう少し身体の強さがほしい。だから、もう少し頑張れと伝えています」

いわきFCがストレングストレーニングに重点的に取り組んでいることが浸透していることから、多くの新入団選手はチーム加入前からウエイトトレーニングにしっかり取り組んできた。そのため今年の新入団選手は例年と比べフィジカルの完成度が高く、ストレングスを重視するいわきFCのスタイルにもしっかりと順応できている。

「以前は当たり前のように『サッカー選手は筋トレしてはいけない。筋肉がつくと動けなくなる』と言われていました。でも最近は、ストレングストレーニングに懐疑的な目を向けられることはかなり減った印象があります。YouTubeなどで、海外のトップ選手がウエイトトレーニングをしている動画を見ることもできますから、その影響もあるのでしょう。だいぶ変わってきた印象があります。
実際、ウチの施設でトレーニングさせてほしい、という高校生や大学生のチームからの依頼も増えています。チームのプレースタイルはあるにせよ、サッカー選手もストレングストレーニングに取り組むのは常識となりつつあります」

■3週間を底上げに充てる。

1月の鍛錬期後はトレーニング頻度を落とし、スピードトレーニングを増やすなどして筋肉をつけた身体をプレーにアジャストさせていった。そして2月のトレーニングマッチでJ2所属の水戸ホーリーホックに5対0で圧勝するなど、好調な滑り出しを見せた。

「2月からは重量設定やレップスや挙上スピードなど、負荷のかけ方を変えていました。挙上のテンポを速くするなどして、短い時間で大きな力を出して爆発力をつけるメニュー中心に切り替えていたわけです。トレーニング頻度は週1回が基本で、選手によっては2回。その分グラウンドでのサッカーの練習を増やし、3月に備えていました」

しかし、そこにコロナ禍がやってきた。拠点であるいわきFCパークは自前の施設ゆえ、チームの活動は継続できた。しかし緊急事態宣言の発令後、プランは修正を余儀なくされた。チームはいわき市内そして福島県内の感染者数をチェックし、三密による感染拡大を避けるため、最大限の注意を払いながら活動を行った。

その後、2020年のJFLは7月開幕の全15試合のリーグ戦に変更。それに伴い全体スケジュールも変わった。チームは4月半ばから3週間、再びストレングストレーニング主体とした身体作りを行うことになった。

「この期間で行ったのは、ストレングスの底上げです。まず、チームを週2回トレーニングするグループと週3回トレーニングするグループに分けました。コンディションが上がっている選手、筋肉量が足りている選手は週2回のトレーニングで維持。動作改善を行って、正しいフォームを今一度身につけさせました。
目標数値に達していない選手や、年齢が若くまだ身体ができていない選手は週3回、ベースとなる筋力を集中的に鍛えました。彼らも動作改善に取り組んでもらいましたが、それに加えて再び筋肥大に時間を割いてもらいました。”プチ鍛錬期”のイメージですね」

選手達は7月18日のリーグ初戦に照準を合わせ、身体作りに励んだ。結果的に、この時のトレーニングの見直しが功を奏し、チームの調子は上向いていくことになる。

 

(後編に続く)

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2016年に福島県社会人2部からスタートし、昨年、東北社会人1部リーグそして全国地域サッカーチャンピオンズリーグ2019を無敗で制覇。ついに全国リーグJFL(日本フットボールリーグ)への昇格を決めたいわきFC。

だが、今年のスタートは思いもよらぬ形となった。新型コロナウイルスの影響で、第22回JFLの開幕は当初の3月から7月に延期。大会方式も16チームによるホーム&アウェー方式から、16チーム1回戦総当たり方式に変更されることになった。

難しい判断を迫られる中、いわきFCは可能な限りの注意を払いながら、活動を継続していた。

■大きく強い身体を作る「鍛錬期」

今年のチームは昨年の29名から5名減り、全24名の少数精鋭となった。昨シーズン限りで14名が退団した一方、FW鈴木翔大やDF田中龍志郎など他チームからの移籍選手、そして大卒選手の計9名を補強した。

初のJFL参戦とはいえ、MF日高大やGK坂田大樹など、チームにはすでにJFLでのプレー経験がある選手も多い。そのため、初参戦ながらも優勝を狙える力は十分ある。チームは3月のリーグ戦開幕をターゲットに、1月から活動を開始した。

「日本のフィジカルスタンダードを変える」

チームが2016年に掲げたスローガンは不変だ。これまでも「鍛錬期」と称し、週3~4日、徹底的にストレングストレーニングに打ち込む期間を設け、日本のサッカー選手の枠を超える大きく強い身体を作ることを目指してきた。今年も1月に週3日×4週、徹底的にストレングストレーニングに打ち込んだ。鈴木秀紀パフォーマンスコーチは語る。
「重量とレップスのバランス、挙上スピードの強弱、筋力を上げるのかトータルでのパワーを上げるのか。ストレングストレーニングにはさまざまな行い方がありますが、1月の鍛錬期の主な狙いは、筋肥大によって身体を大きく、強くすることです」

遺伝子検査の結果に基づき、選手達をRR(パワー系)、RX(中間系)、XX(持久系)の3パターンに分けてメニューを微調整しつつ、1年間のリーグ戦を戦い抜くベースとなる身体を作り上げる。それがテーマだった。

「今年の鍛錬期は、シーズンスタート時のこの1回のみとなる予定でした。昨年はリーグ戦にそれほど強敵がおらず、優勝チームが出場する11月の『全国地域チャンピオンズリーグ2019』に照準を絞っていたため、鍛錬期を複数回入れることができた。
でも今年からは、それはできない。3月から11月まで毎週のように試合があり、アウェーの遠征も増える。そして当然、相手のレベルも上がる。そのため、鍛錬期は1月の1回のみ。シーズン中のストレングストレーニングも週1日だけになります。そんな事情もあり、1月の鍛錬期は昨年よりも強い負荷をかけ、かなり追い込みました」

■サッカー選手がストレングストレーニングに取り組むのはもう常識

鍛錬期における身体作りの指標について、これまでは主にチーム在籍年数によって筋肉量と体重の目標値を設定していたが、今年はそれを細分化。体組成の目標値について、ヨーロッパのトップクラブの選手などを参考に年齢とポジション、身長も考慮して個別性を重視。個人でより細かく数値を設定した。

「例えば高卒2年目のMF寺村浩平とDF増崎大虎の二人。彼らは年齢も若く、2年、3年をかけて大きく花開いてほしい選手で、身体のサイズはほぼ同じです。でも寺村はボランチ、増崎はセンターバックと、ポジションが異なります。そこから考えると寺村は現段階で求める筋肉量をクリアしているのですが、増崎はもう少し身体の強さがほしい。だから、もう少し頑張れと伝えています」

いわきFCがストレングストレーニングに重点的に取り組んでいることが浸透していることから、多くの新入団選手はチーム加入前からウエイトトレーニングにしっかり取り組んできた。そのため今年の新入団選手は例年と比べフィジカルの完成度が高く、ストレングスを重視するいわきFCのスタイルにもしっかりと順応できている。

「以前は当たり前のように『サッカー選手は筋トレしてはいけない。筋肉がつくと動けなくなる』と言われていました。でも最近は、ストレングストレーニングに懐疑的な目を向けられることはかなり減った印象があります。YouTubeなどで、海外のトップ選手がウエイトトレーニングをしている動画を見ることもできますから、その影響もあるのでしょう。だいぶ変わってきた印象があります。
実際、ウチの施設でトレーニングさせてほしい、という高校生や大学生のチームからの依頼も増えています。チームのプレースタイルはあるにせよ、サッカー選手もストレングストレーニングに取り組むのは常識となりつつあります」

■3週間を底上げに充てる。

1月の鍛錬期後はトレーニング頻度を落とし、スピードトレーニングを増やすなどして筋肉をつけた身体をプレーにアジャストさせていった。そして2月のトレーニングマッチでJ2所属の水戸ホーリーホックに5対0で圧勝するなど、好調な滑り出しを見せた。

「2月からは重量設定やレップスや挙上スピードなど、負荷のかけ方を変えていました。挙上のテンポを速くするなどして、短い時間で大きな力を出して爆発力をつけるメニュー中心に切り替えていたわけです。トレーニング頻度は週1回が基本で、選手によっては2回。その分グラウンドでのサッカーの練習を増やし、3月に備えていました」

しかし、そこにコロナ禍がやってきた。拠点であるいわきFCパークは自前の施設ゆえ、チームの活動は継続できた。しかし緊急事態宣言の発令後、プランは修正を余儀なくされた。チームはいわき市内そして福島県内の感染者数をチェックし、三密による感染拡大を避けるため、最大限の注意を払いながら活動を行った。

その後、2020年のJFLは7月開幕の全15試合のリーグ戦に変更。それに伴い全体スケジュールも変わった。チームは4月半ばから3週間、再びストレングストレーニング主体とした身体作りを行うことになった。

「この期間で行ったのは、ストレングスの底上げです。まず、チームを週2回トレーニングするグループと週3回トレーニングするグループに分けました。コンディションが上がっている選手、筋肉量が足りている選手は週2回のトレーニングで維持。動作改善を行って、正しいフォームを今一度身につけさせました。
目標数値に達していない選手や、年齢が若くまだ身体ができていない選手は週3回、ベースとなる筋力を集中的に鍛えました。彼らも動作改善に取り組んでもらいましたが、それに加えて再び筋肥大に時間を割いてもらいました。”プチ鍛錬期”のイメージですね」

選手達は7月18日のリーグ初戦に照準を合わせ、身体作りに励んだ。結果的に、この時のトレーニングの見直しが功を奏し、チームの調子は上向いていくことになる。

 

(後編に続く)

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