競技パフォーマンスUP
チームは4月半ばから3週間、再びストレングストレーニングを重点的に行った。そして自粛期間が明け、全体練習を再開。初戦を想定してサッカーの練習を増やし、パワーが増した身体を実際のプレーにアジャストさせていった。
週末にはトレーニングマッチも再開。直後にtonan前橋と流経大に敗れたものの、同じJFLに所属するチームとの試合では1勝1分。徐々に調子を取り戻していった。
そして7月18日。迎えたJFL初戦(第16節)は、奈良クラブとのホームゲーム。
「この試合はただの開幕戦じゃない。”決勝戦”だ」
田村雄三監督は試合前、選手達にそう宣言した。なぜなら第17節は8月23日と1カ月空くため、選手達は初戦で思い切りプレーできる。そしてこの1カ月を勝って過ごせるかどうかは、シーズンの今後を大きく左右する。だからこそ、是が非でも勝利がほしかった。
スターティングメンバー11人のうち、DF2人とFW3人が新加入メンバーとなったこの試合は、思いもよらぬ滑り出しを見せる。開始早々の混乱に乗じ、わずか1分で奈良クラブが先制。その後も奈良クラブは中盤で激しいプレスをかけ、いわきFCを思うようにプレーさせない。
重苦しい空気を変えたのが、後半開始から投入されたFW平岡将豪だった。平岡がMF日高大のコンビネーションで左サイドを再三崩し、徐々に攻撃の形ができていく。結局、後半は奈良クラブを終始圧倒。65分にFW岩渕弘人、86分にFW鈴木翔大がゴールを挙げて勝利し、いわきFCは記念すべきJFL初戦で勝利を飾った。
「開始1分で先制されましたが、不安はありませんでした。スタミナに関しては何の心配もないので、前半に点を取れなくても、後半になれば必ずこっちに分があるのはわかっていました。それだけのフィジカルとタフネスを身につけてきた自信があったので、後半は安心して見ていられました。
4月半ばから3週間、しっかりとストレングストレーニングを主体とした身体作りを行えたことが、振り返れば本当によかった。環境に感謝せねばなりませんが、僕らは自粛期間でも活動を継続でき、フィジカル面の土台を作り直すことができた。トレーニングをグループ分けして行ったのはもともとコロナ対策だったのですが、選手一人一人のトレーニングをしっかりと見ることができ、コミュニケーションをしっかり取れたことも大きかったです。そしてそのおかげで、6月から7月にかけて質の高いサッカーの練習ができました。これが初戦の勝利につながったと思います」
鈴木秀紀パフォーマンスコーチは、試合をそう振り返る。この試合のスターティングメンバーのうち5人が今季新加入のメンバーだったが、チーム加入後間もない彼らが自粛期間中にコンディションを整えることができたことも、功を奏した。
「例えばDF田中龍志郎選手は3月ごろ、コンディションが今一つに思えました。今までにないトレーニングの負荷で、疲れがたまっていたのでしょう。これは彼が真面目にトレーニングに取り組んだ証拠ですが、新たな環境に慣れ切っていなかったのも大きい。でも初戦を見る限り、しっかりとコンディションを取り戻していた。
またFW鈴木翔大選手は1月の鍛錬期に、半分冗談でしょうけれども『トレーニングがきつすぎて鬱になりそうです』と言っていました。でも今は、ストレングストレーニングをいい意味で楽しそうにやっていますし、負荷の設定や動作の仕方について、細かいことを積極的に質問してきます。試合では決勝点を取りましたし、いい動きができていると思います」
選手達は奈良クラブ戦終了後、7月28日からトレーニングを再開。2週にわたってストレングストレーニングを週2日に増やしてフィジカルを練り直し、8月23日の第17節・ヴェルスパ大分戦(アウェー)に備えた。
「オフ明けに選手の体組成をチェックしましたが、1週間の休みを取っても筋力や心肺機能はほとんど下がっていない。1月と4~5月にみっちりと鍛えているので、すぐにコンディションは戻ると思います。オフ明け1週目はコンディションを戻す意味でたくさん走り、ストレングスでは可動域を意識させたり、体幹の反応をよくすることを重視しました。そして2週目は鍛錬期ほどではありませんが、エキセントリックトレーニングで強めの負荷をかけていきます。
今シーズンのスケジュールを逆算して考えた時、フィジカル面の刺激を強く入れられるのはおそらくこの2週が最後。フィジカルの土台をここでしっかり作りたいので、この期間は非常に大事。いったん個に向き合う時間ととらえ、自分の能力を高めることに集中してほしいです。そして3週目からはストレングスを週1日に戻し、サッカーの練習を増やしつつ、ゲームを意識して有酸素系の刺激を与えて高い水準を維持していければと考えています」
自粛期間にストレングストレーニングを2グループないし3グループに分けて行っていたが、これは現在も継続している。感染症対策はもちろんだが、グループ分けしてトレーニングを見た結果、選手それぞれに対して目が行き届くようになったことも大きく、自粛期間中のトレーニングは数値的にも十分な効果が出ていたという。今年は試合スケジュールがタイトな分、ストレングストレーニングの時間は減らさざるを得ない。だがその分、毎回の質を高めるという方向性で、スタッフ間のコンセンサスが取れている。
懸念は選手層だ。昨年の選手数28名に対し、今年は24名。毎週コンスタントに試合がある状況で、どうシーズンを乗り切っていくか。チームにJFL経験者が多くいるのは心強いが、90分間止まらず、倒れずに走り続けるいわきFCのプレースタイルは、選手の身体に大きな負担を強いる。しっかりと身体を作り、負傷者をなるべく出さずに”短期決戦”となった今シーズンを乗り切りたい。
「今年はまさに総力戦。開幕戦でメンバー外になった選手もいますが、彼らの力が必要になる時は絶対にあるし、多くの選手が複数のポジションをこなすことになる。全員がいつでも行けるように、準備をしてほしいです」
8月23日の第17節は、ヴェルスパ大分とのアウェーゲーム。前半にMF日高大のゴールで先制するも、その後立て続けに失点。いわきFCは1対4で敗れた。2016年にチームが現体制となってから、リーグ戦での敗戦は初めてのこと。やはり、JFLは甘くない。
だが、下を向いている場合ではない。
JFLのリーグ戦と並行して、9月からは天皇杯が組み込まれる。今年の天皇杯は12月の準々決勝までJクラブの参戦はなく、5回戦まではアマチュアシードのHonda FCとJクラブを含まぬ都道府県代表47チームで争われる。いわきFCは9月16日に1回戦を大山サッカークラブ(山形県代表)と戦い、これに勝てば23日に2回戦を、青森県代表と北海道代表の勝者と戦う。
仮に天皇杯2回戦を勝てれば、3回戦は10月28日。順当にいけば、相手はJFLのソニー仙台FC(宮城県代表)と予想される。2018年の天皇杯で敗れており、今年は10月18日のJFL第24節で直接対決するチームだけに、否が応にも盛り上がるはずだ。
9月~10月は週末のリーグ戦と並行して天皇杯を戦うため、タフなスケジュールとなる。負傷者を出さずにこの9~10月を乗り切れるかどうか。そこが、今シーズンを占う一つのポイントとなるだろう。
(終わり)
チームは4月半ばから3週間、再びストレングストレーニングを重点的に行った。そして自粛期間が明け、全体練習を再開。初戦を想定してサッカーの練習を増やし、パワーが増した身体を実際のプレーにアジャストさせていった。
週末にはトレーニングマッチも再開。直後にtonan前橋と流経大に敗れたものの、同じJFLに所属するチームとの試合では1勝1分。徐々に調子を取り戻していった。
そして7月18日。迎えたJFL初戦(第16節)は、奈良クラブとのホームゲーム。
「この試合はただの開幕戦じゃない。”決勝戦”だ」
田村雄三監督は試合前、選手達にそう宣言した。なぜなら第17節は8月23日と1カ月空くため、選手達は初戦で思い切りプレーできる。そしてこの1カ月を勝って過ごせるかどうかは、シーズンの今後を大きく左右する。だからこそ、是が非でも勝利がほしかった。
スターティングメンバー11人のうち、DF2人とFW3人が新加入メンバーとなったこの試合は、思いもよらぬ滑り出しを見せる。開始早々の混乱に乗じ、わずか1分で奈良クラブが先制。その後も奈良クラブは中盤で激しいプレスをかけ、いわきFCを思うようにプレーさせない。
重苦しい空気を変えたのが、後半開始から投入されたFW平岡将豪だった。平岡がMF日高大のコンビネーションで左サイドを再三崩し、徐々に攻撃の形ができていく。結局、後半は奈良クラブを終始圧倒。65分にFW岩渕弘人、86分にFW鈴木翔大がゴールを挙げて勝利し、いわきFCは記念すべきJFL初戦で勝利を飾った。
「開始1分で先制されましたが、不安はありませんでした。スタミナに関しては何の心配もないので、前半に点を取れなくても、後半になれば必ずこっちに分があるのはわかっていました。それだけのフィジカルとタフネスを身につけてきた自信があったので、後半は安心して見ていられました。
4月半ばから3週間、しっかりとストレングストレーニングを主体とした身体作りを行えたことが、振り返れば本当によかった。環境に感謝せねばなりませんが、僕らは自粛期間でも活動を継続でき、フィジカル面の土台を作り直すことができた。トレーニングをグループ分けして行ったのはもともとコロナ対策だったのですが、選手一人一人のトレーニングをしっかりと見ることができ、コミュニケーションをしっかり取れたことも大きかったです。そしてそのおかげで、6月から7月にかけて質の高いサッカーの練習ができました。これが初戦の勝利につながったと思います」
鈴木秀紀パフォーマンスコーチは、試合をそう振り返る。この試合のスターティングメンバーのうち5人が今季新加入のメンバーだったが、チーム加入後間もない彼らが自粛期間中にコンディションを整えることができたことも、功を奏した。
「例えばDF田中龍志郎選手は3月ごろ、コンディションが今一つに思えました。今までにないトレーニングの負荷で、疲れがたまっていたのでしょう。これは彼が真面目にトレーニングに取り組んだ証拠ですが、新たな環境に慣れ切っていなかったのも大きい。でも初戦を見る限り、しっかりとコンディションを取り戻していた。
またFW鈴木翔大選手は1月の鍛錬期に、半分冗談でしょうけれども『トレーニングがきつすぎて鬱になりそうです』と言っていました。でも今は、ストレングストレーニングをいい意味で楽しそうにやっていますし、負荷の設定や動作の仕方について、細かいことを積極的に質問してきます。試合では決勝点を取りましたし、いい動きができていると思います」
選手達は奈良クラブ戦終了後、7月28日からトレーニングを再開。2週にわたってストレングストレーニングを週2日に増やしてフィジカルを練り直し、8月23日の第17節・ヴェルスパ大分戦(アウェー)に備えた。
「オフ明けに選手の体組成をチェックしましたが、1週間の休みを取っても筋力や心肺機能はほとんど下がっていない。1月と4~5月にみっちりと鍛えているので、すぐにコンディションは戻ると思います。オフ明け1週目はコンディションを戻す意味でたくさん走り、ストレングスでは可動域を意識させたり、体幹の反応をよくすることを重視しました。そして2週目は鍛錬期ほどではありませんが、エキセントリックトレーニングで強めの負荷をかけていきます。
今シーズンのスケジュールを逆算して考えた時、フィジカル面の刺激を強く入れられるのはおそらくこの2週が最後。フィジカルの土台をここでしっかり作りたいので、この期間は非常に大事。いったん個に向き合う時間ととらえ、自分の能力を高めることに集中してほしいです。そして3週目からはストレングスを週1日に戻し、サッカーの練習を増やしつつ、ゲームを意識して有酸素系の刺激を与えて高い水準を維持していければと考えています」
自粛期間にストレングストレーニングを2グループないし3グループに分けて行っていたが、これは現在も継続している。感染症対策はもちろんだが、グループ分けしてトレーニングを見た結果、選手それぞれに対して目が行き届くようになったことも大きく、自粛期間中のトレーニングは数値的にも十分な効果が出ていたという。今年は試合スケジュールがタイトな分、ストレングストレーニングの時間は減らさざるを得ない。だがその分、毎回の質を高めるという方向性で、スタッフ間のコンセンサスが取れている。
懸念は選手層だ。昨年の選手数28名に対し、今年は24名。毎週コンスタントに試合がある状況で、どうシーズンを乗り切っていくか。チームにJFL経験者が多くいるのは心強いが、90分間止まらず、倒れずに走り続けるいわきFCのプレースタイルは、選手の身体に大きな負担を強いる。しっかりと身体を作り、負傷者をなるべく出さずに”短期決戦”となった今シーズンを乗り切りたい。
「今年はまさに総力戦。開幕戦でメンバー外になった選手もいますが、彼らの力が必要になる時は絶対にあるし、多くの選手が複数のポジションをこなすことになる。全員がいつでも行けるように、準備をしてほしいです」
8月23日の第17節は、ヴェルスパ大分とのアウェーゲーム。前半にMF日高大のゴールで先制するも、その後立て続けに失点。いわきFCは1対4で敗れた。2016年にチームが現体制となってから、リーグ戦での敗戦は初めてのこと。やはり、JFLは甘くない。
だが、下を向いている場合ではない。
JFLのリーグ戦と並行して、9月からは天皇杯が組み込まれる。今年の天皇杯は12月の準々決勝までJクラブの参戦はなく、5回戦まではアマチュアシードのHonda FCとJクラブを含まぬ都道府県代表47チームで争われる。いわきFCは9月16日に1回戦を大山サッカークラブ(山形県代表)と戦い、これに勝てば23日に2回戦を、青森県代表と北海道代表の勝者と戦う。
仮に天皇杯2回戦を勝てれば、3回戦は10月28日。順当にいけば、相手はJFLのソニー仙台FC(宮城県代表)と予想される。2018年の天皇杯で敗れており、今年は10月18日のJFL第24節で直接対決するチームだけに、否が応にも盛り上がるはずだ。
9月~10月は週末のリーグ戦と並行して天皇杯を戦うため、タフなスケジュールとなる。負傷者を出さずにこの9~10月を乗り切れるかどうか。そこが、今シーズンを占う一つのポイントとなるだろう。
(終わり)