競技パフォーマンスUP

リスクを冒さぬ退屈な日本のサッカーを、圧倒的なパワーで変革する。いわきFCが巻き起こすフィジカル革命 ~その15 後編

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リスクを冒さぬ退屈な日本のサッカーを、圧倒的なパワーで変革する。いわきFCが巻き起こすフィジカル革命 ~その15 後編

リスクを冒さぬ退屈な日本のサッカーを、圧倒的なパワーで変革する。いわきFCが巻き起こすフィジカル革命 ~その15 後編

今季、初の全国リーグであるJFL(日本フットボールリーグ)にチャレンジした、いわきFC。2020年シ―ズンの結果は6勝6敗3分け、勝ち点21で7位。参戦1年目としては上々の成績を収めたものの、Jリーグへの昇格はかなわなかった。後編では、ストレングス強化の反省点について田村雄三監督、鈴木秀紀パフォーマンスコーチに話を聞く。

■諦めてもおかしくない状況から、勝ち点を積み重ねられた。

2020年のストレングストレーニングに関し、鈴木秀紀パフォーマンスコーチは「よかった点と悪かった点がそれぞれあった」と語る。

「新型コロナウィルス感染拡大により、JFLの開幕が延期。緊急事態宣言の発令により迎えた活動自粛期間には、選手達を少人数のグループ分けし、感染に注意ながら身体作りを行いました。シーズンイン当初の鍛錬期に加え、この期間を使ってあらためて鍛えることができたことは、結果としてよかったと思います。

ただしリーグ戦開幕後のストレングストレーニングには、課題も多くありました。まず全体のトレーニング頻度がオフ明けの水曜日の週1度のみ。東北社会人リーグ時代は年間を通じて週2日は取り組んでいましたから、かなり減ってしまったのは間違いない。トレーニングのボリュームは正直、十分ではありませんでした」

ただし、年間をリーグ戦が続く中、どのようにストレングストレーニングを続けつつ、試合でも結果を残すのか。

「それはいわきFCの永遠のテーマ。非常に難しいですね。選手達には常々『今日やっているトレーニングは残念ながら、今週末の試合にすぐ役立つものではない。でも半年後、1年後に確実に成果となって表れてくるから、コツコツと積み重ねてほしい』と言ってきました。

実際に多くのチームで、大会の前半は勢いがあるけれど、後半に疲れがたまり足が動かなくなるケースはよく見られます。でも、昨年のいわきFCで、そう感じたことはありませんでした。

むしろ昇格をかけ、後のない状態で臨んだ11月のHonda FC戦以降の5試合は、みんな非常によく走れていた。『もう無理じゃないか』と諦めてもおかしくない状況から勝ち点を積み重ね、最後までいい試合をして昇格を争えた。そこは評価に値することだと思います」

■田村の総括

チームが目指す、90分間全力で走り続け、止まらない、倒れない「魂の息吹くフットボール」が実現できたのか。その指標を得るため、いわきFCはGPSデバイスを活用し、選手の走行量やスプリント回数を計測している。

田村雄三監督は語る。

「毎試合スプリントと走行距離のチーム平均を取っているのですが、100%を超えたゲームはほぼ間違いなく勝っています。それは僕の主観とも一致していて『今日はいいゲームだし選手も躍動していた』と感じた試合はデータもよかった。実際にシーズン終盤の松江シティFC戦やMIOびわこ滋賀戦は、スプリントの距離も回数も、非常に素晴らしいデータが出ていました。

 例えば入団1年目でMFとFWの二つのポジションで頑張ってくれた山口大輝は、終盤戦ではほぼ毎試合12㎞近く走っていました。もともとセンスはあったけれど身体が細かった彼がフィジカルを強化し、セカンドボールを必死で拾い、身体を張った力強いプレーをするようになった。

そしてMF日高大。第28節のMIOびわこ滋賀戦、アディショナルタイム残り1分を切った状況で、足がつっていたにもかかわらず必死でスプリントして味方を追い越し、シュートまで持っていった。残念ながら入らなかったけれども、あれは本当にいわきFCらしいプレーだった。あの最後の時間帯に思い切り走れるのは、本当に素晴らしいことです」

0対3で敗れた最終節も含め、11月以降のシーズン終盤戦は非常にいい試合ができていたと、田村監督は評価する。

「ただし、毎試合必ずそのようなゲームをするのは難しいのも確か。なぜなら、試合は相手あってのものだからです。例えば、極端に引いてくるチームを相手に、90分間走り続けるのは困難。そういったチームもあるのは確かで、そこにJFLというリーグの難しさを感じます。

でも、その中で勝っていかなくてはいけない。しかも今年のシーズン、相手チームはさらに研究してくる。その中でより多くの勝ち点を積み上げるには、選手達をもっと鍛え上げ、相手の研究を上回る迫力と前に向かうパワーを示さねばなりません。そのためにはもっと細部にこだわり、やるべきことをもっときっちりやる。昨年の戦いで、そのことを思い知らされた気がしています」

■選手のためになるなら、妥協せずにやり切る。

また今年のストレングストレーニングに関し、田村監督はもっと徹底的に選手を鍛え上げたいと語る。

「シーズン終了後に10日間ほど、若手選手中心でストレングストレーニングをじっくり行ったのですが、ギリギリの重さを攻めさせたら、こちらが思っていた以上に挙げるわけです。選手自身も自分で自分の潜在能力に驚いていたぐらいでした。特にシーズン中、試合やサッカーの練習がきついからセーブしていたり、正しいフォームへの意識が欠けていたりと、能動的に取り組んでいなかった面があった。要はストレングストレーニングをやらされていた選手がいたわけです」

なぜそういう心境になるのか。ストレングストレーニングをしてからサッカーの練習をするときつくて動けない。だからトレーニングはセーブする。そのマインドセットで成長はない。

12月に高校サッカーの強豪・青森山田高とトレーニングマッチを行ったのですが、選手の身体がとても大きくて驚かされました。彼らは選手権を優勝するため、全国から集まっているメンバー。1日1日に懸ける思いは強いし、名門チームに所属しているというプライドもある。そこが、ウチとは明らかに違う。

また、昨年のJ3で無敗優勝したブラウブリッツ秋田さんのお話も聞かせていただきました。彼らは自前のトレーニング施設を持っていませんが、ホームゲームが終わった後のスタジアムを使ったり、夜に一般施設に集合してトレーニングしたりと、特に若い選手を徹底的に鍛え上げている。それを聞いて、強い刺激を受けました。

その点、ウチはまだまだダメだと思います。十分なトレーニング施設があるなど、環境は恵まれている。だから、もっともっとやれるはず。

確かに在籍年数が高かったりで、チームが求める骨格筋量をクリアできている選手に関しては、それほど問題ありません。でも大卒1年目や高卒のキャリアの浅い選手などは、まだまだ鍛え足りない。少しでも時間があればトレーニングさせる。それが選手のためになるなら、妥協せずにやり切る。そうやっていかないと、もったいないですよね」

サッカーの練習とスプリントトレーニング、ストレングストレーニングの時間配分や頻度を変えるなど、さまざまな試みを検討している。

「レベルに応じてグループ分けをしてストレングストレーニングを行う、ホームゲームに出なかったメンバーはいわきFCパークに戻ってトレーニングさせる、月に1回必ず測定をする、ノルマを課して前の月より必ず挙げるようにするなどして、変えていかなくてはなりません。試合に出るメンバーと出ないメンバーの兼ね合いなど、難しい面もありますが、より緻密なスケジュール管理を行っていきたいと思います。特に若手選手は、トレーニングに充てる時間を十分に取れるはずなので」

■「魂の息吹くフットボール」を、よりいっそう突き詰める。

1月31日に行われた、いわきFCの新体制発表会。大倉智いわきFCの運営元であるいわきスポーツクラブ社長は、世界レベルのアグレッシブなプレースタイルと身体を鍛えぬいたアスリートがピッチを躍動するエンタメ性、という二つの側面から「今年は選手達を徹底的に鍛えていく」と宣言した。

ご存じの通り、いわきFCが掲げる「魂の息吹くフットボール」とは、鍛え上げた身体とスキルを備えた選手達が90分間、足を止めることなく攻撃的にプレーする、というもの。

ヨーロッパを中心とする世界のサッカーは今や、サイズとパワーを兼ね備えた大型の選手達が身体をぶつけ合う、ハイテンポでアグレッシブなスポーツへと変貌を遂げた。

ラグビーやアメフトに負けない世界レベルのフィジカルを持つ選手達が90分間ノンストップで走り、キレのあるステップを踏み、アグレッシブに攻め続ける。それが世界のサッカーの潮流である。

そして試合がプロスポーツという「興行」である以上、入場料というお金を払ってくれる観客を喜ばせるのは当然のこと。いわきFCが追求するのは、身体を鍛え上げた真のアスリートが闘志をむき出しにして戦うエンターテインメント。選手達の鍛え上げた身体は、観客をワクワクさせる熱狂空間を創り出するための大切なベースであり、マーケティング面の重要な武器でもある。

昨年は、2016年のチーム創設以来初めて、上のカテゴリーに昇格できないシーズンとなった。チームが初めて直面した大きな壁を突き破り、さらに前へ。そのためにチームは「魂の息吹くフットボール」を、よりいっそう突き詰めていく。

いわきFCのフィジカル革命はさらにレベルを上げ、今年もまだまだ続く。

(終わり)

 

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今季、初の全国リーグであるJFL(日本フットボールリーグ)にチャレンジした、いわきFC。2020年シ―ズンの結果は6勝6敗3分け、勝ち点21で7位。参戦1年目としては上々の成績を収めたものの、Jリーグへの昇格はかなわなかった。後編では、ストレングス強化の反省点について田村雄三監督、鈴木秀紀パフォーマンスコーチに話を聞く。

■諦めてもおかしくない状況から、勝ち点を積み重ねられた。

2020年のストレングストレーニングに関し、鈴木秀紀パフォーマンスコーチは「よかった点と悪かった点がそれぞれあった」と語る。

「新型コロナウィルス感染拡大により、JFLの開幕が延期。緊急事態宣言の発令により迎えた活動自粛期間には、選手達を少人数のグループ分けし、感染に注意ながら身体作りを行いました。シーズンイン当初の鍛錬期に加え、この期間を使ってあらためて鍛えることができたことは、結果としてよかったと思います。

ただしリーグ戦開幕後のストレングストレーニングには、課題も多くありました。まず全体のトレーニング頻度がオフ明けの水曜日の週1度のみ。東北社会人リーグ時代は年間を通じて週2日は取り組んでいましたから、かなり減ってしまったのは間違いない。トレーニングのボリュームは正直、十分ではありませんでした」

ただし、年間をリーグ戦が続く中、どのようにストレングストレーニングを続けつつ、試合でも結果を残すのか。

「それはいわきFCの永遠のテーマ。非常に難しいですね。選手達には常々『今日やっているトレーニングは残念ながら、今週末の試合にすぐ役立つものではない。でも半年後、1年後に確実に成果となって表れてくるから、コツコツと積み重ねてほしい』と言ってきました。

実際に多くのチームで、大会の前半は勢いがあるけれど、後半に疲れがたまり足が動かなくなるケースはよく見られます。でも、昨年のいわきFCで、そう感じたことはありませんでした。

むしろ昇格をかけ、後のない状態で臨んだ11月のHonda FC戦以降の5試合は、みんな非常によく走れていた。『もう無理じゃないか』と諦めてもおかしくない状況から勝ち点を積み重ね、最後までいい試合をして昇格を争えた。そこは評価に値することだと思います」

■田村の総括

チームが目指す、90分間全力で走り続け、止まらない、倒れない「魂の息吹くフットボール」が実現できたのか。その指標を得るため、いわきFCはGPSデバイスを活用し、選手の走行量やスプリント回数を計測している。

田村雄三監督は語る。

「毎試合スプリントと走行距離のチーム平均を取っているのですが、100%を超えたゲームはほぼ間違いなく勝っています。それは僕の主観とも一致していて『今日はいいゲームだし選手も躍動していた』と感じた試合はデータもよかった。実際にシーズン終盤の松江シティFC戦やMIOびわこ滋賀戦は、スプリントの距離も回数も、非常に素晴らしいデータが出ていました。

 例えば入団1年目でMFとFWの二つのポジションで頑張ってくれた山口大輝は、終盤戦ではほぼ毎試合12㎞近く走っていました。もともとセンスはあったけれど身体が細かった彼がフィジカルを強化し、セカンドボールを必死で拾い、身体を張った力強いプレーをするようになった。

そしてMF日高大。第28節のMIOびわこ滋賀戦、アディショナルタイム残り1分を切った状況で、足がつっていたにもかかわらず必死でスプリントして味方を追い越し、シュートまで持っていった。残念ながら入らなかったけれども、あれは本当にいわきFCらしいプレーだった。あの最後の時間帯に思い切り走れるのは、本当に素晴らしいことです」

0対3で敗れた最終節も含め、11月以降のシーズン終盤戦は非常にいい試合ができていたと、田村監督は評価する。

「ただし、毎試合必ずそのようなゲームをするのは難しいのも確か。なぜなら、試合は相手あってのものだからです。例えば、極端に引いてくるチームを相手に、90分間走り続けるのは困難。そういったチームもあるのは確かで、そこにJFLというリーグの難しさを感じます。

でも、その中で勝っていかなくてはいけない。しかも今年のシーズン、相手チームはさらに研究してくる。その中でより多くの勝ち点を積み上げるには、選手達をもっと鍛え上げ、相手の研究を上回る迫力と前に向かうパワーを示さねばなりません。そのためにはもっと細部にこだわり、やるべきことをもっときっちりやる。昨年の戦いで、そのことを思い知らされた気がしています」

■選手のためになるなら、妥協せずにやり切る。

また今年のストレングストレーニングに関し、田村監督はもっと徹底的に選手を鍛え上げたいと語る。

「シーズン終了後に10日間ほど、若手選手中心でストレングストレーニングをじっくり行ったのですが、ギリギリの重さを攻めさせたら、こちらが思っていた以上に挙げるわけです。選手自身も自分で自分の潜在能力に驚いていたぐらいでした。特にシーズン中、試合やサッカーの練習がきついからセーブしていたり、正しいフォームへの意識が欠けていたりと、能動的に取り組んでいなかった面があった。要はストレングストレーニングをやらされていた選手がいたわけです」

なぜそういう心境になるのか。ストレングストレーニングをしてからサッカーの練習をするときつくて動けない。だからトレーニングはセーブする。そのマインドセットで成長はない。

12月に高校サッカーの強豪・青森山田高とトレーニングマッチを行ったのですが、選手の身体がとても大きくて驚かされました。彼らは選手権を優勝するため、全国から集まっているメンバー。1日1日に懸ける思いは強いし、名門チームに所属しているというプライドもある。そこが、ウチとは明らかに違う。

また、昨年のJ3で無敗優勝したブラウブリッツ秋田さんのお話も聞かせていただきました。彼らは自前のトレーニング施設を持っていませんが、ホームゲームが終わった後のスタジアムを使ったり、夜に一般施設に集合してトレーニングしたりと、特に若い選手を徹底的に鍛え上げている。それを聞いて、強い刺激を受けました。

その点、ウチはまだまだダメだと思います。十分なトレーニング施設があるなど、環境は恵まれている。だから、もっともっとやれるはず。

確かに在籍年数が高かったりで、チームが求める骨格筋量をクリアできている選手に関しては、それほど問題ありません。でも大卒1年目や高卒のキャリアの浅い選手などは、まだまだ鍛え足りない。少しでも時間があればトレーニングさせる。それが選手のためになるなら、妥協せずにやり切る。そうやっていかないと、もったいないですよね」

サッカーの練習とスプリントトレーニング、ストレングストレーニングの時間配分や頻度を変えるなど、さまざまな試みを検討している。

「レベルに応じてグループ分けをしてストレングストレーニングを行う、ホームゲームに出なかったメンバーはいわきFCパークに戻ってトレーニングさせる、月に1回必ず測定をする、ノルマを課して前の月より必ず挙げるようにするなどして、変えていかなくてはなりません。試合に出るメンバーと出ないメンバーの兼ね合いなど、難しい面もありますが、より緻密なスケジュール管理を行っていきたいと思います。特に若手選手は、トレーニングに充てる時間を十分に取れるはずなので」

■「魂の息吹くフットボール」を、よりいっそう突き詰める。

1月31日に行われた、いわきFCの新体制発表会。大倉智いわきFCの運営元であるいわきスポーツクラブ社長は、世界レベルのアグレッシブなプレースタイルと身体を鍛えぬいたアスリートがピッチを躍動するエンタメ性、という二つの側面から「今年は選手達を徹底的に鍛えていく」と宣言した。

ご存じの通り、いわきFCが掲げる「魂の息吹くフットボール」とは、鍛え上げた身体とスキルを備えた選手達が90分間、足を止めることなく攻撃的にプレーする、というもの。

ヨーロッパを中心とする世界のサッカーは今や、サイズとパワーを兼ね備えた大型の選手達が身体をぶつけ合う、ハイテンポでアグレッシブなスポーツへと変貌を遂げた。

ラグビーやアメフトに負けない世界レベルのフィジカルを持つ選手達が90分間ノンストップで走り、キレのあるステップを踏み、アグレッシブに攻め続ける。それが世界のサッカーの潮流である。

そして試合がプロスポーツという「興行」である以上、入場料というお金を払ってくれる観客を喜ばせるのは当然のこと。いわきFCが追求するのは、身体を鍛え上げた真のアスリートが闘志をむき出しにして戦うエンターテインメント。選手達の鍛え上げた身体は、観客をワクワクさせる熱狂空間を創り出するための大切なベースであり、マーケティング面の重要な武器でもある。

昨年は、2016年のチーム創設以来初めて、上のカテゴリーに昇格できないシーズンとなった。チームが初めて直面した大きな壁を突き破り、さらに前へ。そのためにチームは「魂の息吹くフットボール」を、よりいっそう突き詰めていく。

いわきFCのフィジカル革命はさらにレベルを上げ、今年もまだまだ続く。

(終わり)

 

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