体重・筋量UP
執行役員 SO(Scientific Officer)
栄養学博士 青柳清治
人気のHMB(β‐ヒドロキシ-βメチル酪酸)が、我が国で食品として使えるようになった経緯は、前回お話した通りです。きっかけは、疾病を持つ患者に使用する病態別栄養剤を日本国内に輸入することでした。
今回は、そんなHMBが臨床現場においてどのように活躍しているかについて、ご紹介しようと思います。
まず、HMBの効果が検証されている臨床分野はいくつかあります。悪液質*がともなうCOPD1(慢性閉塞性肺疾患)やHIV2(エイズ)、創傷治癒3,4、チューブ食で栄養管理されている寝たきりの入院患者5のケア、高齢者におけるサルコペニア6,7,8(骨格筋量の低下)などです。
これらの臨床試験はHMB単体のものと、HMBを主成分として非必須アミノ酸(アルギニン、グルタミン、リジンなど)を含む処方を用いたものが混在しています。そのため、必ずしもHMB単体での効果を示しているとはいえません。しかし、HMBのタンパク合成促進とタンパク分解抑制のメカニズム9が、上記の臨床分野において治療に寄与していることは間違いないでしょう。
ではこれらの臨床試験で、HMBのどのような効果が具体的に確認されたのでしょう。まずは、HMB単体で行われた試験結果から見ていきます。
Hsiehら1は、集中治療室で人工呼吸器を装着したCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の患者(18人)に対し、HMBを1日3g×7日間投与し、非投与群(16人)と比較しました。HMB投与群は確実に炎症が抑えられ、症状の軽減が見られました。
また、Hsiehら4は別の臨床試験で、介護施設で経管栄養(チューブ食)を受けている寝たきりの高齢者(39人)に、HMBを1日2g×14~28日間投与して、非投与群(40人)と比較しました。その結果、両群間に体重変化の差は見られませんでしたが、HMB投与群では体タンパクの異化(分解)が抑制されました。
次に、HMBを主成分として非必須アミノ酸を含む処方を用いた臨床試験の結果を見ていきましょう。
Clarkら2はHIVに感染して特に体重減少が顕著な患者(22人)に対し、HMB3g+アルギニン+グルタミンを毎日、8週間にわたって投与して、対照群(21人)と比較しました。HMB処方群では、筋肉量(除脂肪体重)が増加し(図1)、免疫細胞であるT細胞も増えました。
図1.Clark et al. 2より引用
70歳以上の高齢者における試験のデータはいくつかありますが6,7,8、HMB3g+アルギニン+リジンを毎日、8週間から1年間にわたって処方した場合、筋肉の増加、脂肪の減少、運動パフォーマンス向上、といった結果を得られました。これは、アスリートでも同様の結果が出ています。(https://www.dnszone.jp/magazine/2017/16222 参照)
HMBの疾患や加齢による筋タンパク減少を抑制する効果が確認されたことで、体内にある同じタンパク質であるコラーゲンの合成への影響が考えられました。
Williamsら3はテフロン(ポリテトラフルオロエチレン)チューブを被検者の三角筋に埋め込み、HMB3g+アルギニン+グルタミン処方を投与した群(18人)と対照群(17人)とで、14日後にコラーゲンを作り出す線維芽細胞が付着しているかどうかを調べました。
するとHMB処方群では、コラーゲン特有のアミノ酸であるヒドロキシプロリン(OHP)が有意に増加していました(図2)。これは、HMBがダメージを受けた皮膚の快復にも効果があることを示しています。
図2. Williamns et al.3より引用
臨床現場における皮膚のダメージには、例えば手術による傷口や、寝たきり患者の褥瘡(じょくそう=床ずれのこと)などがあります。
Wongら4は中・重度の褥瘡をもつ患者に対し、HMBを2週間投与した群(11人)と対照群(12人)を比較しました。するとHMB処方群では、皮膚の修繕を示す細胞(肉芽細胞と上皮細胞)の増殖が認められました。
このように、HMBには多くの臨床実績があります。
スポーツ栄養ではHMBの筋肉合成促進と分解抑制効果が注目されていますが、もしかすると、アスリートのマメや靴ずれといった皮膚のダメージからの快復促進効果も期待できるかもしれません。
*悪液質(Cachexia)とは基礎疾患に関連して生ずる複合的代謝異常の症候群で、脂肪量の減少の有無に関わらず筋肉量の減少を特徴とする10。
栄養学博士、(株)DNS 執行役員
米国オキシデンタル大学卒業後、㈱協和発酵バイオでアミノ酸研究に従事する中で、イリノイ大学で栄養学の博士号を取得。以降、外資企業で栄養剤ビジネス、商品開発の責任者を歴任した。日本へ帰国後2015年から、ウェアブランド「アンダーアーマー」の日本総代理店・㈱ドームのサプリメントブランド「DNS」にて責任者を務める。2020年より分社化した㈱DNSでサイエンティフィックオフィサーを務める。
執行役員 SO(Scientific Officer)
栄養学博士 青柳清治
人気のHMB(β‐ヒドロキシ-βメチル酪酸)が、我が国で食品として使えるようになった経緯は、前回お話した通りです。きっかけは、疾病を持つ患者に使用する病態別栄養剤を日本国内に輸入することでした。
今回は、そんなHMBが臨床現場においてどのように活躍しているかについて、ご紹介しようと思います。
まず、HMBの効果が検証されている臨床分野はいくつかあります。悪液質*がともなうCOPD1(慢性閉塞性肺疾患)やHIV2(エイズ)、創傷治癒3,4、チューブ食で栄養管理されている寝たきりの入院患者5のケア、高齢者におけるサルコペニア6,7,8(骨格筋量の低下)などです。
これらの臨床試験はHMB単体のものと、HMBを主成分として非必須アミノ酸(アルギニン、グルタミン、リジンなど)を含む処方を用いたものが混在しています。そのため、必ずしもHMB単体での効果を示しているとはいえません。しかし、HMBのタンパク合成促進とタンパク分解抑制のメカニズム9が、上記の臨床分野において治療に寄与していることは間違いないでしょう。
ではこれらの臨床試験で、HMBのどのような効果が具体的に確認されたのでしょう。まずは、HMB単体で行われた試験結果から見ていきます。
Hsiehら1は、集中治療室で人工呼吸器を装着したCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の患者(18人)に対し、HMBを1日3g×7日間投与し、非投与群(16人)と比較しました。HMB投与群は確実に炎症が抑えられ、症状の軽減が見られました。
また、Hsiehら4は別の臨床試験で、介護施設で経管栄養(チューブ食)を受けている寝たきりの高齢者(39人)に、HMBを1日2g×14~28日間投与して、非投与群(40人)と比較しました。その結果、両群間に体重変化の差は見られませんでしたが、HMB投与群では体タンパクの異化(分解)が抑制されました。
次に、HMBを主成分として非必須アミノ酸を含む処方を用いた臨床試験の結果を見ていきましょう。
Clarkら2はHIVに感染して特に体重減少が顕著な患者(22人)に対し、HMB3g+アルギニン+グルタミンを毎日、8週間にわたって投与して、対照群(21人)と比較しました。HMB処方群では、筋肉量(除脂肪体重)が増加し(図1)、免疫細胞であるT細胞も増えました。
図1.Clark et al. 2より引用
70歳以上の高齢者における試験のデータはいくつかありますが6,7,8、HMB3g+アルギニン+リジンを毎日、8週間から1年間にわたって処方した場合、筋肉の増加、脂肪の減少、運動パフォーマンス向上、といった結果を得られました。これは、アスリートでも同様の結果が出ています。(https://www.dnszone.jp/magazine/2017/16222 参照)
HMBの疾患や加齢による筋タンパク減少を抑制する効果が確認されたことで、体内にある同じタンパク質であるコラーゲンの合成への影響が考えられました。
Williamsら3はテフロン(ポリテトラフルオロエチレン)チューブを被検者の三角筋に埋め込み、HMB3g+アルギニン+グルタミン処方を投与した群(18人)と対照群(17人)とで、14日後にコラーゲンを作り出す線維芽細胞が付着しているかどうかを調べました。
するとHMB処方群では、コラーゲン特有のアミノ酸であるヒドロキシプロリン(OHP)が有意に増加していました(図2)。これは、HMBがダメージを受けた皮膚の快復にも効果があることを示しています。
図2. Williamns et al.3より引用
臨床現場における皮膚のダメージには、例えば手術による傷口や、寝たきり患者の褥瘡(じょくそう=床ずれのこと)などがあります。
Wongら4は中・重度の褥瘡をもつ患者に対し、HMBを2週間投与した群(11人)と対照群(12人)を比較しました。するとHMB処方群では、皮膚の修繕を示す細胞(肉芽細胞と上皮細胞)の増殖が認められました。
このように、HMBには多くの臨床実績があります。
スポーツ栄養ではHMBの筋肉合成促進と分解抑制効果が注目されていますが、もしかすると、アスリートのマメや靴ずれといった皮膚のダメージからの快復促進効果も期待できるかもしれません。
*悪液質(Cachexia)とは基礎疾患に関連して生ずる複合的代謝異常の症候群で、脂肪量の減少の有無に関わらず筋肉量の減少を特徴とする10。
栄養学博士、(株)DNS 執行役員
米国オキシデンタル大学卒業後、㈱協和発酵バイオでアミノ酸研究に従事する中で、イリノイ大学で栄養学の博士号を取得。以降、外資企業で栄養剤ビジネス、商品開発の責任者を歴任した。日本へ帰国後2015年から、ウェアブランド「アンダーアーマー」の日本総代理店・㈱ドームのサプリメントブランド「DNS」にて責任者を務める。2020年より分社化した㈱DNSでサイエンティフィックオフィサーを務める。