競技パフォーマンスUP

世界の壁を打ち破る 「日本型スーパーアスリート」を育てよ。

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世界の壁を打ち破る 「日本型スーパーアスリート」を育てよ。

世界の壁を打ち破る 「日本型スーパーアスリート」を育てよ。


世界の舞台で戦う日本のアスリート達。彼らの成否を分けるものは何なのか。世界トップの舞台で戦い続ける日本人は、何が違うのか。日本人ならではの特徴と課題は何なのだろう。

日本人初のMLBヘッドストレングスコーチとしてフロリダ・マーリンズ、モントリオール・エクスポズ、ワシントン・ナショナルズで10年間実績を重ねてきた、ドームアスリートハウスGM・友岡和彦に話を聞いた。



「僕がアメリカで見てきた、世界レベルで成功する選手が共通して持っている能力。それはまず継続性ですね。他人が何と言おうと、自分がいいと思ったことを信じ、続けることができる。

トップアスリートには必ず、毎日続けているルーティーンがある。例えばニューヨーク・ヤンキースやワシントン・ナショナルズで活躍したアルフォンソ・ソリアーノ。彼は例え朝2時に試合が終わっても、毎日毎日、トレーニングを欠かしませんでした。メニューはレッグプレスやレッグエクステンション、レッグカールなど、決して真新しいものではありません。彼のようなスターにしては、拍子抜けするほどベーシックなトレーニングです。でもそれを、どんなに疲れていようと毎日やる。

ダルビッシュ有選手もそう。細かいサプリメントの摂取なども、やると決めたら必ずやる。トレーニングも自分の中でテーマを決め、やろうと思ったことをずっと続けることができる。

逆に結果を出せない人は、人からいろいろ指摘されたらそれを素直に聞き入れ、自分のルーティーンを簡単に変えてしまうんですね。一時的に結果が出なかったからといって、すぐに違うトレーニングをやってみたりと、一貫性がない」

だが結果が出なかった時には、変える勇気も必要ではないのか…?

「おそらく、どんなスター選手もルーキー時代は試行錯誤していたはず。彼らはそこで考え、自分に合うものを見つけ出し、今の形に行き着いたのでしょう。世界で活躍する選手は、例え新たなトレーニング法を誰かに勧められても、時間をかけて判断し、本当に自分がいいと思うものだけを取り入れる。でも、中途半端な人はすぐに今までのルーティーンを捨てて、他の人がいいと言うものに飛びついてしまう。要は自分がないんです。世界で戦える選手は、自分がいいと思ったら、人が何と言おうと自分を貫くことができる心の強さがある。裏を返せば、スター選手ほどふてぶてしいし、クセがあることが多いです。

世界トップの選手のスキル差など、ほんの少し。何が違うかというと、考え方です。まず頭がいいのは、成功の前提条件。そして、気が強いこと。スーパーボウルやワールドシリーズ、オリンピック…世界の頂点を目指し、極限までプレッシャーのかかった状況。そこで結果を残すには、ふてぶてしさが必要です」


■日本人ならではの特徴は芯の強さと繊細さ。ただし…。


だが日本には、そういったふてぶてしさを持った選手は少ない。

「これは教育もあるでしょうね。この国では、出る杭は打たれてしまいますから。

でも欧米では、普段はふてぶてしいけれど、ストレスがかかった困難な状況になると弱音が出る選手も多いんです。その点、日本人は普段大人しいけれど、芯が強い。

例えば、総合格闘技の岡見勇信選手なんてそうですよね。普段は車の運転すら怖いと語る穏やかな性格。でも試合では、パワーと技術、そして強い気持ちを前面に出し、相手を殴り、抑え込んで圧倒する。こういった芯の強さは、日本人特有かもしれません。

そして何より、日本人選手の一番の魅力は繊細さ。特に『感じ取る力』の高さは、世界一だと思います。例えばダルビッシュ有投手は指先の細かい感覚をとても大事にして、あれだけ多彩な変化球を投げ分ける。そして、自分の理想的なフォームに対する独特の感覚とチェックポイントを持ち、それを自分なりの理論へと落とし込んでいます」

ただし、そういった日本人ならではの繊細さだけでは、世界で戦えないのも確か。ダルビッシュ有投手もフィジカルトレーニングを熱心に行っているし、特にコンタクトスポーツでは、繊細さを発揮するにはフィジカルで互角に戦えることが前提だ。例えばサッカーでもラグビーでも、日本のチームは味方だけでボールを回す限り、世界トップレベル。だが実戦でフィジカルコンタクトが伴う時、その繊細なボール扱いを同じように再現できるかというと、難しい。日本人特有の繊細さを生かすためにも、10代からフィジカルの強化に取り組む必要がある。

「日本人の魅力である繊細さを持った、日本型のスーパーアスリートを育てる。そのために大切なのは、10代からの正しいフィジカルトレーニングと適切な栄養摂取により、強い身体を作ることです。

栄養に対する意識も変えねばなりません。いい食材を選んでしっかり食べ、パフォーマンスアップのためにプロテインなどサプリメントをしっかり摂ること。昔から言われていることですが、ジュニア時代に大事なのは『よく寝て、よく食べて、よく遊ぶ』こと。その基本をしっかりやるべきです。でも正直、今の日本の指導者そして親には、トレーニングや栄養摂取の正しい知識がまだまだ欠けていると言わざるを得ません」


■小手先の技術に走りがちな日本人アスリート。


もう一つの大きな問題が、日本人アスリートのプライムタイムが18歳近辺であることだ。日本のアスリートは、ジュニア世代ならば世界で勝てる。だが20代以降になると、海外の国に逆転されてしまう。それはなぜなのか。

「日本の指導者は、小手先のコーチングに走りがち。目先の試合に勝つための戦術を教えてばかりいる。要は”小さなプロ選手”を育成しているのです。日本では小学校、中学、高校と、それぞれの選手権で結果を求められているので、勝つためのプレーをとにかく練習する。だから小手先の技術はすごく上手い。でも身体作りを軽視しているから、20代以降、頭打ちになってしまう。

日本と海外の選手は、18歳ぐらいまでフィジカルの違いはそれほどない。でも海外の選手は、そこから身体が大きくなっていく。だから日本の選手は、成長期はもっとトレーニングをするなり、ポテンシャルを上げることを考えていかないと、世界では勝てない。例えばアメリカのように、いろいろなスポーツをして神経に刺激を与え、プレーの幅を広げる努力も必要だと思います」

例えば20歳過ぎで身体能力を最高の状態に持っていくためには、それまでの年代でどんなトレーニングをするかを考えることが大事だ。ジュニア世代の試合はあくまで通過点であり、無理をして勝ちに行くものではない。そう割り切り、長期的な視野で選手育成を行う必要がある。

大事なのは、年代に応じて多角的なアプローチを行うこと。小学生ならば木登りやダンス系のコーディネーショントレーニングをさせ、いろいろな動きを神経にインプットさせることだ。中学生では心肺機能を強化。そして高校生からは、本格的な筋力トレーニングとサプリメント摂取を開始したい。もし可能ならば、部活で取り組んでいる以外のスポーツにも挑戦し、全身を偏りなく鍛えることだ。

「ジャック・ニクラウスもタイガー・ウッズも『子供のころに大事なのは、ボールを遠くに飛ばすこと』と言っています。技術とは、ある程度年齢を経ても教えられるもの。でも、例えばボールを遠くに飛ばす方法は、なかなか教えられることではない。

ドミニカの野球選手もそうです。今やメジャーリーガーの8人に1人はドミニカ人プレイヤーですが、彼らも子供のころは、ペットボトルのキャップを打ったり、さまざまな長さのバットを使ってみたり、誰が一番ボールを遠くまで飛ばせるかを競ったりしながら、野球を楽しんでいる。彼らは中学でも高校でも、細かな技術のコーチングを受けることはありませんが、結局、それが後につながる。技術を学ぶのは、最後でいいんです」

日本人特有の感じ取る力を大切にしながら、ジュニアではシンプルに、速く走る、高く飛ぶ、ボールを遠くに飛ばすといった部分を追求する。そして成長期に身体を作り、徐々に技術をインストールする。それが日本型スーパーアスリートを生み出す方法なのだろう。一人でも多くの日本人アスリートが世界の壁を打ち破るために、われわれはこれからも啓蒙を続けていく。




Text:
前田成彦
DESIRE TO EVOLUTION編集長(株式会社ドーム コンテンツ企画部所属)。学生~社会人にてアメリカンフットボールを経験。趣味であるブラジリアン柔術の競技力向上、そして学生時代のベンチプレスMAX超えを目標に奮闘するも、誘惑に負け続ける日々を送る。お気に入りのマッスルメイトはホエイSP。

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世界の舞台で戦う日本のアスリート達。彼らの成否を分けるものは何なのか。世界トップの舞台で戦い続ける日本人は、何が違うのか。日本人ならではの特徴と課題は何なのだろう。

日本人初のMLBヘッドストレングスコーチとしてフロリダ・マーリンズ、モントリオール・エクスポズ、ワシントン・ナショナルズで10年間実績を重ねてきた、ドームアスリートハウスGM・友岡和彦に話を聞いた。



「僕がアメリカで見てきた、世界レベルで成功する選手が共通して持っている能力。それはまず継続性ですね。他人が何と言おうと、自分がいいと思ったことを信じ、続けることができる。

トップアスリートには必ず、毎日続けているルーティーンがある。例えばニューヨーク・ヤンキースやワシントン・ナショナルズで活躍したアルフォンソ・ソリアーノ。彼は例え朝2時に試合が終わっても、毎日毎日、トレーニングを欠かしませんでした。メニューはレッグプレスやレッグエクステンション、レッグカールなど、決して真新しいものではありません。彼のようなスターにしては、拍子抜けするほどベーシックなトレーニングです。でもそれを、どんなに疲れていようと毎日やる。

ダルビッシュ有選手もそう。細かいサプリメントの摂取なども、やると決めたら必ずやる。トレーニングも自分の中でテーマを決め、やろうと思ったことをずっと続けることができる。

逆に結果を出せない人は、人からいろいろ指摘されたらそれを素直に聞き入れ、自分のルーティーンを簡単に変えてしまうんですね。一時的に結果が出なかったからといって、すぐに違うトレーニングをやってみたりと、一貫性がない」

だが結果が出なかった時には、変える勇気も必要ではないのか…?

「おそらく、どんなスター選手もルーキー時代は試行錯誤していたはず。彼らはそこで考え、自分に合うものを見つけ出し、今の形に行き着いたのでしょう。世界で活躍する選手は、例え新たなトレーニング法を誰かに勧められても、時間をかけて判断し、本当に自分がいいと思うものだけを取り入れる。でも、中途半端な人はすぐに今までのルーティーンを捨てて、他の人がいいと言うものに飛びついてしまう。要は自分がないんです。世界で戦える選手は、自分がいいと思ったら、人が何と言おうと自分を貫くことができる心の強さがある。裏を返せば、スター選手ほどふてぶてしいし、クセがあることが多いです。

世界トップの選手のスキル差など、ほんの少し。何が違うかというと、考え方です。まず頭がいいのは、成功の前提条件。そして、気が強いこと。スーパーボウルやワールドシリーズ、オリンピック…世界の頂点を目指し、極限までプレッシャーのかかった状況。そこで結果を残すには、ふてぶてしさが必要です」


■日本人ならではの特徴は芯の強さと繊細さ。ただし…。


だが日本には、そういったふてぶてしさを持った選手は少ない。

「これは教育もあるでしょうね。この国では、出る杭は打たれてしまいますから。

でも欧米では、普段はふてぶてしいけれど、ストレスがかかった困難な状況になると弱音が出る選手も多いんです。その点、日本人は普段大人しいけれど、芯が強い。

例えば、総合格闘技の岡見勇信選手なんてそうですよね。普段は車の運転すら怖いと語る穏やかな性格。でも試合では、パワーと技術、そして強い気持ちを前面に出し、相手を殴り、抑え込んで圧倒する。こういった芯の強さは、日本人特有かもしれません。

そして何より、日本人選手の一番の魅力は繊細さ。特に『感じ取る力』の高さは、世界一だと思います。例えばダルビッシュ有投手は指先の細かい感覚をとても大事にして、あれだけ多彩な変化球を投げ分ける。そして、自分の理想的なフォームに対する独特の感覚とチェックポイントを持ち、それを自分なりの理論へと落とし込んでいます」

ただし、そういった日本人ならではの繊細さだけでは、世界で戦えないのも確か。ダルビッシュ有投手もフィジカルトレーニングを熱心に行っているし、特にコンタクトスポーツでは、繊細さを発揮するにはフィジカルで互角に戦えることが前提だ。例えばサッカーでもラグビーでも、日本のチームは味方だけでボールを回す限り、世界トップレベル。だが実戦でフィジカルコンタクトが伴う時、その繊細なボール扱いを同じように再現できるかというと、難しい。日本人特有の繊細さを生かすためにも、10代からフィジカルの強化に取り組む必要がある。

「日本人の魅力である繊細さを持った、日本型のスーパーアスリートを育てる。そのために大切なのは、10代からの正しいフィジカルトレーニングと適切な栄養摂取により、強い身体を作ることです。

栄養に対する意識も変えねばなりません。いい食材を選んでしっかり食べ、パフォーマンスアップのためにプロテインなどサプリメントをしっかり摂ること。昔から言われていることですが、ジュニア時代に大事なのは『よく寝て、よく食べて、よく遊ぶ』こと。その基本をしっかりやるべきです。でも正直、今の日本の指導者そして親には、トレーニングや栄養摂取の正しい知識がまだまだ欠けていると言わざるを得ません」


■小手先の技術に走りがちな日本人アスリート。


もう一つの大きな問題が、日本人アスリートのプライムタイムが18歳近辺であることだ。日本のアスリートは、ジュニア世代ならば世界で勝てる。だが20代以降になると、海外の国に逆転されてしまう。それはなぜなのか。

「日本の指導者は、小手先のコーチングに走りがち。目先の試合に勝つための戦術を教えてばかりいる。要は”小さなプロ選手”を育成しているのです。日本では小学校、中学、高校と、それぞれの選手権で結果を求められているので、勝つためのプレーをとにかく練習する。だから小手先の技術はすごく上手い。でも身体作りを軽視しているから、20代以降、頭打ちになってしまう。

日本と海外の選手は、18歳ぐらいまでフィジカルの違いはそれほどない。でも海外の選手は、そこから身体が大きくなっていく。だから日本の選手は、成長期はもっとトレーニングをするなり、ポテンシャルを上げることを考えていかないと、世界では勝てない。例えばアメリカのように、いろいろなスポーツをして神経に刺激を与え、プレーの幅を広げる努力も必要だと思います」

例えば20歳過ぎで身体能力を最高の状態に持っていくためには、それまでの年代でどんなトレーニングをするかを考えることが大事だ。ジュニア世代の試合はあくまで通過点であり、無理をして勝ちに行くものではない。そう割り切り、長期的な視野で選手育成を行う必要がある。

大事なのは、年代に応じて多角的なアプローチを行うこと。小学生ならば木登りやダンス系のコーディネーショントレーニングをさせ、いろいろな動きを神経にインプットさせることだ。中学生では心肺機能を強化。そして高校生からは、本格的な筋力トレーニングとサプリメント摂取を開始したい。もし可能ならば、部活で取り組んでいる以外のスポーツにも挑戦し、全身を偏りなく鍛えることだ。

「ジャック・ニクラウスもタイガー・ウッズも『子供のころに大事なのは、ボールを遠くに飛ばすこと』と言っています。技術とは、ある程度年齢を経ても教えられるもの。でも、例えばボールを遠くに飛ばす方法は、なかなか教えられることではない。

ドミニカの野球選手もそうです。今やメジャーリーガーの8人に1人はドミニカ人プレイヤーですが、彼らも子供のころは、ペットボトルのキャップを打ったり、さまざまな長さのバットを使ってみたり、誰が一番ボールを遠くまで飛ばせるかを競ったりしながら、野球を楽しんでいる。彼らは中学でも高校でも、細かな技術のコーチングを受けることはありませんが、結局、それが後につながる。技術を学ぶのは、最後でいいんです」

日本人特有の感じ取る力を大切にしながら、ジュニアではシンプルに、速く走る、高く飛ぶ、ボールを遠くに飛ばすといった部分を追求する。そして成長期に身体を作り、徐々に技術をインストールする。それが日本型スーパーアスリートを生み出す方法なのだろう。一人でも多くの日本人アスリートが世界の壁を打ち破るために、われわれはこれからも啓蒙を続けていく。