健康・体力・美容UP

Part 57「アイソメトリクスの復権」

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Part 57「アイソメトリクスの復権」

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目  的: 筋力増加、筋肥大
メリット: 新鮮な刺激、最大筋力の発揮、ケガをしにくい

ドイツにある「マックス・プランク研究所」といえば巨大かつ優秀な学術研究機関として古くから有名であるが、そこが1950年代に発見した業績の一つとして、「アイソメトリクス」が挙げられる。
アイソメトリクスとは「等尺性筋収縮」とも呼ばれ、筋肉が同じ長さ、関節が同じ角度のままで力を発揮する形態のことだ。「空気イス」をイメージしてもらえばわかりやすいだろう。他にも例えば腹をへこませてキープする「ドローイン」もアイソメトリクスだし、トップポジションでキープするだけの「ゼロレンジ・トレーニング」なども実はアイソメトリクスの一種である。


■アイソメトリクスでなぜ発達するのか

ウォリアーの身体には、いざというときの「予備力」が備わっている。思い切って力を出しているつもりでも、実際には50~60%程度の力しか出すことができていない。しかし「火事場の馬鹿力」といわれるような状態になると、100%近くの力が発揮できるようになる。

筋繊維が力を発揮するときは、「悉無律(しつむりつ)」 の原理によって働く。言い換えると、「筋繊維は力を出すか出さないか、どちらか一方だけ」ということだ。この時、筋繊維が力を出せる時間は5秒弱である。
具体的に説明しよう。1本の筋繊維が最大で5kgの力を出すことができるとする。そして筋繊維が全部で10本あるとする。このときに10kgのバーベルを持ったらどうなるのか。
まず2本が収縮し、ギリギリ10kgの力を出してバーベルを支える。そして5秒ほど経つと、別の2本が収縮してバーベルを支える。この繰り返しが起こって収縮が持続し、バーベルを持ち続けられるわけだ。10本すべての筋繊維がいっせいに1kgずつの力を出して、10kgの力を発揮するわけではない。

さて、通常は精いっぱい力を発揮した場合でも、50%程度である。10本の筋繊維があったとしても、10本すべてを同時に働かせることはできないのだ。最大限に力を出したつもりでも、最初に働くのはせいぜい5~6本となる。
そして5秒すると、残りの筋繊維が働き始める。しかしこの場合、全部で10本しか筋繊維がないので、交代要員が足りなくなってしまう。
交代要員が足りない状態で力を振り絞っている、つまり5秒より長く力を振り絞っている時、ウォリアーのカラダは「筋繊維の本数を増やさねばならない」と考えるわけだ。この原理を利用した筋肉増強方法が、「アイソメトリクス」である。一定の角度に固定して全力の力を出し、6秒以上継続するのだ。これだけで発達のための刺激を与えることができるのである。
普通のトレーニングだとバーベルやダンベルが動く。しかし動くということは、ウェイトは全力以下の力で上がる重さだということだ。つまり普通のトレーニングではそれぞれの関節角度において、全力の力は出せていないということにもなる。


■アイソメトリクスのデメリットとその対策

非常に効率的かつ有効なアイソメトリクスだが、残念なことに大きなデメリットがある。それはアイソメトリクスを行った関節角度周辺度だけで効果があり、それ以外の角度では効果が見られないということだ。(※1)
そのため、様々な関節角度でトレーニングする必要がある。3~5種類の角度でアイソメトリクスを行うことで、普通の方法でトレーニングした場合に劣らぬ効果を出すことができるのだ。(※2、※3、※4、※5)


例えばバーベルカールをアイソメトリクスで行う場合、パワーラックのセーフティバーを利用してバーがある角度より上に動かないようにする。そしてセーフティバーの高さを少しずつ変えていき、さまざまな角度で刺激できるようにすればいいのだ。


■アイソメトリクスのメリットとは

多くのエクササイズにおいて、ある筋肉だけに集中的に効かせることは難しい。どうしても補助筋が働いてしまうことと、重力の関係で可動域のすべてにおいては負荷がかかりにくいということが原因として挙げられる。
単関節運動なら補助筋は働かないかというと、そうでもない。例えばサイドレイズの場合、僧帽筋が働くために三角筋中部への刺激が弱くなるし、また動作の最後では負荷が強くかかるものの、スタートポジションでは重力の方向の関係で負荷がほとんどかからない。
しかしアイソメトリクスの場合、動きが少ないこともあって、当該筋肉だけに集中することができる。ベンチプレスやプルダウンのような多関節運動でも、関節を固定して当該筋肉を意識するようにすれば、かなり局所的に刺激を与えることができるだろう。

Mr.D


 

Mr.D
栄養・サプリメント・トレーニングについて、聞けば全てに答えを持っているウォリアー界の生き字引的存在。数々の有名選手のパフォーマンスアップの裏にもMr.Dの存在が…。

【参考文献】

  • 1 :Increase of muscle strength from isometric quadriceps exercises at different knee angles. Scand J Rehabil Med. 1979;11(1):33-6.
  • 2 :Myoelectrical and mechanical changes linked to length specificity during isometric training. J Appl Physiol (1985). 1988 Apr;64(4):1500-5.
  • 3 :Effects of unilateral isometric strength training on joint angle specificity and cross-training. Eur J Appl Physiol Occup Physiol. 1995;70(4):337-43.
  • 4 :Human muscle strength training: the effects of three different regimens and the nature of the resultant changes. J Physiol. 1987 Oct;391:1-11.
  • 5 :Changes in torque and electromyographic activity of the quadriceps femoris muscles following isometric training. Phys Ther. 1993 Jul;73(7):455-65; discussion 465-7.
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◆目的
筋力増加、筋肥大

◆メリット
新鮮な刺激、最大筋力の発揮、ケガをしにくい

ドイツにある「マックス・プランク研究所」といえば巨大かつ優秀な学術研究機関として古くから有名であるが、そこが1950年代に発見した業績の一つとして、「アイソメトリクス」が挙げられる。
アイソメトリクスとは「等尺性筋収縮」とも呼ばれ、筋肉が同じ長さ、関節が同じ角度のままで力を発揮する形態のことだ。「空気イス」をイメージしてもらえばわかりやすいだろう。他にも例えば腹をへこませてキープする「ドローイン」もアイソメトリクスだし、トップポジションでキープするだけの「ゼロレンジ・トレーニング」なども実はアイソメトリクスの一種である。


■アイソメトリクスでなぜ発達するのか

ウォリアーの身体には、いざというときの「予備力」が備わっている。思い切って力を出しているつもりでも、実際には50~60%程度の力しか出すことができていない。しかし「火事場の馬鹿力」といわれるような状態になると、100%近くの力が発揮できるようになる。

筋繊維が力を発揮するときは、「悉無律(しつむりつ)」 の原理によって働く。言い換えると、「筋繊維は力を出すか出さないか、どちらか一方だけ」ということだ。この時、筋繊維が力を出せる時間は5秒弱である。
具体的に説明しよう。1本の筋繊維が最大で5kgの力を出すことができるとする。そして筋繊維が全部で10本あるとする。このときに10kgのバーベルを持ったらどうなるのか。
まず2本が収縮し、ギリギリ10kgの力を出してバーベルを支える。そして5秒ほど経つと、別の2本が収縮してバーベルを支える。この繰り返しが起こって収縮が持続し、バーベルを持ち続けられるわけだ。10本すべての筋繊維がいっせいに1kgずつの力を出して、10kgの力を発揮するわけではない。

さて、通常は精いっぱい力を発揮した場合でも、50%程度である。10本の筋繊維があったとしても、10本すべてを同時に働かせることはできないのだ。最大限に力を出したつもりでも、最初に働くのはせいぜい5~6本となる。
そして5秒すると、残りの筋繊維が働き始める。しかしこの場合、全部で10本しか筋繊維がないので、交代要員が足りなくなってしまう。
交代要員が足りない状態で力を振り絞っている、つまり5秒より長く力を振り絞っている時、ウォリアーのカラダは「筋繊維の本数を増やさねばならない」と考えるわけだ。この原理を利用した筋肉増強方法が、「アイソメトリクス」である。一定の角度に固定して全力の力を出し、6秒以上継続するのだ。これだけで発達のための刺激を与えることができるのである。
普通のトレーニングだとバーベルやダンベルが動く。しかし動くということは、ウェイトは全力以下の力で上がる重さだということだ。つまり普通のトレーニングではそれぞれの関節角度において、全力の力は出せていないということにもなる。


■アイソメトリクスのデメリットとその対策

非常に効率的かつ有効なアイソメトリクスだが、残念なことに大きなデメリットがある。それはアイソメトリクスを行った関節角度周辺度だけで効果があり、それ以外の角度では効果が見られないということだ。(※1)
そのため、様々な関節角度でトレーニングする必要がある。3~5種類の角度でアイソメトリクスを行うことで、普通の方法でトレーニングした場合に劣らぬ効果を出すことができるのだ。(※2、※3、※4、※5)


例えばバーベルカールをアイソメトリクスで行う場合、パワーラックのセーフティバーを利用してバーがある角度より上に動かないようにする。そしてセーフティバーの高さを少しずつ変えていき、さまざまな角度で刺激できるようにすればいいのだ。


■アイソメトリクスのメリットとは

多くのエクササイズにおいて、ある筋肉だけに集中的に効かせることは難しい。どうしても補助筋が働いてしまうことと、重力の関係で可動域のすべてにおいては負荷がかかりにくいということが原因として挙げられる。
単関節運動なら補助筋は働かないかというと、そうでもない。例えばサイドレイズの場合、僧帽筋が働くために三角筋中部への刺激が弱くなるし、また動作の最後では負荷が強くかかるものの、スタートポジションでは重力の方向の関係で負荷がほとんどかからない。
しかしアイソメトリクスの場合、動きが少ないこともあって、当該筋肉だけに集中することができる。ベンチプレスやプルダウンのような多関節運動でも、関節を固定して当該筋肉を意識するようにすれば、かなり局所的に刺激を与えることができるだろう。

Mr.D


 

Mr.D
栄養・サプリメント・トレーニングについて、聞けば全てに答えを持っているウォリアー界の生き字引的存在。数々の有名選手のパフォーマンスアップの裏にもMr.Dの存在が…。

【参考文献】

  • 1 :Increase of muscle strength from isometric quadriceps exercises at different knee angles. Scand J Rehabil Med. 1979;11(1):33-6.
  • 2 :Myoelectrical and mechanical changes linked to length specificity during isometric training. J Appl Physiol (1985). 1988 Apr;64(4):1500-5.
  • 3 :Effects of unilateral isometric strength training on joint angle specificity and cross-training. Eur J Appl Physiol Occup Physiol. 1995;70(4):337-43.
  • 4 :Human muscle strength training: the effects of three different regimens and the nature of the resultant changes. J Physiol. 1987 Oct;391:1-11.
  • 5 :Changes in torque and electromyographic activity of the quadriceps femoris muscles following isometric training. Phys Ther. 1993 Jul;73(7):455-65; discussion 465-7.