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速報「第16回 国際スポーツ栄養学会(ISSN)」に参加して

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今回はホットなトピックをお届けします。

■第16回 国際スポーツ栄養学会(ISSN : International Society of Sports Nutrition)

6月13日~15日、ネバダ州ラスベガスで開催された「第16回 国際スポーツ栄養学会(ISSN : International Society of Sports Nutrition)」に参加してきました。昨年に続き、2度目の参加となります。

この1年間でISSNのポジションペーパーを3報(Protein and Exercise、Nutrient Timing、2018年Research & Recommendations)完全和訳しており、学会長のDr. Jose Antonioを始め学会参加者にも顔見知りが増えたので、より親密感を感じることができました。

今回最も勉強になったのは、『Creatine Supplementation from Basic Science to Bro-Science and Beyond (Dr. Eric Rawson, Messiah College)』と題した初日の基調講演で、スポーツサプリメントでプロテインの次に多く使われるクレアチンに関するレビューでした。

クレアチンのサイエンスにおける歴史は古く、1832年にフランスで最初の文献報告が出されています。人への投与は1926年に最初の報告があり、それはクレアチンの作用に関わるATP(アデノシン三リン酸)やクレアチンキナーゼなどが発見されるよりも前のことでした。

アスリートにおけるクレアチンの効果に関しては、皆さんもすでにご存じかと思います。クレアチンとは、筋中のADP(アデノシン二リン酸)を、身体を動かすエネルギー源であるATPに再生する際に重要な役割を担う物質で「あと1回」「あと0.1秒」「あと1cm」の追い込みを可能にしてくれます。

もともと筋中にある程度の量が存在していますが、サプリメントとして摂取することによって筋中の濃度が上がるので、パフォーマンスを大きく向上させるエルゴジェニックエイドとして役立ってくれます。

■クレアチン摂取が脳震盪による脳のダメージを軽減する可能性

中でも大変興味深かったのは「経口摂取したクレアチンは筋肉だけではなく脳にも蓄積され、脳震盪による脳へのダメージを軽減する」というエビデンスが確立されようとしていることでした。脳震盪の動物実験モデルにおいては、脳損傷が36~50%軽減され、ミトコンドリア機能やATP量の維持、酸化防の止などがすでにはっきりしています。ヒトにおいても臨床的な治療効果のデータがすでにあり、外傷性脳損傷の子供に0.4g/kgを6カ月事後投与したところ、記憶喪失、認知障害、頭痛、言語障害などを緩和したそうです

これらから考えると、脳内のクレアチン濃度をあらかじめ増しておくことで、脳震盪になった時のダメージを予防的に軽減できるかもしれません。筋及び脳内のクレアチン濃度は身体を傷つけることなく測定することができます。クレアチンを投与することで、筋肉では20%、脳では5%、クレアチン濃度が増すとされています。

脳震盪における実際の効果を検証するのは、かなり大がかりな試験になってしまいますが、パフォーマンスアップのためにエルゴジェニックエイドであるとともに、脳震盪のダメージを軽減する可能性が考えられるので、特にコンタクトスポーツをやっているアスリートは充分量(5g/日を30日、もしくはローディングとして20g/日を5日間)を日々摂取するのがいいと思われます。

■CBD製品のスポーツにおけるエビデンスはない

次に、Cannabinoids and Sports Nutrition – Is Product Marketing ahead of the Science? (Dr. Douglas Kalman, Nutrasource)というポスターセッションで、気になった1報を紹介します。近年、アメリカの多くの州で合法となりつつあるマリファナの成分、CBD(カンナビジオール)に関する、文献レベルでの調査報告です。

アメリカではCBDオイルなどが、睡眠やストレス軽減などの効果を持つとされて売られていますが、精神作用のあるTHC(テトラヒドロカンナビジオール)が0.3%まで入っていてもいい、という驚くべき法律があります(日本では、THCが極微量でも入っていると麻薬取締法違反で逮捕されてしまいます)。

そして著者らが「CBD Sports Nutrition」というワードで検索エンジンをサーチしたところ、15,400,000のヒットがあったにも関わらず、臨床試験結果は一報もなかったと報告されています。ポスター発表の結論として「CBD製品のスポーツにおけるエビデンスはまったくない、逆にマリファナはすべての州で合法になっているわけではないので、ISSN的にはその利用は危険である」という判断です。国内にもCBD製品を販売し始めている会社がチラホラとあるようですが、逮捕者が出るのは時間の問題かと思います。

帰り際にDr. Antonioから「来年は東京でオリンピックがあるから、ISSN Tokyoをやりたい」と言われました。日本のスポーツ栄養界は、言葉の壁もあって海外の情報がそれほど入ってきませんので、必ずやいい機会になるでしょう。積極的にISSN Tokyo実現に向けて動いていきたいと思います。



青柳 清治

青柳 清治 │ Seiji_Aoyagi

栄養学博士、(株)DNS 執行役員 
米国オキシデンタル大学卒業後、㈱協和発酵バイオでアミノ酸研究に従事する中で、イリノイ大学で栄養学の博士号を取得。以降、外資企業で栄養剤ビジネス、商品開発の責任者を歴任した。日本へ帰国後2015年から、ウェアブランド「アンダーアーマー」の日本総代理店・㈱ドームのサプリメントブランド「DNS」にて責任者を務める。2020年より分社化した㈱DNSでサイエンティフィックオフィサーを務める。

【参考文献】

  • 1: Dean PJA et al. Potential for use of creatine supplementation following mild traumatic brain injury. Concussion (2017) 2(2), CNC34.
  • 2: Sakellaris G et al. Prevention of complications related to traumatic brain injury in children and adolescents with creatine administration: an open label randomized pilot study. J Trauma (2006) 61(2), 322-329.
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今回はホットなトピックをお届けします。

■第16回 国際スポーツ栄養学会(ISSN : International Society of Sports Nutrition)

6月13日~15日、ネバダ州ラスベガスで開催された「第16回 国際スポーツ栄養学会(ISSN : International Society of Sports Nutrition)」に参加してきました。昨年に続き、2度目の参加となります。

この1年間でISSNのポジションペーパーを3報(Protein and Exercise、Nutrient Timing、2018年Research & Recommendations)完全和訳しており、学会長のDr. Jose Antonioを始め学会参加者にも顔見知りが増えたので、より親密感を感じることができました。

今回最も勉強になったのは、『Creatine Supplementation from Basic Science to Bro-Science and Beyond (Dr. Eric Rawson, Messiah College)』と題した初日の基調講演で、スポーツサプリメントでプロテインの次に多く使われるクレアチンに関するレビューでした。

クレアチンのサイエンスにおける歴史は古く、1832年にフランスで最初の文献報告が出されています。人への投与は1926年に最初の報告があり、それはクレアチンの作用に関わるATP(アデノシン三リン酸)やクレアチンキナーゼなどが発見されるよりも前のことでした。

アスリートにおけるクレアチンの効果に関しては、皆さんもすでにご存じかと思います。クレアチンとは、筋中のADP(アデノシン二リン酸)を、身体を動かすエネルギー源であるATPに再生する際に重要な役割を担う物質で「あと1回」「あと0.1秒」「あと1cm」の追い込みを可能にしてくれます。

もともと筋中にある程度の量が存在していますが、サプリメントとして摂取することによって筋中の濃度が上がるので、パフォーマンスを大きく向上させるエルゴジェニックエイドとして役立ってくれます。

■クレアチン摂取が脳震盪による脳のダメージを軽減する可能性

中でも大変興味深かったのは「経口摂取したクレアチンは筋肉だけではなく脳にも蓄積され、脳震盪による脳へのダメージを軽減する」というエビデンスが確立されようとしていることでした。脳震盪の動物実験モデルにおいては、脳損傷が36~50%軽減され、ミトコンドリア機能やATP量の維持、酸化防の止などがすでにはっきりしています。ヒトにおいても臨床的な治療効果のデータがすでにあり、外傷性脳損傷の子供に0.4g/kgを6カ月事後投与したところ、記憶喪失、認知障害、頭痛、言語障害などを緩和したそうです

これらから考えると、脳内のクレアチン濃度をあらかじめ増しておくことで、脳震盪になった時のダメージを予防的に軽減できるかもしれません。筋及び脳内のクレアチン濃度は身体を傷つけることなく測定することができます。クレアチンを投与することで、筋肉では20%、脳では5%、クレアチン濃度が増すとされています。

脳震盪における実際の効果を検証するのは、かなり大がかりな試験になってしまいますが、パフォーマンスアップのためにエルゴジェニックエイドであるとともに、脳震盪のダメージを軽減する可能性が考えられるので、特にコンタクトスポーツをやっているアスリートは充分量(5g/日を30日、もしくはローディングとして20g/日を5日間)を日々摂取するのがいいと思われます。

■CBD製品のスポーツにおけるエビデンスはない

次に、Cannabinoids and Sports Nutrition – Is Product Marketing ahead of the Science? (Dr. Douglas Kalman, Nutrasource)というポスターセッションで、気になった1報を紹介します。近年、アメリカの多くの州で合法となりつつあるマリファナの成分、CBD(カンナビジオール)に関する、文献レベルでの調査報告です。

アメリカではCBDオイルなどが、睡眠やストレス軽減などの効果を持つとされて売られていますが、精神作用のあるTHC(テトラヒドロカンナビジオール)が0.3%まで入っていてもいい、という驚くべき法律があります(日本では、THCが極微量でも入っていると麻薬取締法違反で逮捕されてしまいます)。

そして著者らが「CBD Sports Nutrition」というワードで検索エンジンをサーチしたところ、15,400,000のヒットがあったにも関わらず、臨床試験結果は一報もなかったと報告されています。ポスター発表の結論として「CBD製品のスポーツにおけるエビデンスはまったくない、逆にマリファナはすべての州で合法になっているわけではないので、ISSN的にはその利用は危険である」という判断です。国内にもCBD製品を販売し始めている会社がチラホラとあるようですが、逮捕者が出るのは時間の問題かと思います。

帰り際にDr. Antonioから「来年は東京でオリンピックがあるから、ISSN Tokyoをやりたい」と言われました。日本のスポーツ栄養界は、言葉の壁もあって海外の情報がそれほど入ってきませんので、必ずやいい機会になるでしょう。積極的にISSN Tokyo実現に向けて動いていきたいと思います。



青柳 清治

青柳 清治 │ Seiji_Aoyagi

栄養学博士、(株)DNS 執行役員 
米国オキシデンタル大学卒業後、㈱協和発酵バイオでアミノ酸研究に従事する中で、イリノイ大学で栄養学の博士号を取得。以降、外資企業で栄養剤ビジネス、商品開発の責任者を歴任した。日本へ帰国後2015年から、ウェアブランド「アンダーアーマー」の日本総代理店・㈱ドームのサプリメントブランド「DNS」にて責任者を務める。2020年より分社化した㈱DNSでサイエンティフィックオフィサーを務める。

【参考文献】

  • 1: Dean PJA et al. Potential for use of creatine supplementation following mild traumatic brain injury. Concussion (2017) 2(2), CNC34.
  • 2: Sakellaris G et al. Prevention of complications related to traumatic brain injury in children and adolescents with creatine administration: an open label randomized pilot study. J Trauma (2006) 61(2), 322-329.
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