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増え続けるうっかりドーピング

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サプリメントによる「うっかりドーピング」の事例が後を絶ちません。特に水泳では、昨年に続き、今年に入って2名の選手がうっかりドーピング」の犠牲者となってしまいました。なぜ、このようなことが起こってしまったのでしょう。

特に注目すべきは、陽性となった禁止物質と先日ドーピングの陽性反応がでたF選手の「仲裁判断の骨子」1に書かれている内容です。

検出された禁止物質は、SARMs (Selective Androgen Receptor Modulators:選択的アンドロゲンレセプタ修飾因子)という、筋アンドロゲンレセプターに特異的に作用する合成ステロイドです。一般のステロイドよりも副作用が少ないとされていますが、FDA(アメリカ食品医薬品局)から、「肝毒性など命に係わる副作用の発生や、心臓発作や脳卒中などのリスクを上げる可能性がある」という、安全性に関する注意勧告2が出されています。

WADAの禁止物質リストにはもちろん2008年から掲載されています。しかしアメリカでは、SARMsはコカインなどのような麻薬扱いとなっておらず、今もインターネットなどで容易に購入できます。そのため、いわゆる「合法ステロイド」と呼ばれています。SARMsにはいくつかの化学物質があり、Ostarine(別名MK-2866)やLigandrol(別名LGD-4033)など、アメリカではさまざまな物質が流通しています。

ではなぜ、アメリカ市場でこのようにポピュラーなSARMs、特に同一物質のOstarineが、近い存在である2名の日本人選手の身体からサプリメントを介して検出されたのか。

CAS(国際スポーツ仲裁機構)からのリリース3以外の情報はありませんが、JSAA(日本スポーツ仲裁機構)から11月14日に開示された「仲裁判断の骨子」から、さまざまことを読み取ることができます。その内容を読み込むと、我が国で「うっかりドーピング」が後を絶たない理由として、選手を取り巻くトレーナーやサプリメントメーカーの問題行動が浮き彫りとなってきます。仲裁判断の骨子の内容を要約してみました。

  • ・2016年冬からB社製の「アルギニン5000」を、B社社長と懇意にしているトレーナーに勧められて飲み始めた。
  • ・トレーナーからは「B社はドーピングに特に気を遣っており、実際に多くのトップアスリートも使用しているので、ドーピング禁止物質が含まれている心配はない」と説明を受ける。
  • ・2018年夏から「アルギニン5000」の改良版として「イミダペプチドドリンク」を飲み始めた。
  • ・トレーナーは、「他の選手も飲んでいるが、ドーピングで問題は発生しておらず、大丈夫」と説明。
  • ・兄とB社を訪問。同社社長は「当社はドーピング違反となる禁止物質の混入がないように気をつけており、当社の製品はアスリートにも安全である」と説明。
  • ・2018年11月と2019年4月の大会に同一ロットの製品を飲んだが、ドーピング検査は陰性であった。
  • ・2019年5月の大会で陽性になり、5ヶ月の資格停止を受ける。
  • ・2019年9月に当該製品を分析、18ngのオスタリンが検出された。
  • ・当時摂取していた、水泳日本代表公式スポンサーの製品である「アミノバイタルGOLD」以外のサプリメントをすべて分析したが、結果は陰性であった。
  • ・資格停止が4ヶ月に短縮された。

この内容からは、かなりの衝撃を受けました。そもそもオリンピック級の選手に対し、アンチ・ドーピング認証を受けていない製品を安易に勧めているトレーナーの言動は、認識不足としか言いようがありません。ましてや身近な選手が「うっかりドーピング」で4年の資格停止を受けた2018年夏に、「他のアスリートも飲んでいて、問題を起こしていないから大丈夫」という説明をするのはあまりに無責任すぎます。さらにB社社長は、何の根拠をもって「大丈夫」と言っているのか。その説明には信憑性がまったくありません。トップアスリートにサプリメントを提供する企業としての姿勢を疑ってしまいます。

さらに、使用していたサプリメントを分析した際、なぜ水泳日本代表公式スポンサーの製品だけは除外されていたのか、疑念が残ります。当該製品は旧JADA認証を受けていたとしても、すでに認証は終了しているので、可能性はなきにしもあらずと思います。本来ならば原因究明のため、すべての可能性をつぶしていくのが筋かと思います。

アンチ・ドーピング対策は選手の責任であることは間違いありませんが、今回関与したトレーナーやサプリメントを提供したB社も含めて、我が国の現状はこのレベルかもしれません。アンチ・ドーピングに関するリテラシーの早急な向上と、スポーツ界全体の改革の必要性を痛感させられる事例でした。



青柳 清治

青柳 清治 │ Seiji_Aoyagi

栄養学博士、(株)DNS 執行役員 
米国オキシデンタル大学卒業後、㈱協和発酵バイオでアミノ酸研究に従事する中で、イリノイ大学で栄養学の博士号を取得。以降、外資企業で栄養剤ビジネス、商品開発の責任者を歴任した。日本へ帰国後2015年から、ウェアブランド「アンダーアーマー」の日本総代理店・㈱ドームのサプリメントブランド「DNS」にて責任者を務める。2020年より分社化した㈱DNSでサイエンティフィックオフィサーを務める。

【参考文献】

  • 1.http://www.jsaa.jp/award/DP-2019-001_1.pdf
  • 2.https://www.fda.gov/newsevents/newsroom/fdainbrief/ucm583021.htm
  • 3.https://www.tas-cas.org/fileadmin/user_upload/CAS_Media_Release_5984.pdf
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サプリメントによる「うっかりドーピング」の事例が後を絶ちません。特に水泳では、昨年に続き、今年に入って2名の選手がうっかりドーピング」の犠牲者となってしまいました。なぜ、このようなことが起こってしまったのでしょう。

特に注目すべきは、陽性となった禁止物質と先日ドーピングの陽性反応がでたF選手の「仲裁判断の骨子」1に書かれている内容です。

検出された禁止物質は、SARMs (Selective Androgen Receptor Modulators:選択的アンドロゲンレセプタ修飾因子)という、筋アンドロゲンレセプターに特異的に作用する合成ステロイドです。一般のステロイドよりも副作用が少ないとされていますが、FDA(アメリカ食品医薬品局)から、「肝毒性など命に係わる副作用の発生や、心臓発作や脳卒中などのリスクを上げる可能性がある」という、安全性に関する注意勧告2が出されています。

WADAの禁止物質リストにはもちろん2008年から掲載されています。しかしアメリカでは、SARMsはコカインなどのような麻薬扱いとなっておらず、今もインターネットなどで容易に購入できます。そのため、いわゆる「合法ステロイド」と呼ばれています。SARMsにはいくつかの化学物質があり、Ostarine(別名MK-2866)やLigandrol(別名LGD-4033)など、アメリカではさまざまな物質が流通しています。

ではなぜ、アメリカ市場でこのようにポピュラーなSARMs、特に同一物質のOstarineが、近い存在である2名の日本人選手の身体からサプリメントを介して検出されたのか。

CAS(国際スポーツ仲裁機構)からのリリース3以外の情報はありませんが、JSAA(日本スポーツ仲裁機構)から11月14日に開示された「仲裁判断の骨子」から、さまざまことを読み取ることができます。その内容を読み込むと、我が国で「うっかりドーピング」が後を絶たない理由として、選手を取り巻くトレーナーやサプリメントメーカーの問題行動が浮き彫りとなってきます。仲裁判断の骨子の内容を要約してみました。

  • ・2016年冬からB社製の「アルギニン5000」を、B社社長と懇意にしているトレーナーに勧められて飲み始めた。
  • ・トレーナーからは「B社はドーピングに特に気を遣っており、実際に多くのトップアスリートも使用しているので、ドーピング禁止物質が含まれている心配はない」と説明を受ける。
  • ・2018年夏から「アルギニン5000」の改良版として「イミダペプチドドリンク」を飲み始めた。
  • ・トレーナーは、「他の選手も飲んでいるが、ドーピングで問題は発生しておらず、大丈夫」と説明。
  • ・兄とB社を訪問。同社社長は「当社はドーピング違反となる禁止物質の混入がないように気をつけており、当社の製品はアスリートにも安全である」と説明。
  • ・2018年11月と2019年4月の大会に同一ロットの製品を飲んだが、ドーピング検査は陰性であった。
  • ・2019年5月の大会で陽性になり、5ヶ月の資格停止を受ける。
  • ・2019年9月に当該製品を分析、18ngのオスタリンが検出された。
  • ・当時摂取していた、水泳日本代表公式スポンサーの製品である「アミノバイタルGOLD」以外のサプリメントをすべて分析したが、結果は陰性であった。
  • ・資格停止が4ヶ月に短縮された。

この内容からは、かなりの衝撃を受けました。そもそもオリンピック級の選手に対し、アンチ・ドーピング認証を受けていない製品を安易に勧めているトレーナーの言動は、認識不足としか言いようがありません。ましてや身近な選手が「うっかりドーピング」で4年の資格停止を受けた2018年夏に、「他のアスリートも飲んでいて、問題を起こしていないから大丈夫」という説明をするのはあまりに無責任すぎます。さらにB社社長は、何の根拠をもって「大丈夫」と言っているのか。その説明には信憑性がまったくありません。トップアスリートにサプリメントを提供する企業としての姿勢を疑ってしまいます。

さらに、使用していたサプリメントを分析した際、なぜ水泳日本代表公式スポンサーの製品だけは除外されていたのか、疑念が残ります。当該製品は旧JADA認証を受けていたとしても、すでに認証は終了しているので、可能性はなきにしもあらずと思います。本来ならば原因究明のため、すべての可能性をつぶしていくのが筋かと思います。

アンチ・ドーピング対策は選手の責任であることは間違いありませんが、今回関与したトレーナーやサプリメントを提供したB社も含めて、我が国の現状はこのレベルかもしれません。アンチ・ドーピングに関するリテラシーの早急な向上と、スポーツ界全体の改革の必要性を痛感させられる事例でした。



青柳 清治

青柳 清治 │ Seiji_Aoyagi

栄養学博士、(株)DNS 執行役員 
米国オキシデンタル大学卒業後、㈱協和発酵バイオでアミノ酸研究に従事する中で、イリノイ大学で栄養学の博士号を取得。以降、外資企業で栄養剤ビジネス、商品開発の責任者を歴任した。日本へ帰国後2015年から、ウェアブランド「アンダーアーマー」の日本総代理店・㈱ドームのサプリメントブランド「DNS」にて責任者を務める。2020年より分社化した㈱DNSでサイエンティフィックオフィサーを務める。

【参考文献】

  • 1.http://www.jsaa.jp/award/DP-2019-001_1.pdf
  • 2.https://www.fda.gov/newsevents/newsroom/fdainbrief/ucm583021.htm
  • 3.https://www.tas-cas.org/fileadmin/user_upload/CAS_Media_Release_5984.pdf