体重・脂肪DOWN
健康志向のアスリートの間ではファスティング(断食)が話題となっている。しかし、長時間に渡るファスティングは問題も多い。これは筋肉が落ちやすいというだけではない。今回は、今話題のファスティングがアスリートのコンディションに与える影響について、解説したいと思う。
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【本記事のまとめ】
1.ファスティング中に出てくるモノは、胆汁や腸内細菌(宿便ではない)
2.動物実験の結果からは代謝的な改善効果が見られた
3.ヒト試験よれば、そう簡単に筋量の低下は起きないのかもしれない
4.しかし、パフォーマンスに対する影響は不明である
5.競技アスリートは安易にファスティングを行うべきではない
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ファスティング中は栄養素が身体に全く入ってこないため、腸内細菌は膵液や胆汁、大腸の分泌する粘液、腸壁から剥がれ落ちた細胞などのみをエネルギーにするしかない。エネルギー源が減ると、腸の細胞分裂が衰える。つまり栄養や水分を吸収するという腸の機能が低下するというわけである。
するとどうなるか?大腸は水分を吸収する働きを持っているのに、その働きが低下する。水分を吸収することができなくなれば、当然のごとく下痢を起こす。これはデトックスでもないし、宿便が出たというわけでもない。そのときに出る便は宿便ではなく、胆汁や腸内細菌の死骸だ。これはたいてい黒ずんでいるので、それを見た人は、「悪いモノが出ている」と勘違いしてしまうのだろう。
セルロースやペクチンなどの食物繊維があれば、それが腸内で発酵され、酪酸などの短鎖脂肪酸が作り出される。酪酸は腸のエネルギーとなり、再び水分を吸収する働きが高まるだろう。しかし、ファスティングが続けばそもそもそれらの栄養素が入ってこない。
イスラム教徒は1ヶ月間だけ断食を行い、この期間を「ラマダン」と呼ぶ。ラマダン期間中は完全に食べないわけではなく、日没から日の出までの間に一日分の食事をまとめて摂ってしまうのだ。「8時間ダイエット」や「リーンゲインズ」と呼ばれる「16時間断食し、8時間の間だけ食べて良い」という方法があり、ラマダンと非常に似ている。こういった食事法の効果はどうなのだろうか?
マウスを使い、24時間好きに食べられるようにした場合と、24時間のうち8~9時間だけ好きに食べられるようにした場合とで分けた研究がある(※1)。
その結果、両群ともに摂取エネルギーにほとんど差はなかったものの、食餌時間を制限された群では体重と体脂肪量が少なくなっていた。またトレッドミルを走らせたところ、食餌時間を制限されたほうが走れる時間が長かったのだ。これは食餌時間制限により空腹時間が増え、インスリン感受性や炎症性サイトカイン、mTORやAMPKの活性、サーカディアンリズムが適正化されることが要因だと考えられている。
マウスを用いた同じような研究においても、一日のうち4時間だけ好きに食べられるようにした場合(食餌時間の制限)に体重が減少し、血中コレステロール値が改善、インスリン感受性が高まり、肝臓での脂肪酸化が亢進していたと報告されている(※2)。
これもまたマウスを用いた研究だが、高脂肪食(総エネルギーの61%が脂質由来)を24時間好きに食べさせた場合(a)と夜の時間帯8時間だけに制限した場合(b)、そして普通食(総エネルギーの13%が脂質由来)を24時間好きに食べさせた場合(c)と夜の時間帯8時間だけに制限した場合(d)のそれぞれの条件でマウスを飼育した。すると、(d)はわずかに(c)より体重が少ないという結果となった。しかし(b)は(a)よりも遥かに体重増加が抑えられており、肥満度も小さかったと報告されている(※3)。
あくまで動物実験によって得られた知見ではあるものの、肥満になりやすいような食事、脂肪肝になってしまいやすそうな食事においては、食餌時間制限は有益かもしれない。さらに、食事時間の制限によって運動能力が向上し、グルコース代謝や脂質代謝、炎症指標などにおいても著しい改善効果が示されていた(※3)。
ここまではマウスによる実験を紹介したが、ヒトではどうだろう?
ラマダン断食や8時間ダイエット、一日起きのファスティングに大きなダイエット効果はなさそうだが、「そう筋肉量が落ちるわけではない」ということは少なくとも言えそうである。
最低5年のトレーニング経験を積んだボディビルダーを対象にした研究がある。ここでは普通に食べる群(Normal Diet ; ND)と8時間だけ好きに食べて残りの時間は食べない群(Time-restricted feeding ; TRF)に分け、その影響を8週間に渡って観察した(※4)。
まず、二つの群において摂取エネルギーや糖質、脂肪、たんぱく質の割合などに大きな差はなかった。実験の結果、筋力や筋肉量の増加に差は認められなかった。しかし興味深いことにTRF群は体脂肪量が有意に減少していたのである。Intermittent FastingはテストステロンやIGF-1を低下させ、アディポネクチン(脂肪細胞から分泌される物質)を増加させるようだ。これが、体脂肪量の減少につながった一つの要因かもしれない。
では、一日おきにファスティングを行った場合はどうだろうか。ヒトを対象とした研究で、12週間、有酸素運動と「一日置きのファスティング(摂取エネルギー450kcal)」を組み合わせたところ、ファスティングのみ群あるいは有酸素運動のみ群と比較して、非常に効果的に体重を減らせたという報告がある(※5)。
組み合わせ群の除脂肪体重は、それほど減っておらず、減少したのは殆ど体脂肪であったが断食群と有酸素のみ群は、除脂肪体重と体脂肪量が同じだけ減っていた。この研究での「ファスティング」だが、まったく食べていないわけではなく、450kcalをファスティング日に摂取している。その内訳として、「ベジタリアンピザ+リンゴ+ナッツ」あるいは「チキンエンチラーダ+オレンジ+クラッカー」あるいは「チキンフェトチーニ+ニンジンスナック+クッキー」というものだった。
トレーニーはカタボリックになってしまうことを心配しがちだが、少しくらい食べられない時間帯があったからといって、そう神経質にはならなくても良いということだろう。
一方、運動パフォーマンスについては十分評価がなされているとは言えない為、競技アスリートは安易にファスティングを行うべきではないだろう。今回紹介したのは、あくまで体組成変化についてだ。
43名の被験者を対象に、28日間に渡ってラマダン断食を行った研究がある(※6)。その結果、BMIと体重、体脂肪、体水分量、ミネラル量の減少が見られたが、体タンパク質と摂取エネルギーには変化が見られなかった。ラマダン断食終了後、普通の食生活に戻したところ、4~5週間で全て元通りになった。
18名の少年を対象にした研究では、ラマダン終了時にはヘモグロビンと血漿鉄の顕著な減少が見られたという(※7)。
ファスティング期間中には、どうしても微量栄養素が不足しがちとなる。そのためビタミンやミネラルをサプリメントで補給するようにするのが良いだろう。ビタミンスーパープレミアムやミネラルスーパープレミアムならば、エネルギーを摂取することなく、ファスティング中にも微量栄養素を補給することができる。
繰り返しになるが、競技アスリートは安易にファスティングを行うべきではないと考えている。もしどうしても試してみたい場合には、栄養士など専門家の管理のもとで実施することを強く推奨する。
健康志向のアスリートの間ではファスティング(断食)が話題となっている。しかし、長時間に渡るファスティングは問題も多い。これは筋肉が落ちやすいというだけではない。今回は、今話題のファスティングがアスリートのコンディションに与える影響について、解説したいと思う。
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【本記事のまとめ】
1.ファスティング中に出てくるモノは、胆汁や腸内細菌(宿便ではない)
2.動物実験の結果からは代謝的な改善効果が見られた
3.ヒト試験よれば、そう簡単に筋量の低下は起きないのかもしれない
4.しかし、パフォーマンスに対する影響は不明である
5.競技アスリートは安易にファスティングを行うべきではない
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ファスティング中は栄養素が身体に全く入ってこないため、腸内細菌は膵液や胆汁、大腸の分泌する粘液、腸壁から剥がれ落ちた細胞などのみをエネルギーにするしかない。エネルギー源が減ると、腸の細胞分裂が衰える。つまり栄養や水分を吸収するという腸の機能が低下するというわけである。
するとどうなるか?大腸は水分を吸収する働きを持っているのに、その働きが低下する。水分を吸収することができなくなれば、当然のごとく下痢を起こす。これはデトックスでもないし、宿便が出たというわけでもない。そのときに出る便は宿便ではなく、胆汁や腸内細菌の死骸だ。これはたいてい黒ずんでいるので、それを見た人は、「悪いモノが出ている」と勘違いしてしまうのだろう。
セルロースやペクチンなどの食物繊維があれば、それが腸内で発酵され、酪酸などの短鎖脂肪酸が作り出される。酪酸は腸のエネルギーとなり、再び水分を吸収する働きが高まるだろう。しかし、ファスティングが続けばそもそもそれらの栄養素が入ってこない。
イスラム教徒は1ヶ月間だけ断食を行い、この期間を「ラマダン」と呼ぶ。ラマダン期間中は完全に食べないわけではなく、日没から日の出までの間に一日分の食事をまとめて摂ってしまうのだ。「8時間ダイエット」や「リーンゲインズ」と呼ばれる「16時間断食し、8時間の間だけ食べて良い」という方法があり、ラマダンと非常に似ている。こういった食事法の効果はどうなのだろうか?
マウスを使い、24時間好きに食べられるようにした場合と、24時間のうち8~9時間だけ好きに食べられるようにした場合とで分けた研究がある(※1)。
その結果、両群ともに摂取エネルギーにほとんど差はなかったものの、食餌時間を制限された群では体重と体脂肪量が少なくなっていた。またトレッドミルを走らせたところ、食餌時間を制限されたほうが走れる時間が長かったのだ。これは食餌時間制限により空腹時間が増え、インスリン感受性や炎症性サイトカイン、mTORやAMPKの活性、サーカディアンリズムが適正化されることが要因だと考えられている。
マウスを用いた同じような研究においても、一日のうち4時間だけ好きに食べられるようにした場合(食餌時間の制限)に体重が減少し、血中コレステロール値が改善、インスリン感受性が高まり、肝臓での脂肪酸化が亢進していたと報告されている(※2)。
これもまたマウスを用いた研究だが、高脂肪食(総エネルギーの61%が脂質由来)を24時間好きに食べさせた場合(a)と夜の時間帯8時間だけに制限した場合(b)、そして普通食(総エネルギーの13%が脂質由来)を24時間好きに食べさせた場合(c)と夜の時間帯8時間だけに制限した場合(d)のそれぞれの条件でマウスを飼育した。すると、(d)はわずかに(c)より体重が少ないという結果となった。しかし(b)は(a)よりも遥かに体重増加が抑えられており、肥満度も小さかったと報告されている(※3)。
あくまで動物実験によって得られた知見ではあるものの、肥満になりやすいような食事、脂肪肝になってしまいやすそうな食事においては、食餌時間制限は有益かもしれない。さらに、食事時間の制限によって運動能力が向上し、グルコース代謝や脂質代謝、炎症指標などにおいても著しい改善効果が示されていた(※3)。
ここまではマウスによる実験を紹介したが、ヒトではどうだろう?
ラマダン断食や8時間ダイエット、一日起きのファスティングに大きなダイエット効果はなさそうだが、「そう筋肉量が落ちるわけではない」ということは少なくとも言えそうである。
最低5年のトレーニング経験を積んだボディビルダーを対象にした研究がある。ここでは普通に食べる群(Normal Diet ; ND)と8時間だけ好きに食べて残りの時間は食べない群(Time-restricted feeding ; TRF)に分け、その影響を8週間に渡って観察した(※4)。
まず、二つの群において摂取エネルギーや糖質、脂肪、たんぱく質の割合などに大きな差はなかった。実験の結果、筋力や筋肉量の増加に差は認められなかった。しかし興味深いことにTRF群は体脂肪量が有意に減少していたのである。Intermittent FastingはテストステロンやIGF-1を低下させ、アディポネクチン(脂肪細胞から分泌される物質)を増加させるようだ。これが、体脂肪量の減少につながった一つの要因かもしれない。
では、一日おきにファスティングを行った場合はどうだろうか。ヒトを対象とした研究で、12週間、有酸素運動と「一日置きのファスティング(摂取エネルギー450kcal)」を組み合わせたところ、ファスティングのみ群あるいは有酸素運動のみ群と比較して、非常に効果的に体重を減らせたという報告がある(※5)。
組み合わせ群の除脂肪体重は、それほど減っておらず、減少したのは殆ど体脂肪であったが断食群と有酸素のみ群は、除脂肪体重と体脂肪量が同じだけ減っていた。この研究での「ファスティング」だが、まったく食べていないわけではなく、450kcalをファスティング日に摂取している。その内訳として、「ベジタリアンピザ+リンゴ+ナッツ」あるいは「チキンエンチラーダ+オレンジ+クラッカー」あるいは「チキンフェトチーニ+ニンジンスナック+クッキー」というものだった。
トレーニーはカタボリックになってしまうことを心配しがちだが、少しくらい食べられない時間帯があったからといって、そう神経質にはならなくても良いということだろう。
一方、運動パフォーマンスについては十分評価がなされているとは言えない為、競技アスリートは安易にファスティングを行うべきではないだろう。今回紹介したのは、あくまで体組成変化についてだ。
43名の被験者を対象に、28日間に渡ってラマダン断食を行った研究がある(※6)。その結果、BMIと体重、体脂肪、体水分量、ミネラル量の減少が見られたが、体タンパク質と摂取エネルギーには変化が見られなかった。ラマダン断食終了後、普通の食生活に戻したところ、4~5週間で全て元通りになった。
18名の少年を対象にした研究では、ラマダン終了時にはヘモグロビンと血漿鉄の顕著な減少が見られたという(※7)。
ファスティング期間中には、どうしても微量栄養素が不足しがちとなる。そのためビタミンやミネラルをサプリメントで補給するようにするのが良いだろう。ビタミンスーパープレミアムやミネラルスーパープレミアムならば、エネルギーを摂取することなく、ファスティング中にも微量栄養素を補給することができる。
繰り返しになるが、競技アスリートは安易にファスティングを行うべきではないと考えている。もしどうしても試してみたい場合には、栄養士など専門家の管理のもとで実施することを強く推奨する。