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2022-23シーズンに向けた栄養戦略 -後編-

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DNSは2022年3月、NECグリーンロケッツ東葛とのオフィシャルサプライヤー契約を締結した。ここでは、DNSがNECグリーンロケッツ東葛に派遣し栄養サポートを行う、管理栄養士・飯澤拓樹が、選手達の食事情やスポーツ栄養にまつわるさまざまな情報をお伝えする。

「2022-23シーズンに向けた栄養戦略 -前編-」はこちら

2022-23シーズンに向けた栄養戦略

チームはこれまでも栄養に取り組んでいましたが、2022-23シーズンに向けて私が特に力を入れていたのが、栄養摂取の「量・質・タイミング」の整理です。量はエネルギーやそれぞれの栄養素が目標に対して過不足なく摂れているのか。質は口に入れる食事や補食の内容。タイミングは、栄養摂取の間隔や、そのタイミングで食べるものが真に最適な内容なのかということです。

ラグビーの試合が非常に激しいことは皆様も良くご存じだと思います。少し古い2009年のデータ1ですが、ラグビー選手の試合を通じてのエネルギー消費量は、バックスが6.9MJ(メガジュール)、フォワードが8.2MJだったと報告されています。kcalに直すとそれぞれ1,648kcal、1,959kcalです。これはサッカーの試合(1,539.86 ± 130.07 kcal)をも上回る数値です2


試合中のGR東葛の選手達(提供:NECグリーンロケッツ東葛)


当然ながら、そのような激しい試合に耐えうる肉体を作る日々のトレーニングは、恐ろしくハードです。練習日のエネルギーの消費量はかなり大きくなりますので、「量・質・タイミング」それぞれの観点からなる栄養戦略が極めて重要になってくるわけです。

■ラガーマンは一般人の2倍食べる?!

「量」の最重要項目として、「エネルギーの摂取量」があります。エネルギーの消費と摂取のバランスは、日々の体重変化からおおよそ把握することが出来、体重が維持されていればバランスが取れている、体重が減っていれば消費の方が大きくなっているという考え方が成り立ちます。

増量を希望している選手については、筋肉を大きくするためにエネルギーを付加する必要があります。体格やポジション、増量期間にもよりますが、1日当たりのエネルギー摂取量が4,000~5,000kcal、あるいはそれ以上になることも珍しくありません。これは一般的な成人男性の2倍以上のエネルギーになります3。我々管理栄養士は、日々の体重変化の傾向をみながら、目的に合わせてエネルギーの過不足がないかチェックを行います。

もちろん、各栄養素それぞれの量が過不足なく摂れているか、個々の食事調査や献立などから確認しています。


試合中のFL フェトゥカモカモ・ ダグラス選手(左)とPR 土井貴弘選手(右)(提供:NECグリーンロケッツ東葛)


■食べた方がいいもの、その時最適ではないもの

2つの整理ポイントは「質」です。どんな食材・料理で全体の栄養摂取を構成するかが、「質」に該当します。

「質」の話をするときに間違ってはいけないのは、「アスリートが食べてはいけないものなどない」ということです。よく例に出されるのは揚げ物で、エネルギーの高さを理由に極端に避ける方がいます。しかし、裏を返せば少量で多くのエネルギーを獲得できるという考え方もできますよね。激しいトレーニングが続く合宿や強化期間などでは、献立に適切に揚げ物を組み込むことで、多少食欲が落ちてもエネルギーを確保することが出来るわけです。揚げ物でなくとも、脂質が高めのメニューには同様の考え方が当てはまります。

ではこの考え方がいつも当てはまるかといえば、当然そうではありません。例えば「試合前日の食事」。試合を通じて高いパフォーマンスを維持するためには、筋肉のエネルギー源である糖質(筋グリコーゲン)を十分に貯めておく必要があります4。驚くべきことに、ラグビーでは1試合を通じて筋グリコーゲンが40%も減少するとの報告5もあるほど、消費の激しいスポーツです。

糖質はごはんやパン、パスタなどの“主食“から摂ることが出来ますから、試合の前日は揚げ物よりもなるべく主食に、胃の多くのスペースを使って欲しいと考えています。また、脂質による胸やけや消化不良も試合でのパフォーマンスに影響しますので、そういった意味でも試合前日は揚げ物や高脂質なメニューは避けるよう、選手に伝えるとともに遠征先でのメニュー調整などを行います。

その場面に合わせた最適な食事の「質」を考えるころが重要です。

ウエイトトレーニング中のGR東葛の選手(提供:NECグリーンロケッツ東葛)

■タイミングを制する者は…

3つ目のポイントが「タイミング」です。分かりやすくたんぱく質を例に取って紹介します。

たんぱく質は筋肉の材料となる栄養素で、摂取量と筋肥大の関係性については様々な研究がありますが、私は国際スポーツ栄養学会のポジションペーパー6(数多くの研究から見解をまとめたもの)を参考に、選手が1日あたり1.4~2.0g/kg体重のたんぱく質を摂れるように調整しています。例えば100kgの選手なら、1日あたり140~200gのたんぱく質が摂れることが望ましいというわけです。ここでは便宜上、間を摂って180g1.8g/kg体重)を基準にして考えましょう。

では、選手は180gのたんぱく質をどの様に摂ればいいのでしょうか?180gのたんぱく質は、お肉にすると大体900g程度。ラガーマンは大食いの選手も多いので、1食で食べきれるかもしれませんが…。


プロテインシェイカーとWTB/FB 杉本悠馬選手(提供:NECグリーンロケッツ東葛)

 

たんぱく質は、一度にドカッと食べるよりも、数時間置きに小まめに摂ることで、最も効率よく筋肥大が起こることが分かっています7。ですから、選手が1日を通じて計5~6回に分けて、必要なたんぱく質を分けて摂れるように提案・指導しています。当然、そのすべてを食事のみで摂ろうとするのは困難な場合がありますので、プロテインなどを活用します。

この様に、一つの栄養素を摂るにしても、そのタイミングを工夫することで、より科学的に優れた栄養摂取になると言えるのです。

■すべては選手のパフォーマンス向上の為に

ここまで書いたような栄養に関する細かなポイントを、日々の食事指導やメニュー調整、資料作成、時にはふとした雑談などを通じて選手に伝えています。これらのポイントは、今シーズンに向けて新たに取り組んだものもありますが、既にチームとして何年も根付いてきたものもありました。私が行っているのは「情報の整理」で、選手が目にする、耳にする情報に一貫性を持たせることで、それが刷り込まれ、結果的に日々の栄養摂取がより理想的な形に近づくと考えています。

食事には「食べると強くなる魔法の○○」は存在しませんが、日々の細かい積み重ねが、試合でのパフォーマンス向上に繋がると確信しています。

既にシーズンも中盤。今シーズンに向けた栄養戦略の効果が見えてくると思います。



飯澤 拓樹

飯澤 拓樹 │ Hiroki_Iizawa

管理栄養士 / 修士(スポーツ健康科学)
新潟医療福祉大学を卒業後、福岡大学大学院にて修士号を取得。株式会社DNS マーケティングDiv.所属。契約アスリート/チームへの栄養サポートのほか、商品企画をはじめとしたマーケティング業務に従事している。主なサポート競技はラグビー、アメリカンフットボール、競泳など。自身も幼少期より競泳に打ち込む現役アスリートであり、日本社会人選手権出場に向けて、日々仕事とトレーニングに奮闘中。

【参考文献】

  • 1. Cunniffe, B., Proctor, W., Baker, J. S. & Davies, B. An Evaluation of the Physiological Demands of Elite Rugby Union Using Global Positioning System Tracking Software. The Journal of Strength and Conditioning Research 23, 1195–1203 (2009).
  • 2. Coelho, Daniel B. et al. Energy expenditure estimation during official soccer matches. Brazilian Journal of Biomotricity4,246-255(2010).
  • 3. 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準(2020年度版).
  • 4. Bergström, J., Hermansen, L., Hultman, E. & Saltin, B. Diet, Muscle Glycogen and Physical Performance. Acta Physiol Scand 71, 140–150 (1967).
  • 5. Bradley, W. J. et al. Muscle glycogen utilisation during Rugby match play: Effects of pre-game carbohydrate. J Sci Med Sport 19, 1033–1038 (2016).
  • 6. Jäger, R. et al. International Society of Sports Nutrition Position Stand: Protein and exercise. J Int Soc Sports Nutr 14, 1–25 (2017).
  • 7. Areta, J. L. et al. Timing and distribution of protein ingestion during prolonged recovery from resistance exercise alters myofibrillar protein synthesis. Journal of Physiology 591, 2319–2331 (2013).
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DNSは2022年3月、NECグリーンロケッツ東葛とのオフィシャルサプライヤー契約を締結した。ここでは、DNSがNECグリーンロケッツ東葛に派遣し栄養サポートを行う、管理栄養士・飯澤拓樹が、選手達の食事情やスポーツ栄養にまつわるさまざまな情報をお伝えする。

「2022-23シーズンに向けた栄養戦略 -前編-」はこちら

2022-23シーズンに向けた栄養戦略

チームはこれまでも栄養に取り組んでいましたが、2022-23シーズンに向けて私が特に力を入れていたのが、栄養摂取の「量・質・タイミング」の整理です。量はエネルギーやそれぞれの栄養素が目標に対して過不足なく摂れているのか。質は口に入れる食事や補食の内容。タイミングは、栄養摂取の間隔や、そのタイミングで食べるものが真に最適な内容なのかということです。

ラグビーの試合が非常に激しいことは皆様も良くご存じだと思います。少し古い2009年のデータ1ですが、ラグビー選手の試合を通じてのエネルギー消費量は、バックスが6.9MJ(メガジュール)、フォワードが8.2MJだったと報告されています。kcalに直すとそれぞれ1,648kcal、1,959kcalです。これはサッカーの試合(1,539.86 ± 130.07 kcal)をも上回る数値です2


試合中のGR東葛の選手達(提供:NECグリーンロケッツ東葛)


当然ながら、そのような激しい試合に耐えうる肉体を作る日々のトレーニングは、恐ろしくハードです。練習日のエネルギーの消費量はかなり大きくなりますので、「量・質・タイミング」それぞれの観点からなる栄養戦略が極めて重要になってくるわけです。

■ラガーマンは一般人の2倍食べる?!

「量」の最重要項目として、「エネルギーの摂取量」があります。エネルギーの消費と摂取のバランスは、日々の体重変化からおおよそ把握することが出来、体重が維持されていればバランスが取れている、体重が減っていれば消費の方が大きくなっているという考え方が成り立ちます。

増量を希望している選手については、筋肉を大きくするためにエネルギーを付加する必要があります。体格やポジション、増量期間にもよりますが、1日当たりのエネルギー摂取量が4,000~5,000kcal、あるいはそれ以上になることも珍しくありません。これは一般的な成人男性の2倍以上のエネルギーになります3。我々管理栄養士は、日々の体重変化の傾向をみながら、目的に合わせてエネルギーの過不足がないかチェックを行います。

もちろん、各栄養素それぞれの量が過不足なく摂れているか、個々の食事調査や献立などから確認しています。


試合中のFL フェトゥカモカモ・ ダグラス選手(左)とPR 土井貴弘選手(右)(提供:NECグリーンロケッツ東葛)


■食べた方がいいもの、その時最適ではないもの

2つの整理ポイントは「質」です。どんな食材・料理で全体の栄養摂取を構成するかが、「質」に該当します。

「質」の話をするときに間違ってはいけないのは、「アスリートが食べてはいけないものなどない」ということです。よく例に出されるのは揚げ物で、エネルギーの高さを理由に極端に避ける方がいます。しかし、裏を返せば少量で多くのエネルギーを獲得できるという考え方もできますよね。激しいトレーニングが続く合宿や強化期間などでは、献立に適切に揚げ物を組み込むことで、多少食欲が落ちてもエネルギーを確保することが出来るわけです。揚げ物でなくとも、脂質が高めのメニューには同様の考え方が当てはまります。

ではこの考え方がいつも当てはまるかといえば、当然そうではありません。例えば「試合前日の食事」。試合を通じて高いパフォーマンスを維持するためには、筋肉のエネルギー源である糖質(筋グリコーゲン)を十分に貯めておく必要があります4。驚くべきことに、ラグビーでは1試合を通じて筋グリコーゲンが40%も減少するとの報告5もあるほど、消費の激しいスポーツです。

糖質はごはんやパン、パスタなどの“主食“から摂ることが出来ますから、試合の前日は揚げ物よりもなるべく主食に、胃の多くのスペースを使って欲しいと考えています。また、脂質による胸やけや消化不良も試合でのパフォーマンスに影響しますので、そういった意味でも試合前日は揚げ物や高脂質なメニューは避けるよう、選手に伝えるとともに遠征先でのメニュー調整などを行います。

その場面に合わせた最適な食事の「質」を考えるころが重要です。

ウエイトトレーニング中のGR東葛の選手(提供:NECグリーンロケッツ東葛)

■タイミングを制する者は…

3つ目のポイントが「タイミング」です。分かりやすくたんぱく質を例に取って紹介します。

たんぱく質は筋肉の材料となる栄養素で、摂取量と筋肥大の関係性については様々な研究がありますが、私は国際スポーツ栄養学会のポジションペーパー6(数多くの研究から見解をまとめたもの)を参考に、選手が1日あたり1.4~2.0g/kg体重のたんぱく質を摂れるように調整しています。例えば100kgの選手なら、1日あたり140~200gのたんぱく質が摂れることが望ましいというわけです。ここでは便宜上、間を摂って180g1.8g/kg体重)を基準にして考えましょう。

では、選手は180gのたんぱく質をどの様に摂ればいいのでしょうか?180gのたんぱく質は、お肉にすると大体900g程度。ラガーマンは大食いの選手も多いので、1食で食べきれるかもしれませんが…。


プロテインシェイカーとWTB/FB 杉本悠馬選手(提供:NECグリーンロケッツ東葛)

 

たんぱく質は、一度にドカッと食べるよりも、数時間置きに小まめに摂ることで、最も効率よく筋肥大が起こることが分かっています7。ですから、選手が1日を通じて計5~6回に分けて、必要なたんぱく質を分けて摂れるように提案・指導しています。当然、そのすべてを食事のみで摂ろうとするのは困難な場合がありますので、プロテインなどを活用します。

この様に、一つの栄養素を摂るにしても、そのタイミングを工夫することで、より科学的に優れた栄養摂取になると言えるのです。

■すべては選手のパフォーマンス向上の為に

ここまで書いたような栄養に関する細かなポイントを、日々の食事指導やメニュー調整、資料作成、時にはふとした雑談などを通じて選手に伝えています。これらのポイントは、今シーズンに向けて新たに取り組んだものもありますが、既にチームとして何年も根付いてきたものもありました。私が行っているのは「情報の整理」で、選手が目にする、耳にする情報に一貫性を持たせることで、それが刷り込まれ、結果的に日々の栄養摂取がより理想的な形に近づくと考えています。

食事には「食べると強くなる魔法の○○」は存在しませんが、日々の細かい積み重ねが、試合でのパフォーマンス向上に繋がると確信しています。

既にシーズンも中盤。今シーズンに向けた栄養戦略の効果が見えてくると思います。



飯澤 拓樹

飯澤 拓樹 │ Hiroki_Iizawa

管理栄養士 / 修士(スポーツ健康科学)
新潟医療福祉大学を卒業後、福岡大学大学院にて修士号を取得。株式会社DNS マーケティングDiv.所属。契約アスリート/チームへの栄養サポートのほか、商品企画をはじめとしたマーケティング業務に従事している。主なサポート競技はラグビー、アメリカンフットボール、競泳など。自身も幼少期より競泳に打ち込む現役アスリートであり、日本社会人選手権出場に向けて、日々仕事とトレーニングに奮闘中。

【参考文献】

  • 1. Cunniffe, B., Proctor, W., Baker, J. S. & Davies, B. An Evaluation of the Physiological Demands of Elite Rugby Union Using Global Positioning System Tracking Software. The Journal of Strength and Conditioning Research 23, 1195–1203 (2009).
  • 2. Coelho, Daniel B. et al. Energy expenditure estimation during official soccer matches. Brazilian Journal of Biomotricity4,246-255(2010).
  • 3. 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準(2020年度版).
  • 4. Bergström, J., Hermansen, L., Hultman, E. & Saltin, B. Diet, Muscle Glycogen and Physical Performance. Acta Physiol Scand 71, 140–150 (1967).
  • 5. Bradley, W. J. et al. Muscle glycogen utilisation during Rugby match play: Effects of pre-game carbohydrate. J Sci Med Sport 19, 1033–1038 (2016).
  • 6. Jäger, R. et al. International Society of Sports Nutrition Position Stand: Protein and exercise. J Int Soc Sports Nutr 14, 1–25 (2017).
  • 7. Areta, J. L. et al. Timing and distribution of protein ingestion during prolonged recovery from resistance exercise alters myofibrillar protein synthesis. Journal of Physiology 591, 2319–2331 (2013).
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