競技パフォーマンスUP

日本人よ、もっと鍛えよ ~サッカー編その2・後編 世界で互角以上に戦うためには、どこを、どう鍛えるべきか。

日本人よ、もっと鍛えよ ~サッカー編その2・後編 世界で互角以上に戦うためには、どこを、どう鍛えるべきか。

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日本人よ、もっと鍛えよ ~サッカー編その2・後編 世界で互角以上に戦うためには、どこを、どう鍛えるべきか。

日本人よ、もっと鍛えよ ~サッカー編その2・後編 世界で互角以上に戦うためには、どこを、どう鍛えるべきか。

日本人のサッカー選手は世界で戦っていくための正しい身体作りができていない。正しい筋力トレーニングを正しいタイミングで行い、適切に栄養を摂取すれば、日本人でも世界トップクラスの国々と互角に渡り合える身体能力を身につけられる。

前編に続き、ドームアスリートハウスのジェネラルマネージャー・友岡和彦、自らもサッカー経験者であり、Jリーガーのトレーニング指導を現在手がけるトレーナー・多良耕太郎に、日本のサッカー選手が世界で勝つために行うべきトレーニングについて、語ってもらった。

■サッカー選手にも、上半身の筋トレは必要である

ではまず、サッカー選手が筋力トレーニングで最も鍛えるべき箇所はどこなのだろうか。

「ポジションによって違うため簡単には言えませんが、すべてのポジションに必要なのはコア。体幹の強さですよね。これは疑う余地はありません。ただし、コアを鍛えるだけではもちろんダメです。

サッカーのボディコンタクトにおいて大切なのは、ボールを保持した時にプレーエリアを確保しながら、崩されないこと。そのために特に大事なのがお尻まわり。お尻の筋力は、スポーツ全般において重要ですよね。人間の一番大きな筋肉は臀筋(でんきん)です。力強い動きはすべてお尻が原動力になっている、と言って差し支えないでしょう」(友岡)

「あとは背中ですね。相手を押さえ、踏ん張ってコントロールする能力は、攻撃でも守備でも大事。その時にはお尻とともに、背中の筋力が必要です。背中のどこの部分、というよりも全体ですね。

そもそも、サッカー選手だから上半身の筋トレは必要ない、と考えるのは絶対にダメです。ウチに来るJリーガーに聞くと、チームで上半身を鍛えることがほとんどないそうです。そこは改善すべきだと思います。

サッカー選手に多いのが、股関節の負傷。これは体幹の筋力不足などさまざまな原因が考えられますが、上半身の筋力不足もあると僕は思っています。上半身の筋力と柔軟性が足らないことで、上半身と下半身が上手く連動せず、結果、下半身によけいな負担がかかる。あくまで推測ですが、そんな気もしています」(多良)

※参考動画

スケーター・スクワット フロントローデッド・フォワードランジ
インバーテッド・ロウ

■筋肉の収縮スピードを高める「パワートレーニング」に取り組むべき

次に、サッカー選手はどのようなトレーニングをどのように行うべきなのだろうか。

「必要なのは、高強度のパワートレーニングです。パワーとは筋力×スピード。一般的なウエイトトレーニングが筋量を増やし、最大筋力を向上させるものであるのに対し、パワートレーニングで重視されるのは、筋肉の収縮スピードです。

パワートレーニングは大きく二つに分けられます。一つ目が、MAXの80~90%をごく少ない数(目安は3回以内)で行うもの。二つ目が、MAXの30~40%程度を素早い動きで行うものです。

一つ目の目的は、より重いものを持ち上げるパワーを養うことです。ラグビーやアメリカンフットボール、レスリングの選手などに有効なトレーニングですね。そして二つ目はテニスなど、軽い負荷に対して素早い動きをするスポーツに有効なトレーニングです。

サッカーは基本的な動きとしては後者に近いですが、ボディコンタクトの強さも必要。世界で戦うためには、そこは避けて通れません。ですから、両方のトレーニングを時期に応じて行っていくべきです。

ただし、まだ身体ができていない場合は、筋量を増やして最大筋力を高めることから始めます。最初はREP数を12~15回に設定した低~中負荷のウエイトトレーニングを行い、筋持久力を高め、筋繊維を太くしていきます。そこでベースができたら、REP数は減らしつつ、MAXに近い重量でトレーニングを行って最大筋力を高めていきます。プロ選手を含め、多くの日本のサッカー選手は、正直、この段階がまだクリアできていません。

高強度のパワートレーニングを行うのは、その後の段階です。行うメニューは選手によって異なりますが、スクワットやデッドリフト、ベンチプレス、クイックリフトなど。例えばドームアスリートハウスに来ているJリーガーを例に取ると、週末のゲームが終わった翌週前半、REP数を例えば12~15回に設定した低~中負荷のパワートレーニングを2日ほど行い、試合2~3日前には高負荷のパワートレーニングを行います。種目も最低限にとどめ、REP数を各2回程度に設定することで、疲労を残さないようにします。疲労度合いはREP数によるところが多いので、高負荷でもREP数を抑えれば、疲れは残りにくくなります。

パワートレーニングは速い動きで行うので、筋肉や神経の反応能力を上げることができ、ムダなバルクアップはありません。サッカー選手には非常に有効だと思います」(友岡)

■ユース年代の取り組みが重要

サッカー日本代表が世界と互角に戦えるフィジカルを身につけるには、Jリーガーの意識改革も重要だが、高校サッカーやユースチームのトレーニングを変えていくことも必要だ。

「例えば高校サッカーは、1年中試合数があります。それにすべて勝ちに行こうとすると、じっくり体作りを行う時間がありません。テストステロンが出始める高校生ぐらいの年代は、最も身体を強く、大きくできる時期。それなのに、身体作りができないのはもったいない。最も筋量が取れるのはその時期なので、指導者の方々は選手の将来を考えていただきたいですね」(多良)

「例えば3カ月ほど身体作りを重視する期間を作れば、高校生はものすごく変わりますよ。僕が見ているある高校も、時期を決めて徹底的に筋力トレーニングを行ったら、大学生にも当たり負けないようになりました。これは僕らがずっと訴え続けていることで、他競技でもそうですが、世界で戦っていくためには、15~18歳の年代でしっかりと筋力トレーニングに取り組んで身体を大きくしてほしいです。

もっと言えば、中学生のころから、高校で本格的に筋力トレーニングに取り組むための準備をしてほしい。例えばスクワットやデッドリフトは、正しいフォームで行うのが難しいんです。もちろん、中学生のうちは重い重量のバーベルを挙げたりする必要はありません。早いうちから、自体重を使ったり、バーだけで行うなどで、練習後の補強運動として取り組んでほしいですね。

それによって正しい身体の使い方を覚えれば、スムーズに高校でウエイトトレーニングに取り組むことができます。そして、正しい身体の使い方を知ることは、サッカーの動きの向上にもつながります。指導者の方にはぜひ、そこも考慮していただきたいですね」

二人のトレーナーが指摘するように、日本代表が世界で勝つためにクリアせねばならぬハードルは多々ある。少しずつでも状況を変えるべく、われわれは今後も有益な情報を発信し、改革の声を上げ続けていきたいと思う。

(前編を読む)

 




Text:
前田成彦
DESIRE TO EVOLUTION編集長(株式会社ドーム コンテンツ企画部所属)。学生~社会人にてアメリカンフットボールを経験。趣味であるブラジリアン柔術の競技力向上、そして学生時代のベンチプレスMAX超えを目標に奮闘するも、誘惑に負け続ける日々を送る。お気に入りのマッスルメイトはホエイSP。

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日本人のサッカー選手は世界で戦っていくための正しい身体作りができていない。正しい筋力トレーニングを正しいタイミングで行い、適切に栄養を摂取すれば、日本人でも世界トップクラスの国々と互角に渡り合える身体能力を身につけられる。

前編に続き、ドームアスリートハウスのジェネラルマネージャー・友岡和彦、自らもサッカー経験者であり、Jリーガーのトレーニング指導を現在手がけるトレーナー・多良耕太郎に、日本のサッカー選手が世界で勝つために行うべきトレーニングについて、語ってもらった。

■サッカー選手にも、上半身の筋トレは必要である

ではまず、サッカー選手が筋力トレーニングで最も鍛えるべき箇所はどこなのだろうか。

「ポジションによって違うため簡単には言えませんが、すべてのポジションに必要なのはコア。体幹の強さですよね。これは疑う余地はありません。ただし、コアを鍛えるだけではもちろんダメです。

サッカーのボディコンタクトにおいて大切なのは、ボールを保持した時にプレーエリアを確保しながら、崩されないこと。そのために特に大事なのがお尻まわり。お尻の筋力は、スポーツ全般において重要ですよね。人間の一番大きな筋肉は臀筋(でんきん)です。力強い動きはすべてお尻が原動力になっている、と言って差し支えないでしょう」(友岡)

「あとは背中ですね。相手を押さえ、踏ん張ってコントロールする能力は、攻撃でも守備でも大事。その時にはお尻とともに、背中の筋力が必要です。背中のどこの部分、というよりも全体ですね。

そもそも、サッカー選手だから上半身の筋トレは必要ない、と考えるのは絶対にダメです。ウチに来るJリーガーに聞くと、チームで上半身を鍛えることがほとんどないそうです。そこは改善すべきだと思います。

サッカー選手に多いのが、股関節の負傷。これは体幹の筋力不足などさまざまな原因が考えられますが、上半身の筋力不足もあると僕は思っています。上半身の筋力と柔軟性が足らないことで、上半身と下半身が上手く連動せず、結果、下半身によけいな負担がかかる。あくまで推測ですが、そんな気もしています」(多良)

※参考動画

スケーター・スクワット フロントローデッド・フォワードランジ
インバーテッド・ロウ

■筋肉の収縮スピードを高める「パワートレーニング」に取り組むべき

次に、サッカー選手はどのようなトレーニングをどのように行うべきなのだろうか。

「必要なのは、高強度のパワートレーニングです。パワーとは筋力×スピード。一般的なウエイトトレーニングが筋量を増やし、最大筋力を向上させるものであるのに対し、パワートレーニングで重視されるのは、筋肉の収縮スピードです。

パワートレーニングは大きく二つに分けられます。一つ目が、MAXの80~90%をごく少ない数(目安は3回以内)で行うもの。二つ目が、MAXの30~40%程度を素早い動きで行うものです。

一つ目の目的は、より重いものを持ち上げるパワーを養うことです。ラグビーやアメリカンフットボール、レスリングの選手などに有効なトレーニングですね。そして二つ目はテニスなど、軽い負荷に対して素早い動きをするスポーツに有効なトレーニングです。

サッカーは基本的な動きとしては後者に近いですが、ボディコンタクトの強さも必要。世界で戦うためには、そこは避けて通れません。ですから、両方のトレーニングを時期に応じて行っていくべきです。

ただし、まだ身体ができていない場合は、筋量を増やして最大筋力を高めることから始めます。最初はREP数を12~15回に設定した低~中負荷のウエイトトレーニングを行い、筋持久力を高め、筋繊維を太くしていきます。そこでベースができたら、REP数は減らしつつ、MAXに近い重量でトレーニングを行って最大筋力を高めていきます。プロ選手を含め、多くの日本のサッカー選手は、正直、この段階がまだクリアできていません。

高強度のパワートレーニングを行うのは、その後の段階です。行うメニューは選手によって異なりますが、スクワットやデッドリフト、ベンチプレス、クイックリフトなど。例えばドームアスリートハウスに来ているJリーガーを例に取ると、週末のゲームが終わった翌週前半、REP数を例えば12~15回に設定した低~中負荷のパワートレーニングを2日ほど行い、試合2~3日前には高負荷のパワートレーニングを行います。種目も最低限にとどめ、REP数を各2回程度に設定することで、疲労を残さないようにします。疲労度合いはREP数によるところが多いので、高負荷でもREP数を抑えれば、疲れは残りにくくなります。

パワートレーニングは速い動きで行うので、筋肉や神経の反応能力を上げることができ、ムダなバルクアップはありません。サッカー選手には非常に有効だと思います」(友岡)

■ユース年代の取り組みが重要

サッカー日本代表が世界と互角に戦えるフィジカルを身につけるには、Jリーガーの意識改革も重要だが、高校サッカーやユースチームのトレーニングを変えていくことも必要だ。

「例えば高校サッカーは、1年中試合数があります。それにすべて勝ちに行こうとすると、じっくり体作りを行う時間がありません。テストステロンが出始める高校生ぐらいの年代は、最も身体を強く、大きくできる時期。それなのに、身体作りができないのはもったいない。最も筋量が取れるのはその時期なので、指導者の方々は選手の将来を考えていただきたいですね」(多良)

「例えば3カ月ほど身体作りを重視する期間を作れば、高校生はものすごく変わりますよ。僕が見ているある高校も、時期を決めて徹底的に筋力トレーニングを行ったら、大学生にも当たり負けないようになりました。これは僕らがずっと訴え続けていることで、他競技でもそうですが、世界で戦っていくためには、15~18歳の年代でしっかりと筋力トレーニングに取り組んで身体を大きくしてほしいです。

もっと言えば、中学生のころから、高校で本格的に筋力トレーニングに取り組むための準備をしてほしい。例えばスクワットやデッドリフトは、正しいフォームで行うのが難しいんです。もちろん、中学生のうちは重い重量のバーベルを挙げたりする必要はありません。早いうちから、自体重を使ったり、バーだけで行うなどで、練習後の補強運動として取り組んでほしいですね。

それによって正しい身体の使い方を覚えれば、スムーズに高校でウエイトトレーニングに取り組むことができます。そして、正しい身体の使い方を知ることは、サッカーの動きの向上にもつながります。指導者の方にはぜひ、そこも考慮していただきたいですね」

二人のトレーナーが指摘するように、日本代表が世界で勝つためにクリアせねばならぬハードルは多々ある。少しずつでも状況を変えるべく、われわれは今後も有益な情報を発信し、改革の声を上げ続けていきたいと思う。

(前編を読む)