競技パフォーマンスUP

フィジカル・モンスターとなりて、絶対王者に挑め。 東海大学シーゲイルズはなぜ「デカい」のか。なぜ「強い」のか(前編)

フィジカル・モンスターとなりて、絶対王者に挑め。 東海大学シーゲイルズはなぜ「デカい」のか。なぜ「強い」のか(前編)

DESIRE TO EVOLUTION

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フィジカル・モンスターとなりて、絶対王者に挑め。 東海大学シーゲイルズはなぜ「デカい」のか。なぜ「強い」のか(前編)

フィジカル・モンスターとなりて、絶対王者に挑め。 東海大学シーゲイルズはなぜ「デカい」のか。なぜ「強い」のか(前編)

圧倒的パワーと強靭なフィットネス、そこに豊富な経験を上乗せした大型選手をそろえ、今年「打倒・帝京」の一番手として注目される、東海大ラグビー部シーゲイルズ。卓越したリーダーシップを発揮する藤田貴大主将(FL)のもと、躍進が期待される2015年。大学選手権6連覇中の絶対王者を倒し、日本一の座を虎視眈々と狙う彼らは、なぜ「デカい」のか。なぜ「強い」のか。前編となる今回はその理由を、木村季由GM兼監督に話を聞きながら、探っていく。

彼らはただ単に素質に恵まれた大型選手をかき集めているわけでも、やみくもに長時間練習を行っているわけでも、決してない。近年の好成績は、選手達のウエイトトレーニングと栄養摂取への真摯な取り組み、そして、木村監督が大学と連携し、長い年月をかけて築き上げたシステムを抜きに語れない。そしてその根底には、変化を続ける現代ラグビーに対応し、トップリーグそして日本代表で活躍する選手を育てるための、確固たるフィロソフィーがある。

彼らはいかにして関東大学リーグ戦を制し、絶対王者へと挑むのか。その取り組みからは、学生スポーツが抱えるさまざまな課題も浮かび上がる。ラグビーが好きな方だけでなく、あらゆるスポーツに携わる方達に、ぜひご一読いただきたい。


■体格を言い訳にするぐらいなら、日本人はラグビーなんてやめればいい。

ラグビー・関東大学リーグ戦の強豪として名を馳せる東海大シーゲイルズ。現・日本代表キャプテンのリーチ・マイケルらを擁し、2009年度には大学選手権準優勝。昨年度もベスト4と、近年は大学選手権上位の常連チームへと成長を遂げている。

彼らの強さの源にあるもの。それは圧倒的なパワーとフィットネス(※ラグビーにおいて、この言葉は基本的に「試合で動き続けるための身体能力・心肺機能」という意味で使われる。以下すべて同じ)だ。彼らの選手としての完成度の高さは、現在、50人を超える選手が大学卒業後にトップリーグでプレーしていることからも自明だ。

「トップリーグの指導者などさまざまな方がおっしゃって下さるのが『東海大の卒業生はすぐに使える』ということ。身体ができていて、基本プレーがしっかりしており、その水準が高い。そして、人の話を素直に聞ける。だから、入ってすぐにゲームで使えるのだそうです。


東海大学ラグビー部 木村監督

そのご指摘は、私達にとって最もうれしいことです。なぜなら、選手達のゴールはここではなく、もっと先にあるから。昔は多少、大学で完全燃焼しておしまい、という雰囲気もあった。でも今、そんな選手はいません。トップリーグで活躍し、日本代表に選ばれ、世界の舞台で活躍する。そこまでの、はっきりとした一つの道筋がある。だから私達は今、ここで頭打ちになるような指導をするつもりはまったくありません」と木村監督。

今、ラグビー日本代表は、9月にイングランドで行われるワールドカップでの初勝利、そして準々決勝進出を目指す。そして世界のラグビーの最高峰といわれるスーパーラグビーには、東海大卒のリーチ マイケル選手(東芝/FL)、そしてDNSの契約アスリートである山田章仁選手(パナソニック/WTB)ら6選手が参戦。しかし、日本のラグビー選手のフィジカルが世界のトップに追いついたとは、まだまだ言い難いのが現状だ。

「おそらく今、世界で戦っている選手は、圧倒的な体力差を感じていることでしょう。でも本来、パワーとフィットネスにおける世界との差は、もっと詰めることができる。それなのに国際試合で負けた後、スタッフの中で『ストレングス&コンディショニングがダメだった。技術的には勝負できる面もあったが、最終的には体力で負けてしまった』という意見が、今も出てくる。
パワーとフィットネスは、やりさえすれば伸びる部分だし、やり方だって、いくらでもある。

技術とフィジカルは表裏一体。スキルは、フィジカルがあってこそ生きる。激しいコンタクトの応酬の中で発揮できるスキルでないと、意味がないんです。

すべては一体化していることで、これは、ただやりさえすれば解決できる話。そもそも、身体が大きくなければ勝てないのであれば、日本人はラグビーなんてやらなければいい。つまらない言い訳をして何もしないのであれば、日本のラグビーに将来なんてありません。

確かに、上背には限界がある。そもそも、190cm100kgの日本人でラグビーをやる子自体、それほどたくさんはいませんからね。でも横は大きくできるし、身体そのものも、いくらでも強くできる。例え身長160cm台だって、絶対に勝負できる。ポジション特性は当然ありますが、ラグビーを単なるサイズだけで語ることほど、つまらないものはない」

では東海大シーゲイルズはその「やりさえすれば伸びる」部分を、いかにして大学ラグビー界屈指のレベルまで引き上げたのか。


■ブレイクダウンを制するために求められる、モビリティの高いFWとパワフルなBK。

東海大の取り組みを紹介する前に、昨今の大学ラグビーのトレンドについて、簡単に説明しておきたい。

まず、ここ10年弱で大きく変化したのが大学の勢力図だ。現在、圧倒的な強さで大学ラグビー界をリードするのが帝京大。彼らは大きく、強く、動けるFWと、パワフルかつ強くて速いBKをそろえ、大学選手権を6連覇中である。昨シーズンは対抗戦グループで早稲田、慶應、明治の伝統校をいずれも寄せつけずに圧勝。そして大学選手権を制し、日本選手権ではNECグリーンロケッツに勝利。打倒トップリーグをも成し遂げた。

帝京大の躍進と並行して、ラグビーの戦術と選手に求められる資質も大きく変わった。日本代表のエディ・ジョーンズHCが標榜する「ジャパン・ウェイ」。その流れの中で今、勝敗のカギとなるのがブレイクダウン(=接点。タックル成立後のボールの奪い合い)だ。

ブレイクダウンを制するために大事なのは、何といってもフィジカル。すなわち筋力トレーニングをベースとしたパワーと、それを支える体重、そしてフィットネスである。

かつてのラグビーは違った。FWはサイズとパワーを全面に出し、ハードにコンタクトし、スクラムを押せばいい。BKは快足を飛ばし、相手を抜き去り、タックルをかわしてトライを奪えばいい。そんな風にFWとBKの役割は明確に分けられ、それぞれのポジション特性は異なった。だが現代のラグビーは違う。FWはパワーだけでなく、局地戦を制するための高度なモビリティを有さねばならない。そしてBKはスピードの他、ハードなコンタクトに耐え、それを制する強い身体とパワーが必要とされる。

そんな状況に伴い「伝統」の名のもとに行われる目的の曖昧な非合理的練習や根性論がまかり通る時代は終わった。そして帝京大を始めとする現在のトップチームは科学的かつ合理的なトレーニングと身体作りのメソッドを取り入れ、大学側の手厚いサポートも得ながら、着実にチーム力を伸ばし続けている。

東海大シーゲイルズは、その流れの一翼を担う存在だ。平均体重100kg近い”動ける”強力FWと”速くて強い”BKが徹底的に鍛え上げたパワーとフィットネスを武器に縦横無尽に動き回り、シンプルかつ激しく、基本に忠実なプレーで対戦相手を圧倒する。そんなハイテンポでパワフルなラグビーが、彼らの目指すスタイルだ。


■練習・筋力トレーニング・栄養摂取の3つが、ワンパッケージとして連動する。

彼らの躍進。その原動力の一つが、スキル練習と筋力トレーニング、そして栄養摂取をワンパッケージで動かす、優れた運営システムだろう。

週間スケジュールを聞けば、彼らがウエイトトレーニングをグラウンドでの練習と同等に重視していることがわかる。まず火・木曜は、早朝に1時間半ほどFWとBKに分かれて練習をこなし、昼間は各自授業に出席。夕方からウエイトトレーニングを90分ほど。水・金曜は午後から同じようにウエイトトレーニングを行い、夕方に1時間半~2時間、グラウンドで練習。そして土日は試合を行う。

ウエイトトレーニングは元パワーリフターの原将浩ストレングスコーチの檄のもと、週4回、学内のトレーニング施設にて全員で行われる。(1)胸・肩・上腕三頭筋(2)足、背中上部(3)肩・上腕三頭筋など(4)背中下部・足(ジャンプ系など)という4つのパターンを、週1回ずつでこなしている。春であろうと秋のシーズン中であろうと、身体に強い負荷をかけ続けることに変わりはない。



そしてベンチプレス、スクワット、ハイクリーンのMAX値そしてシャトルランのタイムを、3月、5月、7月、9月とシーズン中に一度の年間計5回、測定を行ってチェック。体脂肪率や筋肉量などの体組成データと合わせて管理している。目標値をクリアできていない選手は原則的に、Aチームへの昇格と試合出場は許されない。

実際に、彼らはデカい。例えばキャプテンの藤田貴大選手(FL)。彼は175cmと身長は決して高くないが、体重は入学時の87kgから9kgアップして、現在96kg。しかも、それはただ太ったわけではまったくない。入学時の脂肪の多い身体を絞り込んでの9kgアップであり、現在のMAXはベンチプレスが170kg、スクワットが270kg。そして1年生にも大型選手がそろい、中でも筒井エディ稜史選手(PR/LO)はデッドリフト230kgを8~10回こなし、MAXは270kg。東海大OBで現在東芝ブレイブルーパスで活躍する村山廉選手が持つ大学時代の記録・290kgを超えることを期待されている。

そして練習後やトレーニング後30分のゴールデンタイムを逃さないための、栄養摂取面の工夫も抜かりない。選手達は全員、選手は大学の周囲にあるラグビー部専用の二つの寮で生活。食事は朝と夜については学内の食堂を利用し、一般学生用とは別の増量を考慮した専用メニューを、お腹いっぱいになるまで食べられる。

昼は授業の合間に寮で自炊をしたり、外食をしたりと自由だが、選手は自炊のために各自の炊飯器を持ち込むのが慣習化。昼食だけで米を二合たいらげる選手もざらだという。そして当然ながら、食事だけで補いきれない分はプロテインBCAAグルタミンなど、サプリメントも摂取。選手達は補食を含め、1日5~6食をしっかり摂る。

「練習やトレーニングが終わった後、30分以内に食事を摂れる環境です。グラウンドで、トレーニング場で、やったことのすべての後、すぐに食事が待っていて、好きなだけ食べられる。練習とトレーニングと栄養摂取。その3つがワンパッケージとして連動していて、どれが欠けてもダメです。サプリメントもきちんとプログラムも組んでいただいているので、栄養摂取への選手の意識はかなり高いと思います。

食べずに練習やトレーニングをしていると、体重が途端に落ちてしまいます。ですからきちんと食べているか、私も時々ようすを見に行きます。『どれだけ食べるんだ!』と驚くぐらい、みんなよく食べますけれども(笑)。

経験のある方はわかると思いますが、増量は苦しいもの。太らない子はよく『食べられないのは体質なんです』と言いますよね。でも、それは違う。体質じゃなくて、食べ方です。食べ方が悪かったり、自分の限界を勝手に決めてしまっているだけ。トレーニングと同じで、内臓にもオーバーロードの原則がある。それなのにちょうどいい腹具合で『今日はたくさん食べたなあ』じゃダメ。1回で食べられないなら補食を増やすなどして、そこは徹底的に変えました。

その意識を浸透させるのは時間もかかりますし、選手にはずっと言い続けました。大事なのは成功体験。『増えたからこうなった。だから勝てた』というように、結果を結びつけていかないと、熱も入らない。『それはわかっています。でも…』となる。その『でも』をなくすことです。たくさん食べてトレーニングを頑張る=ラグビーがよくできるようになる。その意識をさせることです。

ウチは春の時期、シンプルなぶつかり合いの練習を多く行います。そのベースにあるのは身体作り。だから、なぜこのぶつかり合いが大切で、そのためにはどれだけの身体的な資源が必要なのか、そして、どれぐらいの筋力トレーニングが必要なのか。それをきちんと理屈として落とし込み、その上で体重としっかり食べることの重要性を説いていきます。つまり、すべてのことには理由があり、つながっている。そこに『体重を増やすと身体が重くなって、走るのがしんどい』『俺はかわすプレースタイルだから』という、日本一のチームを作る上で合理性を欠く理屈の入り込む余地など、まったくない。


※ウェイトトレーニング終了後、10分足らずで、激しいぶつかり合いの練習に移行する。

それは、生活面でも一緒。例えば、ちゃんと寝ない子は身体が大きくならない。寝ない選手に限って、夜にベッドに入ってからスマートフォンをいじっていたりする。そんなものをいじっていたら、目がチカチカして眠りが浅くなるのは誰でもわかることです。

自分の1日をきちんとマネジメントできない人間が、自分の身体を強くすることはできません。われわれは選手を管理しているのではなく、考える力を求めています。大事な試合の最後は結局『個』です。こちらはきっかけを作ったりフォローしたりはできますが、そこまで。

例えば、ベンチプレスを100kg挙げられるパワーをもっている選手が90kgを挙げて『これでいいや』となっていたら、そんなものはトレーニングじゃない。ただバーを上げているだけのこと。その選手がきついけれども頑張って、105kgにチャレンジする。それがトレーニングです。そこをやるのは本人。そういった自覚のある選手を育て、彼らの力を最大限に伸ばすことが、われわれスタッフの仕事なんです」

 

後編へ続く

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圧倒的パワーと強靭なフィットネス、そこに豊富な経験を上乗せした大型選手をそろえ、今年「打倒・帝京」の一番手として注目される、東海大ラグビー部シーゲイルズ。卓越したリーダーシップを発揮する藤田貴大主将(FL)のもと、躍進が期待される2015年。大学選手権6連覇中の絶対王者を倒し、日本一の座を虎視眈々と狙う彼らは、なぜ「デカい」のか。なぜ「強い」のか。前編となる今回はその理由を、木村季由GM兼監督に話を聞きながら、探っていく。

彼らはただ単に素質に恵まれた大型選手をかき集めているわけでも、やみくもに長時間練習を行っているわけでも、決してない。近年の好成績は、選手達のウエイトトレーニングと栄養摂取への真摯な取り組み、そして、木村監督が大学と連携し、長い年月をかけて築き上げたシステムを抜きに語れない。そしてその根底には、変化を続ける現代ラグビーに対応し、トップリーグそして日本代表で活躍する選手を育てるための、確固たるフィロソフィーがある。

彼らはいかにして関東大学リーグ戦を制し、絶対王者へと挑むのか。その取り組みからは、学生スポーツが抱えるさまざまな課題も浮かび上がる。ラグビーが好きな方だけでなく、あらゆるスポーツに携わる方達に、ぜひご一読いただきたい。


■体格を言い訳にするぐらいなら、日本人はラグビーなんてやめればいい。

ラグビー・関東大学リーグ戦の強豪として名を馳せる東海大シーゲイルズ。現・日本代表キャプテンのリーチ・マイケルらを擁し、2009年度には大学選手権準優勝。昨年度もベスト4と、近年は大学選手権上位の常連チームへと成長を遂げている。

彼らの強さの源にあるもの。それは圧倒的なパワーとフィットネス(※ラグビーにおいて、この言葉は基本的に「試合で動き続けるための身体能力・心肺機能」という意味で使われる。以下すべて同じ)だ。彼らの選手としての完成度の高さは、現在、50人を超える選手が大学卒業後にトップリーグでプレーしていることからも自明だ。

「トップリーグの指導者などさまざまな方がおっしゃって下さるのが『東海大の卒業生はすぐに使える』ということ。身体ができていて、基本プレーがしっかりしており、その水準が高い。そして、人の話を素直に聞ける。だから、入ってすぐにゲームで使えるのだそうです。


東海大学ラグビー部 木村監督

そのご指摘は、私達にとって最もうれしいことです。なぜなら、選手達のゴールはここではなく、もっと先にあるから。昔は多少、大学で完全燃焼しておしまい、という雰囲気もあった。でも今、そんな選手はいません。トップリーグで活躍し、日本代表に選ばれ、世界の舞台で活躍する。そこまでの、はっきりとした一つの道筋がある。だから私達は今、ここで頭打ちになるような指導をするつもりはまったくありません」と木村監督。

今、ラグビー日本代表は、9月にイングランドで行われるワールドカップでの初勝利、そして準々決勝進出を目指す。そして世界のラグビーの最高峰といわれるスーパーラグビーには、東海大卒のリーチ マイケル選手(東芝/FL)、そしてDNSの契約アスリートである山田章仁選手(パナソニック/WTB)ら6選手が参戦。しかし、日本のラグビー選手のフィジカルが世界のトップに追いついたとは、まだまだ言い難いのが現状だ。

「おそらく今、世界で戦っている選手は、圧倒的な体力差を感じていることでしょう。でも本来、パワーとフィットネスにおける世界との差は、もっと詰めることができる。それなのに国際試合で負けた後、スタッフの中で『ストレングス&コンディショニングがダメだった。技術的には勝負できる面もあったが、最終的には体力で負けてしまった』という意見が、今も出てくる。
パワーとフィットネスは、やりさえすれば伸びる部分だし、やり方だって、いくらでもある。

技術とフィジカルは表裏一体。スキルは、フィジカルがあってこそ生きる。激しいコンタクトの応酬の中で発揮できるスキルでないと、意味がないんです。

すべては一体化していることで、これは、ただやりさえすれば解決できる話。そもそも、身体が大きくなければ勝てないのであれば、日本人はラグビーなんてやらなければいい。つまらない言い訳をして何もしないのであれば、日本のラグビーに将来なんてありません。

確かに、上背には限界がある。そもそも、190cm100kgの日本人でラグビーをやる子自体、それほどたくさんはいませんからね。でも横は大きくできるし、身体そのものも、いくらでも強くできる。例え身長160cm台だって、絶対に勝負できる。ポジション特性は当然ありますが、ラグビーを単なるサイズだけで語ることほど、つまらないものはない」

では東海大シーゲイルズはその「やりさえすれば伸びる」部分を、いかにして大学ラグビー界屈指のレベルまで引き上げたのか。


■ブレイクダウンを制するために求められる、モビリティの高いFWとパワフルなBK。

東海大の取り組みを紹介する前に、昨今の大学ラグビーのトレンドについて、簡単に説明しておきたい。

まず、ここ10年弱で大きく変化したのが大学の勢力図だ。現在、圧倒的な強さで大学ラグビー界をリードするのが帝京大。彼らは大きく、強く、動けるFWと、パワフルかつ強くて速いBKをそろえ、大学選手権を6連覇中である。昨シーズンは対抗戦グループで早稲田、慶應、明治の伝統校をいずれも寄せつけずに圧勝。そして大学選手権を制し、日本選手権ではNECグリーンロケッツに勝利。打倒トップリーグをも成し遂げた。

帝京大の躍進と並行して、ラグビーの戦術と選手に求められる資質も大きく変わった。日本代表のエディ・ジョーンズHCが標榜する「ジャパン・ウェイ」。その流れの中で今、勝敗のカギとなるのがブレイクダウン(=接点。タックル成立後のボールの奪い合い)だ。

ブレイクダウンを制するために大事なのは、何といってもフィジカル。すなわち筋力トレーニングをベースとしたパワーと、それを支える体重、そしてフィットネスである。

かつてのラグビーは違った。FWはサイズとパワーを全面に出し、ハードにコンタクトし、スクラムを押せばいい。BKは快足を飛ばし、相手を抜き去り、タックルをかわしてトライを奪えばいい。そんな風にFWとBKの役割は明確に分けられ、それぞれのポジション特性は異なった。だが現代のラグビーは違う。FWはパワーだけでなく、局地戦を制するための高度なモビリティを有さねばならない。そしてBKはスピードの他、ハードなコンタクトに耐え、それを制する強い身体とパワーが必要とされる。

そんな状況に伴い「伝統」の名のもとに行われる目的の曖昧な非合理的練習や根性論がまかり通る時代は終わった。そして帝京大を始めとする現在のトップチームは科学的かつ合理的なトレーニングと身体作りのメソッドを取り入れ、大学側の手厚いサポートも得ながら、着実にチーム力を伸ばし続けている。

東海大シーゲイルズは、その流れの一翼を担う存在だ。平均体重100kg近い”動ける”強力FWと”速くて強い”BKが徹底的に鍛え上げたパワーとフィットネスを武器に縦横無尽に動き回り、シンプルかつ激しく、基本に忠実なプレーで対戦相手を圧倒する。そんなハイテンポでパワフルなラグビーが、彼らの目指すスタイルだ。


■練習・筋力トレーニング・栄養摂取の3つが、ワンパッケージとして連動する。

彼らの躍進。その原動力の一つが、スキル練習と筋力トレーニング、そして栄養摂取をワンパッケージで動かす、優れた運営システムだろう。

週間スケジュールを聞けば、彼らがウエイトトレーニングをグラウンドでの練習と同等に重視していることがわかる。まず火・木曜は、早朝に1時間半ほどFWとBKに分かれて練習をこなし、昼間は各自授業に出席。夕方からウエイトトレーニングを90分ほど。水・金曜は午後から同じようにウエイトトレーニングを行い、夕方に1時間半~2時間、グラウンドで練習。そして土日は試合を行う。

ウエイトトレーニングは元パワーリフターの原将浩ストレングスコーチの檄のもと、週4回、学内のトレーニング施設にて全員で行われる。(1)胸・肩・上腕三頭筋(2)足、背中上部(3)肩・上腕三頭筋など(4)背中下部・足(ジャンプ系など)という4つのパターンを、週1回ずつでこなしている。春であろうと秋のシーズン中であろうと、身体に強い負荷をかけ続けることに変わりはない。



そしてベンチプレス、スクワット、ハイクリーンのMAX値そしてシャトルランのタイムを、3月、5月、7月、9月とシーズン中に一度の年間計5回、測定を行ってチェック。体脂肪率や筋肉量などの体組成データと合わせて管理している。目標値をクリアできていない選手は原則的に、Aチームへの昇格と試合出場は許されない。

実際に、彼らはデカい。例えばキャプテンの藤田貴大選手(FL)。彼は175cmと身長は決して高くないが、体重は入学時の87kgから9kgアップして、現在96kg。しかも、それはただ太ったわけではまったくない。入学時の脂肪の多い身体を絞り込んでの9kgアップであり、現在のMAXはベンチプレスが170kg、スクワットが270kg。そして1年生にも大型選手がそろい、中でも筒井エディ稜史選手(PR/LO)はデッドリフト230kgを8~10回こなし、MAXは270kg。東海大OBで現在東芝ブレイブルーパスで活躍する村山廉選手が持つ大学時代の記録・290kgを超えることを期待されている。

そして練習後やトレーニング後30分のゴールデンタイムを逃さないための、栄養摂取面の工夫も抜かりない。選手達は全員、選手は大学の周囲にあるラグビー部専用の二つの寮で生活。食事は朝と夜については学内の食堂を利用し、一般学生用とは別の増量を考慮した専用メニューを、お腹いっぱいになるまで食べられる。

昼は授業の合間に寮で自炊をしたり、外食をしたりと自由だが、選手は自炊のために各自の炊飯器を持ち込むのが慣習化。昼食だけで米を二合たいらげる選手もざらだという。そして当然ながら、食事だけで補いきれない分はプロテインBCAAグルタミンなど、サプリメントも摂取。選手達は補食を含め、1日5~6食をしっかり摂る。

「練習やトレーニングが終わった後、30分以内に食事を摂れる環境です。グラウンドで、トレーニング場で、やったことのすべての後、すぐに食事が待っていて、好きなだけ食べられる。練習とトレーニングと栄養摂取。その3つがワンパッケージとして連動していて、どれが欠けてもダメです。サプリメントもきちんとプログラムも組んでいただいているので、栄養摂取への選手の意識はかなり高いと思います。

食べずに練習やトレーニングをしていると、体重が途端に落ちてしまいます。ですからきちんと食べているか、私も時々ようすを見に行きます。『どれだけ食べるんだ!』と驚くぐらい、みんなよく食べますけれども(笑)。

経験のある方はわかると思いますが、増量は苦しいもの。太らない子はよく『食べられないのは体質なんです』と言いますよね。でも、それは違う。体質じゃなくて、食べ方です。食べ方が悪かったり、自分の限界を勝手に決めてしまっているだけ。トレーニングと同じで、内臓にもオーバーロードの原則がある。それなのにちょうどいい腹具合で『今日はたくさん食べたなあ』じゃダメ。1回で食べられないなら補食を増やすなどして、そこは徹底的に変えました。

その意識を浸透させるのは時間もかかりますし、選手にはずっと言い続けました。大事なのは成功体験。『増えたからこうなった。だから勝てた』というように、結果を結びつけていかないと、熱も入らない。『それはわかっています。でも…』となる。その『でも』をなくすことです。たくさん食べてトレーニングを頑張る=ラグビーがよくできるようになる。その意識をさせることです。

ウチは春の時期、シンプルなぶつかり合いの練習を多く行います。そのベースにあるのは身体作り。だから、なぜこのぶつかり合いが大切で、そのためにはどれだけの身体的な資源が必要なのか、そして、どれぐらいの筋力トレーニングが必要なのか。それをきちんと理屈として落とし込み、その上で体重としっかり食べることの重要性を説いていきます。つまり、すべてのことには理由があり、つながっている。そこに『体重を増やすと身体が重くなって、走るのがしんどい』『俺はかわすプレースタイルだから』という、日本一のチームを作る上で合理性を欠く理屈の入り込む余地など、まったくない。


※ウェイトトレーニング終了後、10分足らずで、激しいぶつかり合いの練習に移行する。

それは、生活面でも一緒。例えば、ちゃんと寝ない子は身体が大きくならない。寝ない選手に限って、夜にベッドに入ってからスマートフォンをいじっていたりする。そんなものをいじっていたら、目がチカチカして眠りが浅くなるのは誰でもわかることです。

自分の1日をきちんとマネジメントできない人間が、自分の身体を強くすることはできません。われわれは選手を管理しているのではなく、考える力を求めています。大事な試合の最後は結局『個』です。こちらはきっかけを作ったりフォローしたりはできますが、そこまで。

例えば、ベンチプレスを100kg挙げられるパワーをもっている選手が90kgを挙げて『これでいいや』となっていたら、そんなものはトレーニングじゃない。ただバーを上げているだけのこと。その選手がきついけれども頑張って、105kgにチャレンジする。それがトレーニングです。そこをやるのは本人。そういった自覚のある選手を育て、彼らの力を最大限に伸ばすことが、われわれスタッフの仕事なんです」

 

後編へ続く