健康・体力・美容UP

Part 105   トレーニングするべきか、しないべきか。それが問題だ。

Part 105
トレーニングするべきか、しないべきか。それが問題だ。

DESIRE TO EVOLUTION

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Part 105   トレーニングするべきか、しないべきか。それが問題だ。

Part 105
トレーニングするべきか、しないべきか。それが問題だ。

  • 目  的:トレーニングの適切なタイミングを知る
  • メリット:効率的なトレーニング計画を立てられる

トレーニングを始めたばかりのころは、誰でも筋肉痛に襲われたはずだ。未体験の痛みにびっくりしたものの、「トレーニングをやった証」を手に入れられて誇りに思うこともあったに違いない。

しかし筋肉は「超回復」によって大きくなるといわれている。筋肉痛がある時は、まだ回復していないのではないか。そうだとしたら、筋肉痛がある状態でトレーニングしても効果はないのではないか。

■超回復のウソ

超回復(Supercompensation)というのは、実は「カーボローディング」において使われる言葉である。グリコーゲンを使い切り、その後で糖質を大量に摂取するとグリコーゲンが普段よりも大量に溜め込まれる、という現象のことである。

この言葉が独り歩きし、筋肉も超回復で発達するといわれるようになってしまった。

しかし実はトレーニングを始めると、即座に筋タンパクの合成は起こるのである(※1, ※2)。そして同時に筋肉の分解も起こっている。超回復というと、分解後に合成が始まるようなニュアンスだが、実際は合成と分解は同時に起こっている。

■筋肉痛の原因はケガなどではない

いわゆる筋肉痛(遅発性筋痛,delayed onset muscle soreness:DOMS)は「ブラジキニン」という痛み物質によって起こる、とされている。

ブラジキニンは神経成長因子(NGF)を発現させ、痛み受容体であるTRPV1を刺激したり、CGRPやBDNFなどの痛みに関与する神経伝達物質の遺伝子発現を誘導したりして、痛みを感じさせるといわれる。

またトレーニングによってプロスタグランジンが発生し、それがGDNF(グリア細胞由来神経栄養因子)を発現させ、Aδ 線維を刺激して痛みを感じさせるという経路もあるとされる(※3)。

■トレーニングのタイミングは

では、筋肉痛のある時にトレーニングはすべきなのだろうか。上に挙げた筋肉痛の原因から考えて、「トレーニングのタイミングを決める指標」としては、あまり関係ないように思われる。

では、どのようにしてタイミングを決めるべきなのだろうか。前述のとおり、トレーニングによって筋肉の合成と分解が起こる。ここで明らかなこととして、次の二点が挙げられるだろう。

・分解が高まっているときはトレーニングしない
・合成が起こっているときはトレーニングしない

まず筋肉の分解が起こるのは、トレーニングで必要となるエネルギーを補給し、トレーニングによるストレスから身体を護るためだ。栄養条件を満たすことによって分解をある程度まで防ぐことは可能だが、ゼロにすることはできない。また合成が起こっている時に再びトレーニングして、合成を重ねがけするのも意味がない。

ラグビー選手を対象に、試合後に血液検査を行った研究がある。そこでは筋肉を分解するホルモンであるコルチゾルが急激に増加していたのだ。試合終了12時間後には、数値にして56%。36時間後には59%の増加を示しており、60時間後も34%増加したままであった(※4)。

次に合成はどうだろう。こちらはトレーニング終了後、少なくとも48時間近くにわたって起こっていることがわかっている(※5、※6、※7, ※8, ※9)。さらにミオスタチンの低下はトレーニング後、50時間が経過しても起こっており、atrogin-1もやはり50時間後において30%低下していた(※10, ※11)。

ミオスタチンとatrogin-1はどちらも「筋肉を減らす」もので、トレーニングによってこれらは低下する。トレーニング後50時間経ってもこれらが低下していたということは、その間ずっと「筋肉を減らす作用が減っていた」ということになる。

これらから考えて、同一部位のトレーニングをする場合、72時間すなわち三日間は間を空けたほうがよさそうだ。それだけ時間が経てば、筋肉痛も通常は消えているだろう。よって結論としては、筋肉痛がある間はトレーニングしないほうが良いということになる。また72時間が経過しても筋肉痛が残っているようなら、栄養や休養が不足している、またはオーバートレーニングと考えた方がいいだろう。

    【参考文献】

    • 1:Increased rates of muscle protein turnover and amino acid transport after resistance exercise in humans. Am J Physiol. 1995 Mar;268(3 Pt 1):E514-20.
    • 2:The Effect of Leucine-Enriched Essential Amino Acid Supplementation on Anabolic and Catabolic Signaling in Human Skeletal Muscle after Acute Resistance Exercise: A Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled, Parallel-Group Comparison Trial Nutrients. 2020 Aug 12;12(8):2421. doi: 10.3390/nu12082421.
    • 3:筋・筋膜性の痛みにおける神経栄養因子の働き 自律神経,56:119-122, 2019
    • 4:Neuromuscular function, hormonal, and mood responses to a professional rugby union match. J Strength Cond Res. 2014 Jan;28(1):194-200. doi: 10.1519/JSC.0b013e318291b726.
    • 5:Anabolic signaling and protein synthesis in human skeletal muscle after dynamic shortening or lengthening exercise. Am J Physiol Endocrinol Metab. 2006 Apr;290(4):E731-8. Epub 2005 Nov 1.
    • 6:The time course for elevated muscle protein synthesis following heavy resistance exercise. Can J Appl Physiol. 1995 Dec;20(4):480-6.
    • 7:Mixed muscle protein synthesis and breakdown after resistance exercise in humans. Am J Physiol. 1997 Jul;273(1 Pt 1):E99-107.
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    • 目  的:トレーニングの適切なタイミングを知る
    • メリット:効率的なトレーニング計画を立てられる

    トレーニングを始めたばかりのころは、誰でも筋肉痛に襲われたはずだ。未体験の痛みにびっくりしたものの、「トレーニングをやった証」を手に入れられて誇りに思うこともあったに違いない。

    しかし筋肉は「超回復」によって大きくなるといわれている。筋肉痛がある時は、まだ回復していないのではないか。そうだとしたら、筋肉痛がある状態でトレーニングしても効果はないのではないか。

    ■超回復のウソ

    超回復(Supercompensation)というのは、実は「カーボローディング」において使われる言葉である。グリコーゲンを使い切り、その後で糖質を大量に摂取するとグリコーゲンが普段よりも大量に溜め込まれる、という現象のことである。

    この言葉が独り歩きし、筋肉も超回復で発達するといわれるようになってしまった。

    しかし実はトレーニングを始めると、即座に筋タンパクの合成は起こるのである(※1, ※2)。そして同時に筋肉の分解も起こっている。超回復というと、分解後に合成が始まるようなニュアンスだが、実際は合成と分解は同時に起こっている。

    ■筋肉痛の原因はケガなどではない

    いわゆる筋肉痛(遅発性筋痛,delayed onset muscle soreness:DOMS)は「ブラジキニン」という痛み物質によって起こる、とされている。

    ブラジキニンは神経成長因子(NGF)を発現させ、痛み受容体であるTRPV1を刺激したり、CGRPやBDNFなどの痛みに関与する神経伝達物質の遺伝子発現を誘導したりして、痛みを感じさせるといわれる。

    またトレーニングによってプロスタグランジンが発生し、それがGDNF(グリア細胞由来神経栄養因子)を発現させ、Aδ 線維を刺激して痛みを感じさせるという経路もあるとされる(※3)。

    ■トレーニングのタイミングは

    では、筋肉痛のある時にトレーニングはすべきなのだろうか。上に挙げた筋肉痛の原因から考えて、「トレーニングのタイミングを決める指標」としては、あまり関係ないように思われる。

    では、どのようにしてタイミングを決めるべきなのだろうか。前述のとおり、トレーニングによって筋肉の合成と分解が起こる。ここで明らかなこととして、次の二点が挙げられるだろう。

    ・分解が高まっているときはトレーニングしない
    ・合成が起こっているときはトレーニングしない

    まず筋肉の分解が起こるのは、トレーニングで必要となるエネルギーを補給し、トレーニングによるストレスから身体を護るためだ。栄養条件を満たすことによって分解をある程度まで防ぐことは可能だが、ゼロにすることはできない。また合成が起こっている時に再びトレーニングして、合成を重ねがけするのも意味がない。

    ラグビー選手を対象に、試合後に血液検査を行った研究がある。そこでは筋肉を分解するホルモンであるコルチゾルが急激に増加していたのだ。試合終了12時間後には、数値にして56%。36時間後には59%の増加を示しており、60時間後も34%増加したままであった(※4)。

    次に合成はどうだろう。こちらはトレーニング終了後、少なくとも48時間近くにわたって起こっていることがわかっている(※5、※6、※7, ※8, ※9)。さらにミオスタチンの低下はトレーニング後、50時間が経過しても起こっており、atrogin-1もやはり50時間後において30%低下していた(※10, ※11)。

    ミオスタチンとatrogin-1はどちらも「筋肉を減らす」もので、トレーニングによってこれらは低下する。トレーニング後50時間経ってもこれらが低下していたということは、その間ずっと「筋肉を減らす作用が減っていた」ということになる。

    これらから考えて、同一部位のトレーニングをする場合、72時間すなわち三日間は間を空けたほうがよさそうだ。それだけ時間が経てば、筋肉痛も通常は消えているだろう。よって結論としては、筋肉痛がある間はトレーニングしないほうが良いということになる。また72時間が経過しても筋肉痛が残っているようなら、栄養や休養が不足している、またはオーバートレーニングと考えた方がいいだろう。

      【参考文献】

      • 1:Increased rates of muscle protein turnover and amino acid transport after resistance exercise in humans. Am J Physiol. 1995 Mar;268(3 Pt 1):E514-20.
      • 2:The Effect of Leucine-Enriched Essential Amino Acid Supplementation on Anabolic and Catabolic Signaling in Human Skeletal Muscle after Acute Resistance Exercise: A Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled, Parallel-Group Comparison Trial Nutrients. 2020 Aug 12;12(8):2421. doi: 10.3390/nu12082421.
      • 3:筋・筋膜性の痛みにおける神経栄養因子の働き 自律神経,56:119-122, 2019
      • 4:Neuromuscular function, hormonal, and mood responses to a professional rugby union match. J Strength Cond Res. 2014 Jan;28(1):194-200. doi: 10.1519/JSC.0b013e318291b726.
      • 5:Anabolic signaling and protein synthesis in human skeletal muscle after dynamic shortening or lengthening exercise. Am J Physiol Endocrinol Metab. 2006 Apr;290(4):E731-8. Epub 2005 Nov 1.
      • 6:The time course for elevated muscle protein synthesis following heavy resistance exercise. Can J Appl Physiol. 1995 Dec;20(4):480-6.
      • 7:Mixed muscle protein synthesis and breakdown after resistance exercise in humans. Am J Physiol. 1997 Jul;273(1 Pt 1):E99-107.